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I家と行く水族館フィールドワーク(2024/02/03/雨)

親子と行く水族館フィールドワークも、これで3回目。年間パスポートを所有する水族館好きの親子と一緒に回ることで、水族館という場を主体的に楽しもうとする子どもと大人の活動を見ることができた。3歳8か月の子どもと親は、同じ言葉を繰り返し、伝わらないことを協力して補い合うことでコミュニケーションが成立していた。


■この日の協力者について

▼フィールドワークに協力してくれた友人I家の家族
私の友人である父33歳=T、娘3歳8か月=Nとして記載する

▼私と家族
私32歳=Y、妻31歳=H

※以下、話者はアルファベットで記載
※発話文中、言葉をはっきりと聞き取れなかった箇所は「~」と記載する
※言い回しで聞き取れなかった箇所は、推測されるおおよその意図から外れない範囲で補足している
※特に印象に残った発話や行動は太字で記載している

■フィールドワーク


13:10 駐車場に到着
Nちゃんは頭の後ろにリボンをつけている。Tいわく、この日は来られなかったTの奥さんが、お出かけ用に張り切って付けてあげたとのこと。雨が少し降る中、手をつないで歩くTとNちゃんと一緒に水族館へ向かう。Tたちも年間パスポートを持っているので、そのまま全員で入口を通過していく。

13:15 水族館に到着
イルカショーが13:30から始まるため、そのままショープールへ向かう。

T:「いつも、もうちょっと遅くつくからさ、イワシ見てイルカ見て帰るみたいなのが多いんよね。いま来たらイルカから見れるんだね。あ、丸ふじじゃん」

ショープール手前で、長机を出して「丸ふじ」という店が弁当を売っている。

Y:「あ、知ってんの?」
T:「北九州だよ」
Y:「へぇー」

『ショープール』

この日は肌寒く客席は冷えそうだったので、Hが温かい飲み物を買いにいってくれた。私とT、Nちゃんは先に観覧席の下側から空いてる席を探し、3人掛けのシートに腰を降ろした。

飲み物を買ったHが、観覧席を見渡しながら我々を探しているのが見える。立ち上がって手を振ってみるものの、なかなか気づかれない。LINEで連絡しようかと思っていると、丁度こちらを発見したようだった。観客席に座っている人を見つけるのは難しく、観客席に向かう人を見つけるのは簡単だ。


Y:「Nちゃんは結構、〇〇〇(この水族館の名前)には来てるの?」
T:「そうねぇ。Nちゃん〇〇〇何回来た?今まで何回来たっけ?」
N:「(小さな声で何かを言う)」
T:「へぇ?」
N:「まえはけっこうきた」
T:「前はけっこう来た」
Y:「前はけっこう来た」
T:「何回目くらい?」
N:「……」

T:「物心、じゃない…赤ちゃんのときから考えたら、もう5回くらい、5、6、7回くらい来てるんじゃないかな」

Y・H:「へぇ~!」

T:「たぶん我が家ほど動物園水族館行ってる家庭はないと思うよ。動物園とか到津の森とかいっぱい行ってるよ」
Y:「そうだよねぇ、Tたち好きだよね」
T:「動物園と水族館合わせたら30回くらい行ってんじゃないかな」
Y:「へぇ~すごーい。もうNちゃんも結構楽しめる?」
T:「うんー、やっぱ楽しいよね(?)。いま動物園が遠くなったからさ、いまだにまえのおうちがよかった、まえのおうちがよかったって言われる。動物園が遠く(?)なったから」(以前T家が住んでいた場所は、すぐそばに動物園があった)

Y:「でも水族館は近くなったよ(半分Nちゃんに向けて声をかけるように)」
T:「でもやっぱ動物園派みたい。水族館の方がさ、気軽に行けないじゃん。ちょっとよし行くぞっていう気持ちもある」
Y:「なるほど、前の距離感からしたらね」

T:「到津(以前通っていた動物園)の時は行って1時間ぐらいで帰ったりとか、公園感覚で。ここはやっぱ飯のこととか考えてこないとね。中で飯食ったらたけぇしね。初めてだったら下のレストランでイルカ見ながら食べてもいいけど、何回も来るともったいない(笑)」


T:「やっぱ夏に来たらかき氷はマストだね。みんな食ってるからNちゃんも言うこと聞かんくなる」


N:「いるかさん~~たっちする
T:「なんてー?」
N:「あのさあのまるいの、たっちする
T:「丸いのタッチするってね」
N:「うん」
T:「そりゃ分からんよ」
N:「~」
T:「タッチするかは分からんよ」

N:「いるかさんのしっ…」
T:「ん-?」
N:「いるかさんのしっぽ
T:「そうだねぇ…あれイルカさんのしっぽじゃなくてヒレだよ、ヒレ。ヒレ」
N:「さめさんもひれあるー?
T:「サメさんもヒレあるよ。お魚さんはみんなついてるの」
N:「どうして?
T:「どうしてっ?
Y:「(笑) 難しいね」
T:「ほら、ヒレがねーと泳げねぇから。…なんか気づいたらなぜなぜ期に入ってるんだよ」
Y:「そうだねぇ」
T:「まじでどうしてって、理由がないことに言われるとほんとにきついよね(笑)」
H:「ははっ(笑)」
T:「どうしてっていうWhyは分かるんよ。“どこで”っていうのをめっちゃ気にするんよ。このおかしはどこでかったの?とか」
Y:「はぁ~」
T:「いやいやスーパーやけど、みたいな(笑) 」

<開演時間が迫り音楽が鳴り始める>

H:「始まった~」

T:「スーパーで買ったよっていったら“どうして?”みたいな(笑) 」
Y:(笑)


いま行っているフィールドワークでどのような観察をするかといったことや、私がいることで子どもの振る舞いも変わるだろうといったことをTと二人で話す。Tの仕事における効果検証の難しさなどを引き合いに、「比較は難しいよね」という話もした。


<アシカショーがはじまる>

アシカの動きに反応して、少しNちゃんがニヤッと笑ったのが見えた。音楽が流れトレーナーさんが手拍子を始めると、Tの膝の上に深く座ってNちゃんが、自分から少し上体を起こして手拍子を始めた


曲が終えた所で、Nちゃんは着ていたポンチョを脱ごうとする。

T:「脱ぐのこれ?いらないのこれ?いらないと?」
N:(うなずいて体をよじる
T:「寒くなるよ。いらいないと?じゃあかけとこっか
そう言って、TはNちゃんの膝の上にポンチョをかけた。


N:「あの~」(どこかを指差している)
T:「あ、なんて?ああ、船ね」
ショープールの向こう側に見える海に、船が一隻見えた。
T:「Nちゃん船乗ったことある?船乗ったことない?」
N:~


トレーナーさんがアシカの名前を「ななちゃん」だと紹介すると、Nちゃんは何か反応してTに話しかけている。後からTに聞くと、保育園の友達と同じ名前だということを言っていたそう。


T:「今日パパのお友達のYが来るよって言ったらさ」
Y:「うん」
T:「Nちゃんの同世代の友達が来ると思ったらしくてさ」
Y:「あぁ~ごめん」
T:「たしかにお友達が来るって言ったらさ、絶対子どもがいる家庭と会うからさ、Nちゃんの中では、パパの友達っていうのは子どもの友達がいると思うんだよね。Nちゃんのお友達はこんよって、めっちゃ言った(笑)」

<イルカショーが始まる>
Tは、ステージ側をはにかんで見つめるNちゃんの手を取って、手を振らせている。


N:(体を動かしてTの膝から降りようとしている
T:「どうしたNちゃん、降りる?

イルカが音楽に合わせて鳴くパフォーマンスを前に、Nちゃんは手拍子をしている。

イルカがぐるぐると回るダンスが始まる。
T:「Nちゃん下に降りて踊っていいよ」

トレーナー:「それでは続いて~に踊ってもらいたいと思います。次は会場の皆さんも一緒に踊ってもらいたいと思いますので、皆さん右手を上に挙げてもらってもよろしいですか?」

T:「Nちゃんも一緒に踊ろうって、はい右手を上に」(Nちゃんの手を持ち上げる)
N:(あまり積極的に腕を振る感じではない)

トレーナー:「皆さんのおかげでとっても楽しく踊ることができました。それではお礼の気持ちを込めて、イルカたちからシャッターチャンスのプレゼントを届けたいと思います。今回シャッターチャンスのプレゼントを届けてくれるのは、なんとコビレゴンドウのユキちゃんでーす」

コビレゴンドウ(小型のクジラ)が水中から飛びてて、ステージ正面に乗り上げる。

N:「~(小さな声で何かを言う)」
T:「顔がない?

T:「(私へ向けて)「顔がない」って。たしかに顔がないように見えるね」
Y:「顔がない?」
T:「目が見えないから」
Y:「そっかそっかちっちゃいもんね」
T:「目が黒いから見えないんだよ」


トレーナー:「それではここからは、カッコいい音楽に合わせてのイルカたちのパフォーマンスをお楽しみください!」

ファンク調の音楽(検索したところ、Mark Ronsonの『Feel Right』という曲)に合わせてジャンプをするイルカたち。この水族館に何度も通っているTは、この日いたトレーナーの男性がリーダー的な役割の人だという話をしてくれた。指示を出すときのポーズへのこだわりがあるという話をテレビで観たそう。


猛スピードでプール際をイルカが泳いでいく。
T:「おおーはやいはやいはやいはやい。おーはやーい」
N:「はや…はやはやいっ
T:「はやはやいね


イルカのジャンプに合わせて、会場がざわついている(大人の感嘆の声が大きい)。
Nちゃんは、座っているTの足の間でぴょんぴょんとジャンプしている

T:「なんでそこでジャンプしてんの?(笑)
Y・H:「ははっ(笑)」
Y:「一緒にジャンプしてんの?」


N:「~」(何かを言っている)
T:「なになに?(笑) えっ…イルカになりたい?(笑)」
Y:「(笑)Nちゃんイルカになりたいの?」


ショーが終わる。
T:「すごかったね~。はい、Nちゃんもほらクジラさんジャンプしよ。クジラさんジャンプ」
N:(ジャンプする)
Y:「Nちゃん楽しかった?」
N:(顔を背ける

T:「はい、行くよ行くよ、混むからな」

トレーナーさんの最後の言葉を聞き終える前に、席を立って歩き出す。


ショープールの観覧席を抜けて、広間に出る。
T:「Nちゃん、イルカどうだった?」
N:「すごいじゃんぷだった、ね~

Nちゃんはなぜか、ガラス越しに見える階下のエントランスホールをじっと見て立ち止まっている

T:「Nちゃん、そこは最後に行くけん。そこは最後に行くからさ、水槽んとこ行く? そこ、光るトンネルだよ。
H:「光るトンネルだって」
T:「光るトンネルをさ、Hちゃんと歩いて。Hちゃんと手をつなごうって
N:(すぐには手をつながない)そのまま水槽側のコースへと歩いていく。

『九州の近海』

T:「ごめん、光るトンネルじゃなかったここ、Nちゃん。光るトンネルもうちょい先だわ。この先言ったら光るトンネルあるよ」

N:(Hの手を取って歩き始める)

T:「一年前来たときは、この辺りも怖くて、やだやだって言ってた」
Y:「へぇ~そうなんだ」
T:「今でもやっぱ、なんか怖いところ、暗くて神秘的な所とかは~」


Nちゃんが踏み台に乗って、水槽を見ている。

T:「Nちゃん、それだれー?Nちゃんそれなにー?
N:「~」
T:「エビさん?」

上にある水槽も気になっている様子。
HがNちゃんを抱き上げる

T:「よかったねNちゃん、抱っこしてもらったよHちゃんに。ありがとうって言わな。ありがとうって」
Nちゃんはすでに水槽の光景に気が向いており、振り返って何かを言葉にしようとしているが聞き取れず。

以前Nちゃんと外で一緒に遊んだとき(2歳くらい)と比べると、当然ながら足取りがしっかりとしている。いつの間にか自分でHの手を握りにいくようになっており、Hの手を引いてスタスタと歩いていく。

所々でTは、「Nちゃん、カニさんおるよ。ここにおるやん」「あ、美味しそうなイカさんだ」「Nちゃんここ何がいるんだっけ?カメさんだね」などと声をかけ、Nちゃんはそちらの方を向いて水槽を眺める。ただ今のところ、あまり1か所にじっと留まることはない。

T:「俺とか、この太刀魚とか結構ゆっくりみたいのにさ、見れない」
Y:「あーね。こないだ一緒にまわったA(親は共通の友人)も同じだったね。暗い水槽はあんまりなのかな」

二人で話していると、NちゃんとHがいなくなっている
Y:「あれ、どこ行った?」
T:「あ、いた」
H:「(Nちゃんが)パパ呼んでます」
大人が一人ついているとはいえ、見失うとドキッとする

『九州水の森』

NちゃんはHの手を取って、足早に歩いていく。

T:「これなに?」

N:「かわ」
T:「滝だよ滝、石から水が出ているわけではないのよ。そう見えるかもしれないけれども、これは上から水が落ちてきてるんだよ。これ滝だって滝。石から水が出てるんではない」
Y:「ははっ(笑)」

Y:「一緒にいたら話してる言葉とかって、ちゃんと聞き取れるようになるの?」
T:「そうそう。よくあるけどさ、耳の不自由な人の家族とかは全部聞き取れたり、そんな感じだよね」
Y:「うんうん、子どもの言葉に慣れてくるとね」
T:「だからNちゃんの、“N語”の理解力は、やっぱりママの方が3倍くらい上やもんね。そう、全然違うよ」

肩を傾けてNちゃんの手を握るHに向けて、Tは「Nちゃんの手を引き上げたらいいよ」と言う。

N:「みぎまがろうよ~はやくみぎまがろ、みぎ
Y:「あれか、光るトンネルを見たいのか」

何度も訪れていると話はしていたが、目線の先には見えない次の場所について、Nちゃんが記憶していたことに驚いた。

水槽が並ぶ部屋を抜けると、Nちゃんは辺りを見渡して、お目当てのトンネルを見つけた。

N:「あ、そこ!そこ!
Y:「あ~好きなんだ」
トンネルに入っていく。

T:「今日はNちゃん、どこが光ってるの?わ、Nちゃん光ってる光ってる。Nちゃんはどこが光ってるの?」
H:「Nちゃんはどれだろう、あ、光ってる光ってる」
T:「Nちゃん、なか光ってるね!」

T:「こことか、最初来たときはほんと怖がってたから」
Y:「へぇ~」
T:「光ることの楽しさよりは、暗い~。行くごとに成長を感じるのがいいよね…そういった意味では、ここ最近は成長を感じないというか変わらないからまぁ、一旦成長がストップしているとこ。他の部分が伸びてきてるから。運動能力とか」
Y:「なるほどな~」
T:「でも今日一番成長を感じるのはもう、Hちゃんを引っ張っていってるところが一番成長を感じるかな(笑)
Y:「(笑)」

『奄美のサンゴ礁』

(ルートを少し外れてチンアナゴの水槽へ)
T:「これ何だっけNちゃん?」
N:「ちん…」
T:「チンアナゴ?」

いつの間にか、Tが筒状の水槽の向こう側に回り込んでいた。先に気づいた私とHが笑いだす。

H:「(水槽の向こうのTを指差して)あれなに?」
N:「うわっ!ははっ!(この日一番の笑顔と高い声)あっちにいーたぁ~

Nちゃんはニヤッとして、何かを企むような声でそう言うと、Nちゃんは駆け足で反対側へ向かう。しかし、すでにTは移動して見当たらない。

Y:「あら?おったはずなのに」
移動したTを、Nちゃんはまた水槽越しに見つける。

N:「なーんで!いっちゃだめなの~!
力強い声だが、笑ってはいる。
Y・H「(笑)」

T:「あーいたいたNちゃん」(そう言って迎えに来た)
N:「ねーこれもながーい
大きな声を出したから、さっきまでと比べると声のボリュームが上がっている

N:「あ、こっちにもながい、ながい」
T:「チンアナゴのさ、このしっぽの部分ってどうなってんだろうね?
N:「~」
T:「出たこと見たことなくない?この下側どうなってるんだろうね」
N:「そうだね~
H:「どうなってるんだろうね」
N:「ずっとこんなふうにのびてるんだー
そういったNちゃんは、チンアナゴの横で、自分の全身を伸び縮みさせてチンアナゴの真似をしてみせている。
Y:「かわいい(笑) 屈伸してる」
H:「真似してるんだ(笑)」
T:「伸びてるの?チンアナゴ引っ張ってみたいね。びゅーってさ、どうなってるか見たいよね」
N:「ちっちゃいの、びゅーってしてる

N:「そういえばさ、すいぞくかんに、すいぞくかんの~」
周囲の音で話の内容は聞き取れなかったが、「そういえば」という言葉をもう使いこなしているのだろうか。


ヒトデやウニのいるタッチプールへ。
Nちゃんは自分から触りたがるが、水の底にいるヒトデには手が届かない。Tがヒトデを水面近くまで持ち上げて、Nちゃんが触れる。

Nちゃんは怖がる素振りは一切見せずに、興味津々にヒトデに触れている。

T:「ちなみに俺でもこれ、あんまり触りたくない(笑)」
Tが「このトゲトゲしてるのも触る?」と聞いたが、ウニは触りたくないとのことだった。


T:「Nちゃん、そろそろイワシタイフーン(大水槽のエサやりショー)のとこいかない?向こうだよ」
N:「じゃあ

Nちゃんは、Hの手を引っ張っていくように大水槽へ向けて走り出した

『九州の外洋』

ショーが始まるより少し早く、大水槽前に到着。数少ないベンチは埋まっているので、地べたに座ろうかという話になる。

まだ時間に余裕があるので、ぶらぶらとする。水槽横の記念撮影スポット(スイッチで照明がつけられる。この日Tがやっていて初めて知った)で写真を撮り、Nちゃんはそそくさと隣のスナメリのプールへと向かって、階段に腰を下ろす。

N:「よし
T:「よし、じゃねーよ(笑)」

ここでNちゃんは、もぞもぞと動いて上着を脱ぎ、リュックを下ろす。身軽になったNちゃんと対照的に、父Tの手荷物が多くなる

大水槽の方へ戻り、カーペットの上に横並びに座る。NちゃんはTの膝の上。

N:「サメさんがいっぱいきた
T:「え、サメさんがいっぱいきた?」

T:「Nちゃんが一番好きなお魚どれだっけ?」
N:「きいろいの
T:「きいろいやつだね(笑) あれね」
目の前を行く、小さな黄色い魚の群れをTは指差す。

Y:「あれ何ていう魚なの?」
T:「何ていう魚なのあれ?」
N:「わかんなーい
T:「そうねぇ、パパも知らないわ。……こんだけがいるのに、あのちっちゃいのを選ぶっていうのもなかなかよなぁ」

N:「ねぇ、したにふとってるサメさんみて!」
T:「ふとってるサメさんね」
N:「やっぱりサメさんは~」
T:「やっぱりサメさんは何だって?」
N:「サメさんは~」
ショー前のアナウンスが始まっており、小さな声はなかなか聞き取れない。

N:「(おそらく魚が)サメさんにたべられちゃう
T:「食べられちゃうね~、こわいねー」

Nちゃんは沢山喋っているが、膝の上に座らせていると、Tもほとんど聞き取れないそう。

<14:30~エサやりショー『イワシタイフーン』が始まる>

N:「あ、はじまった(ニコニコとしている)
T:「はじまったはじまった」

水槽に飛び込んだダイバーを囲んで泳ぐように、イワシの大群が追いかけていく。
N:「あつまったね~
T:「あつまったねー」
Nちゃんは水槽の中の光景を、目でじっと追っている。ときどき振り向いて、水槽の中を映すモニターにも目をやる。


ショーはイワシへのエサやりが終わって、他の生き物へのエサやりに移行する。
N:「おわった
T:「まだあるよ(笑) イワシは終わったけど」


一日何も食べないこともあるという少食のシロワニ(サメ)が、ダイバーが与えるエサにがぶりと噛みついて、会場が湧いた。水族館好きのTと、フィールドワークで水族館に通い詰める私、おじさん二人がその光景を見て「珍しいね~」などと話している。

Nちゃんは時折何かを喋るが、解説のアナウンスがある中ではなかなか聞き取れない。

ダイバーがエイに魚をあげるが、受け取り損ねて、ガラス面に張り付いて、なんとか魚を口に運ぼうとしている。そのダイナミックな光景に、会場全体から「おお~」という歓声があがる。30秒ほどの格闘の末、エイはなんとか魚を口に放り込んだ。

T:「めっちゃ見応えがあったね~」
N:「ねぇ~めっっちゃ、しろかった
“めっちゃ”という言葉を拾いつつ、違う感想を述べるNちゃん。


N:「サメはゆっくりしてる」


N:「このすいそうのさ、うえはさ、どうなってるんだろうね


Nちゃんは、いつの間にか体育座りになって、少し他の所に目をやっている。少し飽きてきたのだろうか。


<ショーが終了>
水槽横から、しばし写真撮影タイム。
ダイバーへ手を振るNちゃん。
N:「バイバイ~

こちらは、Nちゃんと私。

大水槽のもとを去って、再び歩き出す。

『特別展「いきもの vs 怪獣 すがた・かたちのインスピレーション」』

T:「見てNちゃん、ワニガメだ。ワニさんみたいなカメさんだって」
N:「みえない

T:「せーの、ジャーンプ(Nちゃんを抱き上げる)
N:「わぁー


T:「カッコいいなーこのウツボの顔。やーばっ。見てみてNちゃん、ウツボさんの顔見て
H:「うーわ、こわー」

T:「すごくねこの顔、怪獣だ怪獣」
N:「ねぇ、パパ、ここどこ?
T:「ここ?(笑) ここ水族館だよ。Nちゃんはこんなとこ今まで見たことないから…うーわすげぇロブスターだ

Nちゃんへの言葉、私への言葉、自分自身の感想、3種類の言葉がひと繋がりになっている。Nちゃんは、この特別展示が今までにはなかった場所であることに気づいている。

その後、お手洗いに行ったT家と別れて、私は資料用の写真を撮りに行った。

レストラン前のベンチ

ベンチに座って、イルカプールを眺めるI家の二人と合流する。Nちゃんは『たべっこ動物』を食べている。

T:「(私へ向けて)ちょっとジュース買ってくるから、二人でおって。(Nちゃんへ向けて)Nちゃん、Yとおって、なんか買ってくるけん」
N:(うなずく

N:「このなかにもさ、イルカさんがおるんだよ~
序盤は緊張していた様子もあったが、いまは自然と話しかけてくれた。
Y:「あ、イルカさん?」
N:「うん」
Y:「あーほんとだ」
N:「うん。……いるかさんがうんちした(少し笑っている)」
Y:「ははっ(笑)」

Hも合流する。
H:「なに食べてんのー?」

N:「ここにもイルカさんがおる」(もう一度言う)
H:「おるね~」

N:「さっきのショー、みたときのイルカさんがいた」
H:「あ~そうかもしれんねー。下からも見えるね」

Y:「さっきNちゃん、ショーのときにイルカさんになりたいって言ってたね。イルカさんになりたい?」
N:(ニヤッとしながらうなずく
Y:「ジャンプしたい?」
N:(うなずく)


Tが飲み物を買って帰ってきた。
T:「え、ペンギンさん見る?もっと休憩したら?」
N:「ペンギンさんみる!
T:「休憩したら?」
Nちゃんはすぐにでも動き出そうとしている。

T:「Nちゃん、誰とペンギンさん見に行く?」
N:「うん」

T:「一人選んでいいよ」

Y:「一緒に行く?」
N:(Hの手を取りに行く

H:「あら~!」
Y:「負けた~」


ペンギンプールを見に行く。
その間、Tにフィールドワークの狙いなどについて話す。


Nちゃんが走り出そうとする。
T:「Nちゃんいま何がしたいの? 他の水槽を見る? ラッコを見る? ペンギンを見る? ここで遊ぶ?」
N:「すいそうみにいく
T:「水槽?」
N:「うん」

T:「珍しいね、こないだはここ(子ども用の遊び場)で遊ぼ遊ぼ言ってうるさかったのに。だからここで遊ぶんだろうと思ってた」

水槽のコーナーへ向かって移動を始める。

『奄美のサンゴ礁』(2回目)

Y:「さっきNちゃんが水槽の中に、イルカがこの中にもいるよって教えてくれて」

T:「そうだねー、Nちゃんはおままごとが好きだし、自分が先生の役とか、リアルおままごとが好きだから、どうしても大人に何かを自分が伝えたい、教えたいっていう。私がこの水族館を知ってるんだっていう感覚が結構出てる気がする

T:「俺には、ママでもなく、(Nちゃんが)友達と一緒にいるのを客観的に見るっていうのが、すごく面白い(笑) 」

『九州の外洋』(2回目)

T:「いつもはさ、その日をいつまでに帰って、いつまでに寝かせて、自由時間を何時間取れるかとか、タイムスケジュールの中に生きてるからさ。こういう所に来ても、ある程度Nちゃんの行動を制限するというか、いいように持っていくんだよね。だから、今日とか何もないからさ」

Y:「今日はちょっと余裕がある日か」

T:「そう、だから普段はあんまりNちゃんを、こんな感じで勝手に動かせないんだよね」

歩きながら、Nちゃんが何かを歌い出す。
N:「いちねんさんびゃくろくじゅーごーにーちー
T:「だから今日とかは4時くらいまでには寝かせたいんだよね」
N:「きょうはだーれーかーのたーんじょーびー。ままのまーまーの
T:「次があるからとか、ご飯の時間があるからとか。そうすると、そろそろ帰る方に持っていきたいんだよね(笑)」
N:「きーたーんだーね~

T:「これは、ののちゃんのね。ドレミのかいだんが好きだから」
N:「いーちーばーんちーかーいー
T:「Nちゃん踊ってよ」
N:「みーらーいーだーよ~

T:「Nちゃんせっかくだからさ、ドレミの階段、大水槽の前で踊ってよ~」
Y・H:「見たーい」

少し恥ずかしがったあと、大水槽横のリュウグウノツカイの標本のもとで踊り出したNちゃん。

踊りつきで『ドレミのかいだん』ワンコーラスを歌いきったNちゃん。歌い切ると、照れながらTの足元に駆け寄ってきた。その後も、Nちゃんは口ずさみ続けている。

T:「調子がいいと、勝手に歌うんだよね。ミュージカルっていうのかな?勝手にミュージカル化して歌うんだよね」

Nちゃんは鼻歌を歌いながら、一人で歩いていく。
深海の水槽には大した興味を示さず素通りしていく。

T:「勝手に一人で歩くのは珍しいね、やっぱりママを引き連れて行きたがるからさ。ママがいないのもあるかも」
Y:「そっか~」
T:「でもやっぱり珍しいよ。自由、自由や。自分から動くけど、結局誰かを引き連れて行く

Nちゃんは再び大水槽の中を覗き込んでいる。
かと思うと、水槽のへりからジャンプして飛び降りるという遊びを、笑顔で数回繰り返す。

動いた後はやはり暑くなるようで、さらに上着を一枚脱ごうとする。
T:「暑い? 暑くない暑くない」

結局上着を脱いだため、Tの荷物はさらに増えることに。

Nちゃんがエレベーターに乗りたいということだったので、そのため上階へ。

売店・出口・帰り道

最後は売店を眺めた後、記念撮影コーナーで4人で写真を撮ってもらい、退館。終盤はあっさりと進んでいった。

駐車場へ向かいながら、少し一日を振り返る。

N:「動物園にペンギンとかいなかった」
T:「一番何が楽しかった?
N:「わからない


駐車場について解散へ。
T:「Nちゃん、YとHちゃんにありがとって」
N:「ありがと
T:「はい、ぎゅーは」
N:(Hにハグする)
T:「Yにぎゅーは?」
N:(私に対してはためらってハグはしない)

Y・H:「ありがとね~」
Nちゃんとハイタッチをして、お別れ。

■フィールドワークを終えて

補い合うコミュニケーション
水族館の騒音の中ではNちゃんの声は聞き取りづらく、Tは頻繁に聞き返していた。ただ、一度で伝わらないことをNちゃんが気にする様子は見られず、繰り返し同じ言葉をいう。上着を脱ぐときなど、体を動かして自分が望むことを示すことがあった。二人は体と言葉の両方を駆使しながら、互いに伝えようとしていた。

“N語”の理解力
音量による聞き取りづらさだけでなく、子どもの言葉ははっきりとした発音でないことも多い。Tいわく、その言葉を“N語”と呼び、Nちゃんと長い時間を過ごす母の方が理解力が高いという話をしていた。それは推測する精度が高いということだろうか。

身体で表現すること
チンアナゴの砂に隠れた部分を表現するのに、全身を伸び縮みさせていた様子はとても面白かった。他の場所では、歌いながら踊ってもいたが、Nちゃんは、全身を使うこと(踊り)を表現の方法として持っているのだと感じた。いま自分は、チンアナゴの動きを身体で表現しようとはしない。それはなぜか。

ショーを楽しむNちゃん
ショーに対する反応は子どもによって様々だが、最初からポジティブなリアクションを見せる光景はあまり見ない。Nちゃんはこの水族館やショーにも馴染みがあるからか、緊張するという様子はなく、ショーを注視しながら時折興奮した様子を見せていた。

場所の記憶
ショーでその後に起こるであろう、イルカがジャンプしてボールをタッチするや、道の先に光るトンネルがあることなど、Nちゃんが以前訪れたときの記憶があることをはっきりと感じられた。初めての水族館と、何度も訪れる場所としての水族館、というのはまた違う体験でもあるのだろうと思う。親であるTは、そうして訪れる度にNちゃんの成長を感じられることが楽しいと話していた。

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