自分を鼓舞するもの

御茶ノ水RITTOR BASEで開催されたロリィタ短歌朗読ライブ『衣裳箪笥のアリス』を配信で視聴しました。
昨年の芥川賞候補になった川野芽生さんの「ロリィタ短歌」をもとに構成した舞台で、作者本人もキャストとして出演されています。

高品質バイノーラルプロセッシング技術「HPL」の生みの親、久保二朗さんもSNSで薦めていた本公演。
会場は立体音響システムで、配信はそれをバイノーラル化して、それぞれ通常の朗読ライブ以上の没入感を目指したとのこと。

キャストの配置に留まらない、空間そのものを作り出す試みでしょうか。
前方にスピーカーを集めるイマーシブとは異なる選択肢が、こういう表現で真価を発揮するという好例だと感じました。

私が特に惹かれたのは、「アリスはルイス・キャロルを捨てて」というフレーズ。
そして、川野さんの目と声。

あと、キャストが持つ台本を何度か覗けるのですが、長文の箇所が目を惹いたんですね。
細く長くて暗いそれは、まるでクレバスのよう。
ロリィタ服の中で、やけに生々しく映りました。

上演時間は1時間強。
先日、吉原光夫さんのVoicyで「演劇の時間と価値…」という悩ましいテーマがありましたが、この長さは時代に合っていると思います。

アーカイブ配信は、明日14日(日)23時まで。

YouTubeにトレーラーがありますので、興味のある方は是非ご覧ください。

自分を鼓舞する何ものかとの出会いは、やっぱり大事。
ということで、今日はもう一つご紹介します。

怪談作家・音響作家、丸太町 小川さんの『outlying island』
Bandcampで一昨日リリースされたばかりです。

おもに大分県の離島で収録した素材によるサウンドスケープ・コンポジション。
8chキューブという立体音響システムのための作品で、『衣裳箪笥のアリス』と同様にHPLバイノーラル化されていますので、ヘッドフォンで聴いてみてください。

とても私好みの作品で、あまりに良すぎて心が折れそうでしたが、もう一つ大事なことを丸太町 小川さんの作品は考えさせてくれます。

それは、この先、個人の「物語」を安く見積もらない方がいいということ。

まず「怪談作家・音響作家」なんて肩書が面白いじゃないですか。
小説も音楽作品も評価され、フィールド・レコーディングを特集した雑誌に寄稿もされる。
簡単に真似できる生き方じゃありません。

そして、今は、完成品の価値が暴落し始めた時代。
AIがスッ飛ばす「プロセス」こそが人間に残された仕事で、これから価値が上がるのは「歴史、良い土地、ストーリー」の三つだと言われますが、土地に根差した怪談も怪異も、フィールド・レコーディングも、足を使った採集が欠かせないもの。

制作過程を隠したがるクリエイターがAIに駆逐される時代において、昨日の夕食をSNSにアップするのではなく、その採集をも作品や活動として額装できるのは、ますます面白くなるんじゃないか。

こんな切り口で語ると怒られてしまうかも知れませんが、こういった視点からも、私の今の興味のど真ん中にある作家なのです。

繰り返しますが、自分を鼓舞する何ものかとの出会いは、やっぱり大事。
明日は、Katsuhiro Chibaさんの新譜『chromaticscapes』が届く予定。

ご本人がSNSで「全電子音楽ファン・作家が聴くべき衝撃作」と仰っていた作品。
とっても楽しみです。

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