見出し画像

読書メモ「ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信の現場から」


「◎ 内容紹介
子どものころから科学が好きだった著者は、新聞社の科学記者として科学を伝える仕事をしてきた。
そして2015年、科学の新たな地平を切り開いてきたアメリカで、特派員として心躍る科学取材を始めた。
米航空宇宙局(NASA)の宇宙開発など、科学技術の最先端に触れることはできたものの、そこで実感したのは、意外なほどに広がる「科学への不信」だった。
「人は科学的に考えることがもともと苦手なのではないか」――。
全米各地に取材に出かけ、人々の声に耳を傾けていくと、地球温暖化への根強い疑問や信仰に基づく進化論への反発の声があちこちで聞かれた。
その背景に何があるのか。
先進各国に共通する「科学と社会を巡る不協和音」という課題を描く。」
(Amazonページより)

「地球温暖化は人間活動の影響ではない」
「人間は神に作られたので進化論は嘘」
「地球は球体でなく平面」

こんなことを言われると「何言ってんの」と鼻で笑ってしまいそうだが、アメリカではこれらを信じる人が想像以上にいるらしい。
「正しい知識がないのだろう」と思いきや、科学についての知識はあるらしく、「知識があるからこそ」、信仰や支持する政党によって「報道ではそう言われているが本当は違う」という信念を強めていくようだ。

斯くいう私も、これらの根拠を自分で説明しろと言われたら厳しいし、多くの人がそうだと思う。私たちのほとんどは「学校で習ったから」「信頼に足る機関が発表しているから」信じている。

「私たちはもともと知識に基いて物事を決める理性的な存在だと思いたがっているのです。だから「みんなが言っているから」ではなく、何か科学的なものに基づいて自分で決めたと思いたいのです。」(本文より)

この辺り、アメリカに限らず日本だってどこだって見られる光景だ。
ただ、アメリカは、国民の精神および成り立ちから「特権階級への反発」が容易に「知性への反発」へ転じやすい事情がある。
様々な専門家や、こういった「反知性的としか思えない理論」を信じる当事者へのヒアリングを通じて見えてくるアメリカの実態がとても興味深い。

ではどうすればいいかというと、結局は地道に対話を重ねることしかない。
科学者たちが試行錯誤しながら事実を伝える取り組みを行なっている様子が述べられてこの本は締めくくられる。
結局のところ人間どうしが理解するにはお互いの立場に立ち、信頼、共感ができなければ理論は入ってこないのだ。
当たり前だけど実践が非常に難しい「対話」を、身近な人間でさえ疎かにしないよう、時々思い出しては我が身を振り返るようにしたい。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?