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日本科学未来館[空想⇔実装展]このふみごこちは?カタいのはどっちだ?

1.イントロダクション

私たちグループ1は8月6日(土)と8月7日(日)に日本科学未来館にてワークショップを行い、合計588名の参加者に体験をしていただきました。ワークショップでは、左右で踏み心地の違う触感メタマテリアルを両足で踏んでもらい、どちらがより硬いと感じたかを投票してもらいました。体重のかけ方や感性によって触感の受け止め方が異なるため、体験後に全体の投票結果を見てもらうことで他の参加者の感性にも触れることができるようにワークショップを設計しました。

展示を通してのメッセージ

・自分の感性を表現する経験
単純な二択ではあるが、自分自身がどう感じたのかを表現する機会を提供する。
・他人の感性に触れる経験
自分が感じていることが絶対ではなく、他者との相違に目を向ける経験をしてもらう。

展示を通して伝えようとしたメッセージは以上の二点です。これらを伝えるためにはどのような展示形態が最適かということを考えてきました。

2.触感メタマテリアルボードについて

まず踏む領域をつま先・真ん中・踵に3分割し、各領域の硬さを設定します。硬さは10段階あるうちの2,5,8

をそれぞれ”柔らかい”、”普通”、”硬い”としこれらをそれぞれの領域に当てはめます。硬さの数値を変更し、複数のバリエーションを制作しました。以下が設計図となります。

発注した際の提案書

触感メタマテリアルボードが台形となっている理由は、体験者の足のサイズに対応するためです。足の小さい方は内側、大きい方は外側を踏んでもらうことで、各領域を踏む割合を一定にしようとする狙いがあります。
3~4歳の足のサイズと言われる15cm程度から、足の大きい30cm程度の方までに対応できます。

3.展示概要

左右で硬さの異なるメタマテリアルを用意し、どちらをより硬く感じたかについて答えてもらうシンプルなゲームを考案しました。
以下でゲームの内容、展示体験のプロセスを説明します。

①:ゲーム内容の説明
左右で硬さの異なるメタマテリアルを踏んでもらう。左右の足にそれぞれ対応したイラストとその上部に穴の空いた白いボックスを用意し、その穴にカラーボールを入れることによって回答してもらう。

②:実際に踏んでもらう
台形のメタマテリアルに左右の足をそれぞれ置いてもらい、踏み締めたりジャンプしたりするなど思い思いの方法で触感を確かめてもらう。
この際、メタマテリアルは3つの領域で異なる硬さを持つため、なるべく全体を踏んでもらうように指示する。

③:カラーボールを用いた投票
どちらが硬いかという感覚を、二択の回答ボックスにカラーボールを投じることで表現してもらう。自分の感覚を外在化させる経験をしてもらう意図がある。

左右のどちらがより硬いか、硬いと思った方の穴にボールを入れる

④:答え合わせ、他者の感性に触れる
投票ボックスの裏側は中身が見えるようになっている。正解を示す印もついているので、答えの確認を行いながらどちらにどれくらいの量のボールが入っているのか、自分は他人と比較してどの位置付けにあるのかに意識を向けてもらう。

後ろ側は柵状になっているため、中に入ったボールの様子を見ることができる
小さな白い四角形が正解の印である

⑤:観察と説明
来客者とのコミュニケーション来客者が展示に関して疑問に思った点に対し追加の説明を行う。メタマテリアルの素材についてや、構造、展示の意図についてなど。

4.集計結果・参加者のデモグラフィック

集計結果

集計結果
(画像が見づらい場合は以下のファイルをダウンロードしてください。)

展示中では回答の数と、それが大人と子供どちらによって行われたのかを記録していました。
その結果が上記の画像になります。

より硬い”ふみごこち”を選ぶ問題は計6問あり、アルファベットのA~Fにあたります。
各問題において、色付けされた列が答えとなる足側になります。
集計の結果を見ると、大半の人が正しい(より硬い)メタマテリアルボードを選ぶことができていることがわかります。

正答率

以下の画像が、全体の正答率と大人と子供それぞれの正答率となります。

正答率

問題DとEの正答率が極端に低いことがわかります。
これらの問題と他の問題を比較したところ大きく二つのグループに分かれることがわかりました。
それはメタマテリアルボードの踵部分の硬度に違いがあるかということです。
正答率の高い、B,C,Fは左右のメタマテリアルボードの踵部分の硬さが異なる問題です。一方、正答率の低いD,Eのメタマテリアルボードは左右で踵部分の硬さが共通で、それ以外のつま先と、中央部分が異なる問題となっています。
以下が各問題の左右それぞれのメタマテリアルボードの硬度組み合わせになります。

左右の組み合わせ(青色になっている方が正解)

メタマテリアルボードの硬さは各領域の硬度値を総合し比較します。
(例)Aの左足:2+5+8=15  右足:8+8+8=24  よって右足のメタマテリアルボードの方が硬い。

日本人は遺伝的に踵に重心が置かれると言われています。それは日本人がもともと腰を低い位置に据えた体制で田植え作業を行う農耕民族であることが由来していると言われています。
踵の硬さが異なれば、重心が置かれる場所であるため判断をすることが容易になります。今回の場合では、踵の硬さとインソールボードの硬さの総合値が逆転する場合がなかったため、より容易だったとも言えます。
一方で、DとEのように踵の硬さが共通だとすると、重心ではないつま先や足の真ん中付近の感覚に集中する必要があります。加えて今回の場合は踵部分が”柔らかい”という点で共通していたことも、判断を困難にする要因であったかもしれません。つま先や中央部分に手中し比較を行っても、再度重心が踵に戻ると柔らかく感じる。結局柔らかいのか硬いのかがわからなくなってきてしまうからです。
Dの場合では、つま先と中央部分に明確な硬度の差があったため、比較的判断はしやすかったかもしれません。しかし、Eのように踵以外の部分の差さえも明確でない場合は決断するのが困難であったかもしれません。
もう一つの踵の硬さが共通する問題であるAの正答率が低くないことからもこのことが言えるのではないでしょうか。
まず踵に重心を置き、違いが明確でないと感じつま先の方向へと重心を移動する。すると素直に明確な違いが現れてくるので、自然な流れで硬さを比較できます。

また、大人と子供において、正答率に顕著な違いが見て取れます。
どの問題においても、子供の方が明らかに正答率が低いのです。
これは今回用意したメタマテリアルボードの構造上の問題であると考えています。
用意したメタマテリアルボードは台形をしており、つま先、中央、踵部分で硬さが変数的に異なります。
足のサイズを考え、それぞれの配置比率が等しくなるように台形を採用しましたが、これが機能を果たすには、足の小さい人は内側、そうでない人は外側を踏むようにしなければなりません。
展示中は、なかなかそこまでの細かい指示を出すことができずに、中央付近やメタマテリアルボードの端を踏むような子供が多く見られました。
足の小さい子供はメタマテリアルボード全体を踏むことが困難です。そのため、踏む位置によって感覚が大きく異なることが予想されます。
(例:メタマテリアルボードの端の一領域だけの硬度で判断してしまうなど)
これが子供の正答率が低くなった原因の一つであると考えています。

5.来場者のリアクション

来場者の多くは純粋にゲームを楽しんでくれていたと思います。
見た目にほとんど違いのない一対の黒い不思議な板を踏み締め、実はそのふみ心地が異なるということに驚きを感じているようでした。
中にはその構造がどうなっているのかに興味を持ち、側面を覗き込むような子供もいてくれたことが非常に嬉しく感じました。
純粋にゲームを楽しんでもらうことはもちろん、そこを入り口に素材や構造がどうなっているのか、どのような原理なのかといった部分に興味を持ってもらいたかったからです。

6.展示を通しての気づき

私たちが展示中に見つめていたのは”挫折”の風景でした。

回答用のボックスの上部に足のロゴを貼り付けたために、そこを足を置く場所だと勘違いし、壊れやすい箱の上に乗ろうとする子供。6問設問があったため、来場者はどちらに自分が投票したのかを忘れてしまい、その結果、自分の答えの正誤に興味がなくなってしまう方もいらっしゃいました。

また、ゲームのターゲット層をより広い年代の方に設定し、ゲームを単純化したことによって、メタマテリアルについての知識をより深めたいと考えるような方々には十分な説明をすることができず、ゲームに参加してもらうことすらできないこともありました。
これらは挫折の一部に過ぎません。
この展示を設計する段階では予想もできなかったことの連続でした。

多くの人がメタマテリアルで作られたボードに興味を持っているようでした。
我々が所属する仲谷正史研究会において、事前に何度もインソールに触れているために違いがわかりやすく、どちらが硬いのかを判断することも容易になっていきました。
そのため、自分達では違いが明確であると感じていても、初めてマテリアルに触れるために違いに戸惑う来場者が多くいることに気がつきました。

大人の方が硬さの違いに敏感なのは、年齢のせいかもしれませんが、子どもの方は、経験不足のせいで、痛覚受容器と脳の間に精神的なつながりができていないのかもしれません (これは予想に過ぎません)。

人によって、どのように踏み心地を確かめるかはさまざまでした。
大人の体験者が時間をかけて、長考しているような場合は問題なく成功していましたが、テンポ良く、ある種の急いで判断していった場合は1つか2つ間違った方に回答している方が少なからずいたことが印象に残っています。
これはメタマテリアルボードを踏んでいる時間が長いほど、足がメタマテリアルボードの細かなニュアンスを感じるようになり、判断力をする上での材料となるものが増える?もしくは硬度に対する言語化が進むのではないかと考えています。

7.触感メタマテリアルの可能性&実用性について

メタマテリアルについて非常に興味深いと思うのは、それらがすべて同じ材料で作られているにもかかわらず、単に構造に基づいて非常に異なる感覚を持つことができるということです。

私が個人的に興味を持っている主な方法の一つは、靴の中敷きにそれらを使用することです。足の指の付け根全体を柔らかくすることで、クッション性を与えより快適にする一方で、足の外側の部分はより硬めに設定することで、怪我のリスクを抑えと足の安全性をもたらすなど、中敷きの領域ごとに特定の機能を持つことができるのではないかと考えています。
個人的にスケートボードをする際にはかなり怪我をしますし、スケートボードをする際の靴の底や中敷きは平らな場合が多いために、しばらく滑った後に足が痛くなることがよくあります。

中敷の領域ごとに硬さを変えるようなことは、異なる材料を一緒に接着するような伝統的な方法を用いることでも可能です。
しかし、メタマテリアルの場合は、全く同一の材料で構造を変化させることのみで実現が可能です。それは、従来型の異なる材料を接着させた場合に起こるような、接着剤の剥がれや劣化というような問題がなくなる効率的な方法であるように思えます。
さらにメタマテリアルを中敷に使用する別の利点は通気性です。メタマテリアルは構造上、多くの空洞を持ちます。インソール内の空洞が、インソールの上部で汗が溜まりにくくするだけではなく、空気が移動するための空間を提供することができるので、インソールの通気性の点でおそらくより優れた性能をもつと考えられます。

伊勢丹の店頭でサービス提供された3Dプリンタによるインソール

8.最後に

日本科学未来館での展示は誰でもできる経験ではありません。身内だけで行う展示とは異なり、一般の小さなお子さんからアカデミアの世界に属するような方々まで様々な方々の目に自らの作品が触れます。当然クオリティの高さが求められ、それは我々のグループにいい意味で大きなプレッシャーとなりました。

夏休みまでの春学期期間中では何度も試策を繰り返しました。当初はディスプレイを用いてより高度なゲームにすることを決め、実装するためのコードを作りもしました。いくらかの進歩はありましたが、修正が必要な問題が多すぎるように思われました。そのため、展示自体のプロセスをよりシンプルにし、単純な硬さの比較のゲームとしました。
この判断は正解だったと思います。
最初は、よりインパクトのある展示を作ろうと考えていました。展示自体のクオリティ、いわば見栄えのようなものが第一の目的になってしまっていたのです。そうではなく、展示を通して伝えたいメッセージとは何かということに目を向けた時に、すべきことがより明確になったように感じます。
伝わることが第一の目的であり、その手段となる展示方法はよりシンプルに、より多くの人に理解され安いデザインにすべきだと気がついたからです。

展示物の製作中も、実際に未来館に搬入を行い設営を行っている際も、できる限りの想定をし、展示物の改善を繰り返しました。
それでも実際に展示をすると想像もしていなかったようなトラブルが多く起きました。ただ、このトラブルこそが多くの気づきをもたらしてくれたように感じます。
展示前は、なるべく自分達の思い通りに体験してもらうことが重要であり、体験の仕方のある種の作法のようなものから外れることがないようにということに注力し過ぎていました。
しかし、あらかじめこれらが起こらないようにすることは難しく、このようなエラーを修正し、またエラーが起こりさらに修正を加えていくような試行錯誤を繰り返すことによって展示の質というのは磨かれていくのだと感じました。

参考文献・URL

介護ポストセブン.「つま先重心」か「かかと重心」か…セルフチェック|正しい立ち方・歩き方で不調をリセット!.2020. https://www.news-postseven.com/kaigo/92433


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