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タッパーウェアとサービスみかん

とうとう正式名称というものが何なのかわからなくなってきた。
作為的に作りすぎたお手軽カレーをタッパーに詰めながら思い浮かべる。タッパーウェア(タッパーの正式名称らしい)なんて聞いたことないが、ラジオで誰かが言ってるのを聞いて頭から離れない。
正確には、その人は”タッパーウェア”ではなくて”タッパウェア”と呼んでいた。正式名称と豪語しながら最速でややずれ始めているのが訝しい。
こんなことになるくらいならタッパーのままでいいのに。
日常生活で他人の会話を聞いていると「それはどこかの企業の商標で、正式名称ではないけどね。」と心の中でつぶやく時が少なくない。
パッとぽんぽん思い浮かばないのが忍びないがキャタピラとか、とにかくそういうのがいくつかある。人生で無駄に神経を尖らせる機会が純増するので出来ることなら避けたいが、鳴り物入りでタッパウェアが殿堂入りしてしまった。しかもこの場合は入り組んでいて「さっきからタッパータッパー言ってるけど、それはタッパーウェアのことで、その上タッパーウェアはどこかの企業の商標で、正式名称ではないけどね。正しくは食品保存容器だから。タッパウェアって言う人もいるし。」と逡巡することになるのだ。これからの人生で。いちいち。タッパーの話題を聞くたびにだ。人生のうち五年くらい風邪ひいてることになるらしいが、そこまでいかなくとも、そこそこの時間を割かれる予感がしている。悔しい。もっと他の楽しいことしたい。

昨日の晩、タッパーのふちの折り返しに水が溜まって乾かないので、プロダクト設計時にこの折り返しをつけてるやつらは日々の暮らしのなかで実際にタッパーを使って洗って仕舞っている層の人間ではないなと、存在するかどうかすら怪しい人間らに侮蔑の念をおくりながら洗い物をしていたのを思い出しつつ、100均にフレームを買いに行った帰りに八百屋かとおもったら、みかんだらけであとはりんごとバナナが置いてある店の前を通る。バナナはスイートスポットだらけで甘ったるい香りがする。
店先に”サービス品!”と書いた厚紙がみかんのザルに突き刺さっていた。大玉が6個くらいの一山が100円だったので迷わず買う。
先に行こうとした瞬間、目の前で選んでいたおばあさんが、スッと入り込んできた。やってるな。と思いながら静観する。110円を支払って笑顔で帰っていった。かまわん。急ぐなら急げば良い。
つぎはこちらの番だとザルごと渡すとお店のおじいさんが「200円てかいてなかった?」と聞いてきた。明らかに100円なのだが、何度も聞いてくるので厚紙を手にとって100円て書いてあるよと伝えると、なぜか不服そうだった。
ここで大事なのは、おじいさんが何を思ってそう言ったかなのだ。おじいさんが気にしているのは『さっきのおばあさんに売った時に100円にしちゃってたことに気がついて、不運にも連続でふた山も売る羽目になって200円損したこと』なのかそれとも『この男なら気も弱そうだし200円ではなかったか?と言えばおどおどしはじめてそのまま金を払うかもしれない』のどちらなのか。それが問題だ。
もう一度200円か聞かれて、「そこまでいうなら200円に今ここでしたらどうか。買わなくなるけど。」と思う。言わないけど。やってるな。とまた思った。最後までぶつぶつ言いながらもビニール袋にみかんを詰めて渡してくれた。110円を渡すと「10円はいらないよ。」と笑顔で返してくれた。
これがおじいさんの新年200円チャレンジへの贖罪を意味するのか、それとも本当に100円だったのか。おばあさんからは110円とってなかったか、とかいろいろ渦巻いて、午前中の商店街はこんなにも殺伐としていてカイジの世界みたいになっているのかと空恐ろしくなったのだった。
帰って早速みかんをむいてみると、皮と実に疎があるふさふさむけるタイプのみかんでおいしかった。
実力者たちがはびこる厳しい世界を生き抜いていい買い物をした、とすこし自信がついた。
年明け金曜の昼。

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