どんなにおいしいものでもまずいものでも口の中では味がするけど、飲み込んでしまえば同じことなのか。おいしいものはよく噛んで食べたいよね。然るに、「噛むこと」は快楽だ。味を楽しむ。テクスチャを楽しむ。食感のことだよ。パリパリとかぽりぽりとか。鼻に抜けていく香りも楽しむ。唾液の消化酵素で増す甘みを楽しむ。片栗粉のとろみがなくなるのもこれのせい。これだけ楽しむともはや楽しむために噛んでいるのではという気持ちにもなってくる。一方、「飲み込むこと」は生きるためだ。もう散々楽しんだあとで味もしない。どろどろのぐちゃぐちゃでさぁね。仕方がないから飲み込むしかないよ。どんなにお腹が空いててもどろぐちゃはあんまり飲み込みたくないと思う。逆にお腹が空いてなくても、味や香りやぱりぽりは楽しめる気がしませんか。生きるために飲み込む。それなら「吐き出すこと」も生きるためだろう。飲みすぎたとき。いたんだものを食べたとき。薬で気持ち悪いとき。食べすぎたとき。胃が弱って消化できないとき。人は吐き出す。吐くものがなくても空嘔でおえおえいってたりする。だから噛むことは快楽で飲み吐きは生きるためだ。「昔の西洋貴族はおいしいものをたらふく食べては吐き出してその手を使用人の長い髪で拭くというのがステータスだったとむかし世界ふしぎ発見で勉強したぞ！」とおっしゃる方もいらっしゃるかと思います。もうすぐ最終回みたいですね。はたまた、「ビールとかお蕎麦とか喉輪締めとかののどごしはどうなんだ！」という方も。はい。ここでは例外とさせていただきます。諸説あるかと思いますが。ええ。続けます。あとは飲み込みたいときに飲み込ませてもらえないことがあるかもしれない。小学生のころ”卑弥呼の歯がいいぜ”とかいう語呂合わせで噛め噛め教育されたもんだけど、給食でやってみたらなんかやな感じで自分には合わなかったな。ホーンテッドマンションの「セーフティーバーは私の仕事…」風にやんわり「いいからそのまま座ってろ」みたいなニュアンスで「ｶﾝﾃﾞﾛ!!…ﾃｨﾝｺﾝｶﾝｺﾝﾃｨﾝｺﾝｶﾝｺﾝ ﾉﾑﾅﾖ!!!」とか突然言われたら、たとえおいしいものでも、ずっと飲み込ませてもらえないでいるのはやっぱりしんどいでしょう。早く飲み込みたくて仕方ないだろう。それも自分の意思でね。それなら食べ物ではなくて苦しみの話ならどうか。噛んでる間も苦くて楽しくなさそうだし、飲み込むタイミングもやっぱり自分で決められなさそうだし、いざ飲み込むのもつらそうだ。それなら噛まなきゃいいとはおっしゃいますけども、丸呑みってのもそれなりの苦痛を伴うわけでして。仕舞いにはうまいかまずいかも分からなくなって気が付けは胃に穴が空いたりするわけです。しかも、噛むにせよ噛まないにせよその苦しみの味わい方の選択にすら快楽の要素が含まれているために、口の中にあるときはすっかり夢中なことが多くって。そらもうぞっこんでして。だから「さぁて、今日はどの歯で噛もうかなぁ…じゃあ右奥歯の上ヘンリーと下ジェイムス。ってまたお前たちなのかぁい！（笑）、昨日に続いてぇ！（やれやれ）、明日からも頼むよ（真顔）。いや待て待て今日もたのむよぉ兄弟！（笑笑）、ほんで君ら兄弟と違うんかい上ヘンリー下ジェイムスぅ！（爆笑）」なんていちいち考えるやつなんていなくて、がむしゃらに一所懸命に必死に噛むなり噛まないなりもがいているはずだ。
結局、味は覚えてないけれど、”不味い／美味い”が飛び込んできて、飲み込む時に”苦し／楽し”かったとか。それだけが記憶に残るように、意外と噛んでいるものの詳細は知らないことがほとんどで、記憶に残るのは飲み込んだり吐き出したりして自分で選んだことだったりする。快楽は瞬時に費やされて通り過ぎていってしまうから、たしかにその時々の感覚を嗜みながら生きているはずなのに、際立って残るのは「取り残されてしまった」という事実ばかりで、早く次の何かを放り込まないとどうにかなってしまうような気がしてくる。そんな経験をして初めてクッキーモンスターの気持ちが少しだけ考えられるようになるんだと思いました。

P.S.最近彼も成長したようです。私はまた、取り残されてしまいました。ちなみにダイジェスティブは消化にいいとかそういう意味です。
“食欲旺盛で、特にクッキーには目がないモンスター。衝動的で感情や欲求を抑えることが少し苦手なクッキーモンスターですが、最近は少し我慢して、健康的な食事や生活を考えることができるようになりました。「クッキーは果たしてどこからきたのか？」といった哲学的な問いを探求し、クッキーをテーマにした自作の詩を披露したりする一面もあります。最近は、ゴンガーと一緒にモンスターお料理隊として、キッチンカーでいろいろな健康的な食べ物を子どもたちに届けています。”†

†2024/03/16 19:31 セサミーストリートの仲間たち クッキーモンスター, https://www.sesamestreetjapan.org/characters.html .