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赤提灯横丁

3月31日、私の居場所が1つなくなってしまった。

地元の飲み屋街の一角に赤提灯横丁というおじさん御用達の区域がある。
頑張っても5〜6人しか入れないような小さいお店が並んでいる、昭和にタイムスリップしたみたいな場所だ。

5年前の私と友達は、『大人の階段、のぼりたくね?』という並々ならぬ決意のもとその赤提灯横丁に足を踏み入れた。
当時10店舗ほどあったお店の前を歩いて全て中を確認したが、まあ混んでる。混みすぎてる。どこもかしこも、スーツを着たおじさんの巣だ。
そんな中に入りたくないよな〜と思っていたら、1つだけ客が1人もいない店があった。
覗いてみたら、店主は少し歳上か?くらいのイケてるお兄さんだった。
それがこの店との出会いだった。
ちなみにそのマスターは結局8歳年上で見た目年齢がバグっているだけだったし、めちゃくちゃ頭がおかしかった。だからこそ今は大事な友達になっているわけだけど。

これは余談なんだけど、その店は名前の前に『二代目』とついていて一代目はBARだったらしい。マスターがある日深夜に1人で作業をしていたら誰もいないのに急に花の香りがしてきて、気味が悪いので塩で追い払ったら、どうやら花の香りは良いことを持ってきてくれる天使の匂いだったらしく、ほどなくして潰れたと言っていた。本当に馬鹿みたいな話で何回聞いても笑ってしまう私のお気に入りの話だ。

そこから5年間、本当に色々あった。
歴代の彼氏も彼氏みたいな男も大体連れて行ったし、友達も全員紹介した。
5年前に初めて一緒に店に行った友達はその店で出会った男と付き合ったし、きっと年内には結婚するだろう。
気付けば常連同士で仲良くなって最後にはほとんどのお客さんが顔見知りだったし、何人かは店関係なく飲みに行くくらいの友達にもなった。
うまくいかない恋愛話は全部みんなで笑ってくれたし、お前なら絶対大丈夫だからって、承認欲求も勝手に満たしてくれた。
あとは大体、汚い話をしていたと思う。そのへんの小学生よりうんこの話をしていた。今まで生きてきて、色々なシチュエーションでのクソ漏らしエピソードを貯めてきた甲斐があったなと思える場所は後にも先にもここだけだろう。話一つで人を喜ばせることができるのは、何歳になっても嬉しかった。

人生しんどくて1人でいたいけど誰かと話したいみたいなおセンチなときもそこに行けばマスターがいた。平日は酒が飲みたくないので車で行ってお茶を飲んでいた。マスターはいつでも馬鹿みたいに一定のペースでビールを飲み続けるので、結局飲み代はいつも2人分かかるんだけど、それもまたこういうお店の醍醐味なのだ。

あと、居酒屋なのにドミノピザ頼んでごめん。

店に通い出して数ヶ月経った頃、マスターは『俺結婚するわ』と言って、いわゆる授かり婚をした。意外にも初婚だった。
そして今年に入って離婚した。
この手の話は結局『ニンゲン、ムズカシイ…』としか言いようがない。
その時の子供はもう4歳になっていて、先日初めて常連たちで家に遊びに行ったときに対面したが、一言も話してくれなかった。というか、会話に成功した大人は1人もいなかった。手強い。
でもおともだちになるハイタッチはしたし、彼女のおままごと遊びの中には私がうんこ漏らすお姉さんとして登場しているらしい。かわいいけどやめてくれ。

そんなこんなで3月31日で、この混沌は閉店した。

最終日は常連だけで、席に座れない人はカウンターの中に立ってマスターの仕事を手伝ったりして、めちゃくちゃだった。
ほとんどみんなベロベロだったし、このご時世にシャンパン回し飲みとかしてて最悪すぎて最高だった。
最後の挨拶でマスターと一緒に引くほど泣いた。「みんなの居場所をなくしてしまって申し訳ない」と言って泣いていた。でも私みたいに、5年間救ってもらった人がきっとたくさんいる。それって超すごくない?って言ったら、もっと泣いちゃった。ウケた。
でも本当に誰にでもできることではないから、謝らないでほしかった。胸を張れ。

ここの居場所には、たしかにある種の愛があったように思う。私が私で良かったな〜と心から思えたのは本当に久しぶりだった。

でもそのときの動画撮ってたやつのスマホは壊したいな。

引きこもりインターネット子供部屋おばさんに出来た、奇跡の居場所に感謝を込めて


新年度、生きるぞー。

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