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【スタジオ4℃(2)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[前編]

以下は、ブラック企業ユニオンに加盟して団体交渉をはじめたアニメ制作会社スタジオ4℃(STUDIO 4℃)の制作進行のAさんのコメントです。団体交渉の経緯はこちらの記事をご覧ください。
【スタジオ4℃(1)】映画『海獣の子供』『鉄コン筋クリート』のアニメ制作会社「スタジオ4℃」で残業代未払い・労働環境改善を巡って団体交渉

わたしたちは日々作品づくりに魂をかけている

わたしは2016年にいまの会社に入り、それから3年間劇場作品の制作進行として、スタジオに勤務してきました。時間をかけて制作する劇場作品ということもあったのかもしれませんが、幸いにもいまのアニメ業界の状況と比較して、かなり良い環境で作品制作に携わることができたように思います。

とくに、スタジオの同僚や先輩、作品に入ってきたフリーランスのアニメーターたちには本当に恵まれていたと思います。業界に入ってまだ右も左もわからないなか、物覚えの悪い自分を根気よく丁寧に育ててもらっている。作品づくりのなかで、そのことを日々感じ思っていました。

そして、制作の先輩にあたる上司も、日々作業をこなすクリエイターたちも、社内社外問わず、毎日どうすればもっともっと作品を良くすることができるか、もっともっとすごいものが作れるか、そのことだけをひたすらに考え続けていました。その姿勢には本当に尊敬の念を強く感じました。

その尊敬は、今回団体交渉の相手側となる、スタジオの経営にあたるプロデューサーの方にも感じています。プロデューサーも必死で資金繰りをして、作品をすこしでも良いものにするために、会社を運営するために奮闘していたのは間違いないと思います。
作品を作ることにおいて、手を抜いてことにあたっているものなど誰もいないし、みなが本当に一生懸命なのです。

わたしがかかわった作品は大作で、その制作期間は相当長期に及びました。ときに苦しみのなかに立たされることもあったし、めげそうになったことも数えきれないほどありました。ましてや、入ってきて数年のまだ責任もそれほどない下端の自分ですらそうなのだから、直属の上司であったのアニメ―ションプロデューサーや、CGI監督や作画監督たちの重圧など、想像もできないほどだったと思います。

しかし、それでもひとえに良い作品を、と専心して制作にあたっている時間は本当に楽しい時間でした。そんなふうに苦しみながらも出来上がった作品には、その懸命さが、いってしまえば一人ひとりの魂のようなものが確実に宿っている。そのことを、試写のときに、たしかにある種の手ごたえとともに、身の震えとともに感じることができました。それは本当に素晴らしいことだし、そういう作品に携わることができた時間は、かけがえのないものだと心から思います。

でも、その試写が行われるころより少し前から、わたしは同時に次のようなことを思い、そして試写のときにもやはり考えてしまいました。

「わたしたちは本当に途方もないとてつもない挑戦をすることができた。そしてその挑戦に見合う到達もきっとできたはずだ。でもだからこそ、わたしたちは対価を得ないといけない。労働基準に見合った、最低限度の当たり前くらいのお金は、この畏敬の念を感じるほどの作品を作ったすべての人たちに支払われなければならない」。そう強く感じたのです。

安全のため、誇りのため、未来の作品のため、
仕事の責任としての対価

プロデューサーは、ぎりぎりまで資金繰りをして、死に物狂いで作品の完成という向こう岸までわたしたちを連れて行ってくれました。それは本当に大変なことだったと思います。そのことには感謝しかありません。でも、私たちの労働条件はまったく充分ではないし、最低限度の基準を定めた法にすら適っていないのです。

わたしたちは団体交渉で、直接的には「対価」としてお金を求めています。それを通じて勝ち取らなければならないものは、安全であり、健康であり、誇りであり、責任であり、そして未来の作品とそれが作られる場なのです。

わたしたちは、もともとアニメや映画という「作品」に魅了され、ときにそれを作ることに命がけになってしまいます。わたしたちはそれくらい本気で「作品」を作っており、そしてその作られた「作品」に誇りを持っています。「人生をかけている作品」さえ作れることができれば、お金のことなど二の次で良いと思えてしまうこともあります。しかし、アニメ制作というものを「仕事」とするなら、最低限のあたりまえの健康と安全が守られなければならないことは当然のことです。

わたしたちは「命がけでアニメを作っている」けれども、そのことと「命をかけなければアニメという仕事が成りたたない」ということは、一緒にされてはいけないと思います。命がけで一生懸命「作品」を作る一方、ごく自然に人間らしく、当たり前の労働環境で、生活環境で、少なくとも適法な待遇で、アニメという「仕事」をしたいという権利は当然守られなければならない。

人生をかけるほどの価値のある「仕事」に挑戦したなら、当然その「仕事」に対する敬意と対価として、お金が支払われなければならないはずです。わたしたちの誇りある「仕事」を粗末に、安く、搾り取られるように、無責任に売り渡してはいけないのです。たしかに、わたしたちの仕事には、最終的にお金に換えられない価値があります。しかし、それは無料でわたせるということではありません。わたしたちは仕事に誇りがあるからこそ、対価を求めなくてはいけません。

しかし、わたしたちが置かれているアニメ制作の現場は、人が奴隷ではなく、労働者として扱われるための最低限度の基準である労働基準法にすら適っていません。それらは裁量労働制や業務委託などで誤魔化され、働いた時間分の賃金すら払われなくてよいものであろうはずがありません。

ここで、わたしが最低限度の労働条件を求めることをわがままだと思って諦めてしまうことは、わたしよりもさらに過酷で文字通り命がけの状況に置かれてしまっている人たちの不当な過酷さを温存させてしまい、なにも変えることはないでしょう。

自分のおかれた環境がたまたま恵まれたものであって、幸運にも耐えきって生き延びることができたのだとしても、それをもって、その環境の外にある現状を肯定することは許されない。

それは、やはり正義ではないと思うのです。

【スタジオ4℃(3)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[中編]に続く

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