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大学で環境を学びたい人必見。暮らしと環境を守る魔法使いになるためには?

「大学では環境を専門に学んでみたい!」

この記事を開いたあなたは、おそらくそう思っているのではないでしょうか?

でも、なんとなく学びたいことは決まっていても、将来のことまでは具体的には考えていない、という方もいるかもしれませんね。

大学での学び、せっかく4年間も費やすのなら、楽しく、かつ将来に役立つスキルも一緒に身につけたいと思いませんか?

今回お話を聞いたのは、流域政策・計画学を教える瀧健太郎教授。

瀧先生によると、社会を前向きに生き抜いていく秘訣は、あらゆる学問を幅広く学ぶことで手に入れる「複眼」なのだといいます。

ここでいう複眼とは、対象をいろいろな視点から見ること。

先生に楽しく知識を身につけるコツを聞き、「大学で環境を学ぶってどんな感じなの?」というあなたの疑問にお答えします。


「人が自然とともに生きる」とはどういうことかを学んでほしい

——瀧先生は、どんな研究をされているのでしょうか。

洪水災害に強い街づくりと流域の生物多様性の保全、このふたつの視点から水循環のプロセスを研究しています。

山に降った雨が川に流れ、街を通って海までたどりつく一連の水循環を追いかけ解析し、防災・減災や自然再生に役立てています。

「災害」と聞くと身構えてしまいますが、水の流れを意識して身近な森や田んぼがどうあるのかを普段から理解しておくことで、地域で暮らす知恵が高まり、防災につながるんです。研究成果が人の暮らしを支え、自然を守り、持続可能な社会の実現に貢献できる点にやりがいを感じています。

——先生は、そもそもなぜ大学教員になろうと思われたのでしょうか。

学生のときは水文・水資源分野を専門にAIを使った研究をしていて、その後、滋賀県職員になり、「流域治水条例」というものを作るために18年間奔走してきました。無事に条例もでき、次は何をしようかと考えたときに、自分がこれまで得た知見や経験を若い人に伝えることが地域の未来のためになるのでは、と思ったんです。

「人間が自然と一緒に生きていくとはどういうことか」を学んだ学生が、この先50年、前向きに課題に取り組んでくれれば、社会は大きく変わっていきますから。それでキャリアを捨て、思い入れの強い滋賀県で大学教員になることを選びました。

——大学では、専門分野にもとづいて講義を担当されていますが、おすすめの授業はありますか?

「環境フィールドワーク」「環境計画学」この2つは特におもしろいと思います。1年生向けの「環境フィールドワーク」は、現役学生の多くが「好きな授業」として名前を挙げる人気のコースです。4人の教員による4つのプログラムを順番に体験してもらうのですが、そのうちの1つが僕がやっている「小さな自然再生の実践」です。大学の近くの小さな川で川の形を少し変えてみて、約1か月かけて生き物がどれだけ増減したかを評価して発表する、というものです。

2年生向けの「環境計画学」の前半では、自然環境と社会活動の関係に着目しながら、環境基本計画の概要を学びます。そして後半では、数理計画法、AI、プロミングの基礎まで、幅広く学んでいきます。この授業でいう数理計画法とは、「社会が直面する環境問題を数理的にモデル化し、それに対する最適な答えを導く手法」を指します。要は、計画策定のプロセスを数学的に理解して進行管理できるようになろう、という授業ですね。

——線形計画法について調べたら、難しそうな数式がいっぱい出てきました……。数学は苦手という学生さんも一定数いると思いますが、果たして楽しめるでしょうか。

僕の授業では「この知識を使ったら何ができるか」ということを最初に伝えます。たとえば、数理計画法を応用すれば「街の観光案内所をどこに作ると各地の名所から一番アクセスが良いか」とか「営業成績を上げるにはどんなルートで客先を回ればいいか」などの課題も解決することができるんです。

過去には授業の内容をおもしろいと思ってくれた学生が、数理計画法の考え方を応用して、最適な肥料の配分を自動計算するiOSアプリを自主的に作っていました。身の回りの問題解決にも活かせますし、就職してからも役立つ知識が得られるので、きっと興味を持ってもらえると思いますよ。

iOSアプリ「肥料の最適くん」
(画像をクリックでApp Storeに飛びます)

楽しいからこそ打ち込める。研究室で環境計画の最先端を学ぶ

——瀧先生の研究室の学生さんは、どんな研究をしていますか?

街ぐるみで水災害リスクを軽減する方法を考える「流域治水」や「自然再生」をテーマにした研究をしています。対象地域も、滋賀県はもちろん、北海道や海外などさまざまです。

《過去の研究の一例》
・石狩川と周辺の湖沼がつながることによって、市街地の浸水被害や周辺に生息するタンチョウの営巣確率がどう改善するかを評価する

・滋賀県の魚類分布データと水深データを使って魚類の分布モデルを作り、流域を整備する際の生態系を守る支援材料にする

・富栄養化が深刻化するフィリピンラグナ湖において、周辺の河川から流入する土砂量や風波が湖岸形成にどう影響するか調査して対応策を考える

・水中に設置する工作物が、河川にどんな影響を与えるかを解析して全国の自然再生を後押しするのに役立てる
……など

——環境政策・計画学科は卒業研究に注力していると聞きました。瀧先生が指導をする際に、特に力を入れていることはどんなところですか?

学生がワクワクするような研究課題を準備することです。研究結果が世の中や将来にどう役立つかを明確にした上で進めるので、「次はこうしよう」「あれをやってみよう」と、みんな楽しそうに研究に打ち込んでいます。

——企業との共同研究の機会もあるのだとか。

コンサルやメーカーなどに勤める実務者の人たちと一緒に研究できる体制作りをしています。自分の研究が社会にどう繋がるかダイレクトにわかりますし、研究成果が商品になったりすることもあるので、すごくやりがいがあると思います。

——先生の研究室は、大学院に進学する学生さんも多いと聞きました。学部生の指導と大学院生の指導で、大きく違う点はありますか?

大学院生には、研究仲間というか、同僚のような感覚で接しています。もちろん困っていたら助けますし、僕が困っていたら助けてくれるし、といった関係ですね。うちの大学院生たちは、相当の腕利きだと思います。

右も左もわからない状態で研究を始めた学生も、学部卒業のころには自分で問題を見つけて解決する力が養われていますし、さらに大学院で最先端の知識や技術を身につけて社会に出ていくので、まさに即戦力。その姿はまるで一級魔法使いのようなんです。

——みなさんが、すごくまじめに研究に打ち込んでいる様子が伝わってきます。

好きなことだから一生懸命やれるんです。決して強制されているわけではないんですよ。誰にでもやっていて楽しく感じる趣味などがあると思いますが、その好きなことのひとつに「研究」が加わるようにサポートするのが、僕たち教員の重要な役割のひとつだと思っています。

——つまり、学部生も大学院生も楽しく研究に取り組んだ結果、卒業しても役立つスキルが身につくということでしょうか?

その通りです。答えではなく問題を探す力が身につく。すなわち、自分でなすべき仕事を見つけ出すことができるようになるんです。社会に出てからも常にやりがいを見失わず、楽しく前向きに誠意をもって働く力が身についているので、どんな進路・どんな会社を選んでも活躍できると思います。瀧研究室で鍛えられた学生ならぜひ当社にほしい、と言ってくれる人もいるんですよ(笑)。

環境課題に貢献しながら社会で活躍できる人になるために

——瀧先生が思う、環境政策・計画学科の一番の魅力はズバリ何でしょうか。

やはり、文系科目も理系科目も幅広く学べる「文理融合」のカリキュラムが組まれている点ですね。今の時代、文系と理系の境目なんてほとんどなくなってきていますから。

——と、言いますと……?

たとえば、企業が商品開発の過程で行うマーケティングは、統計解析の知識、つまり数学が必要ですよね。その結果を実際に役立てようと思うと、社会学や法学の視点が必須だったりします。どちらかだけに偏っては絶対ダメで、文理融合してこそゴールを決めるまでの道筋が見える。この学科はさまざまな分野の学問を文理関係なく学べるので、物事をいろいろな視点から見る「複眼」を鍛える土壌になっていると思います。

——広い視野を持てるようになるということですか?

社会で闘っていくための武器を揃えて、それらを組み合わせて新しいアイデアを次々と出しながら、高みに登っていく感じですね。ある生き物のことだけを調べ上げるのではなくて、その生態をある程度知りながらもAIの知識なんかを身につけていれば「この生物にとってより良い環境を作るための分布モデルを作ろう」といった考え方ができるようになるんです。

——授業を聞いている段階では受け身でも、得た知識をうまく使おうという思考回路に変わっていくということでしょうか?

そうです。一見興味がない知識をシャワーのように浴びるのも、複眼を養う上ではすごく大切なことなんです。自分では絶対に買わないような本でも、友達から勧められて読んだ一冊が運命の出会いになることだってあるじゃないですか。大学の授業も同じです。幅広い知識を取り入れることで養われた複眼を持っていれば、いざ目の前に課題が現れたときに、それをどうやって解決しようかとすごくワクワクしてくるはずです。

——先生は夏に開催されるオープンキャンパスの授業も担当していますよね。研究のワクワクの一部を、そこで体験できるのでしょうか。

僕が担当している授業では、無料で使えるアプリや研究室で作ったツールを使って、生き物の分布図や生息に相応しい場所を示したマップづくりをしたり、新しい街を作るのに適した場所を考えたりします。研究室の学生が実際にやっている研究をぎゅっと圧縮したプログラムになっているので、大学でどんなことをするのかイメージできますし、高校のどの科目を頑張ればいいのかがわかるのでおすすめですよ。

——すごく楽しそうですね!
最後に、この記事を読んでいるであろう高校生のみなさんにメッセージをお願いします。

環境政策・計画学科では、すごく楽しい大学生活が送れると思います。「環境」とは、自然環境だけではなくて、「自分の周りや人が暮らす場所」という意味も含んだ言葉です。「まちづくり、地域づくり=環境」なので、環境を学べば、自分の知識や研究が社会のために確実に役立つということがわかりますし、課題を解決しながら未来を前向きに進んでいく秘訣を知ることができます。

新しいことを知れば知るほどワクワクしてくるのが、この学科で学ぶ一番の魅力です。社会を引っ張るかっこいい大人になりたい人は、ぜひ滋賀県立大学の環境政策・計画学科に来てください。みなさんの「環境について学びたい」という気持ちを、全力でサポートします!


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