見出し画像

「プロトタイプシティ」 出版記念イベントに登壇しました

インターネットプラス研究所 代表の澤田です。当研究所が支援しているニコ技深圳コミュニティの有志による新刊「プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション」がこの度 (2020/07/31) 発売されました。

※ 本書は Amazon.co.jp (Kindle電子書籍 / 単行本)、楽天ブックス (Kobo電子書籍 / 単行本)、ヨドバシBOOK☆WALKERセブンネットショッピングなどでお買い求めいただけます。

「プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション」は同コミュニティより深圳を深く知る精鋭が集まり執筆しており、出版を記念し執筆陣をフィーチャーしたトークイベントを連続開催しております。私澤田によるトークイベントが先日(2020/07/31)開催されましたのでセルフレポートします。

100人以上がオンラインで参加

今回のイベントは Peatix で告知して Zoom と YouTube Live で配信するとともに、Slido というイベント質疑応答システムを用いてインタラクティブなコミュニケーションがとれるようにしました。また #プロトタイプシティ のハッシュタグのツイートも拾いながら進行しています。

オンラインでも距離感を感じずに進められてよかったです。

「まず、手を動かす」が時代を制した

画像1

これまで日本が得意としてきた領域は主に「連続的価値創造」と呼ばれるもので、過去の実績を元に予測できる未来にガンガン投資をしていくスタイルの事業です。長大トンネルを構築する技術や自動車の燃費改善などがこれに当てはまり、失敗しないことを前提に全員参加で連続的な進化を志向します。

一方、深圳のプロトタイプシティが得意とするのは「非連続的価値創造」。これは予測した未来に沿って行動するのではなく、いま持ち得ている技術スタック(モバイル通信、センサー、AIチップなど)を活用して新しい未来を造りあげていくスタイルです。

画像2

過去の実績と市場がある連続的価値創造と異なり、非連続的価値創造は市場で受け容れられるかを含め失敗のリスクが高い打ち手です。従って失敗を前提にPDCAのサイクルを小さくし、萌芽のうちから高頻度で判断を繰り返していきます。

青魔術を白くする

非連続的価値創造のサイクルを高速化するには、ゴールの構え方が重要です。5GやVR、ブロックチェーンなどのバズワード的なテクノロジートレンドのことを某界隈では「青魔術」と呼んでいます。なぜそのように呼ぶかというと、連続的価値創造の延長にないことから社会実装のイメージが広く共有されず、イメージ画像が概念的な青い絵になりがちだからです

「脱青」するために研究室や社内で議論を重ねても当を得た結論はでてきません。プロトタイプ駆動の考え方ではこうした概念的な技術を実社会に製品として素早く投入して市場の反応を見ながら技術の方向性を明らかにしていくのです。

例えば「箱から出して30分でAIoT (AI + IoT)のデモがつくれる開発ボード」を謳うSipeed Maixは深圳から生まれました。

会社ではなく社会に問う

プロトタイプ駆動は評価のしかたも重要です。従来の組織が新しいプロジェクトに取り組む際、社内の意思決定ロジックで成否を占いプロジェクトの継続可否を判断します。これに対しプロトタイプ駆動ではプロダクトを社会にリリースし、売れ行きやビジネスの状況をもとにプロジェクトの継続可否を判断するのです。

画像3

また社会実装を優先した結果、プロダクトの初期段階においてアドホック開発というスタイルが選択されることが多いのも特徴的です。

いくら堅牢なシステムを開発しても社会で受け容れられなければ無駄の長物になってしまいます。小さくテストしビジネスとして成立するかを確認するまでは直感で雑に実装する「アドホック開発」というノールールなスタイルが支持されるのです。そう、うまくいったら作り直せばいいのです。

変わる世界秩序に惑わされずに得意なことで勝負する

いま、米中を中心に世界のパワーバランスが大きく変わろうとしています。資本主義の最先頭を走るアメリカ。それは資本家がリスクを引き受けることで信用を創造し、新しい産業を興せるからです。そうした役割を持たないソビエト社会主義では信用による事業拡大ができませんでした。

画像4

中国も社会主義をとる国ですが、市場経済制度を通して資本参加制度を取り入れています。それに加えて筆者が注目しているのがデジタルによる信用創造という新しい枠組みです。

画像5

資本家が引き受ける信用リスクとは何なのでしょうか。海運では輸送に長い時間がかかり、その間に商品の毀損、需要の変動、外為相場などで商品の価値が変動するリスクがあります。そうした変動リスクを証券化した金融商品を資本家は引き受けています。クレジットカードは店頭での読み取りから支払まで1ヶ月前後の支払サイトがあります。その間に支払い者が倒産するリスクや店が潰れるリスクがあり、それを肩代わりするのがクレジットカード会社です。

中国が取り組むデジタル経済ではお金は一瞬で届き、物流はIoTとブロックチェーンで透明性が上がり、ホテルの安全は従業員の良心ではなくAIが担保します。デジタル技術がもたらす「即時化」「システム化」「可視化」が資本家に頼らない新しい信用を生み出すエンジンになるのです。

デジタル技術を活用することにより、大資本や大組織に頼らずに新しいサービスを生み出すことができるという事実は、社会の混乱の影響を受けにくくモノ作りを進められることにも当たると思います。まず手を動かし、プロトタイプを通じて自らの存在意義を社会に問えることは新しいパラダイムです。

画像6

ざっくりとした流れ素が、紙面の都合で端折った箇所もあります。興味のある方は本トークイベントのアーカイブとスライド資料をご覧下さい。

次回イベントについて

このイベントは、プロトタイプシティの第二章を担当した澤田によるもので、本書の一部を切り抜いた話に過ぎません。豪華執筆陣によるイベントは今後も開催を予定しておりますので、是非ご参加下さい。

8月4日(火) 20時〜 GOROman (第五章担当: レガシー社会との戦い)

8月7日(金) 13時〜 伊藤亜聖 (第四章担当: 先進国と新興国、それぞれのデジタル化)

8月12日(水) 20時〜 藤岡淳一 (第三章担当: 「ハードウェアの聖地」深圳の秘密)

8月14日(金) 20時〜 山形浩生 (第四章担当: プロトタイプシティ成立の条件)

レビューお待ちしております

書籍をお読みいただいた皆さま、ありがとうございます。よろしければAmazonに書評をお寄せください。私どもの大きな励みになります!

まだお読みでない方は上記からご購入いただけます。あわせてよろしくお願いいたします。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?