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フリーランス新法が日本の産業構造を変える

フリーランス新法が2024年秋頃までに施行されます。同法が日本の産業構造の弱点である①新しい産業育成支援②多層下請け構造解体に繋がればと期待しています。

《フリーランス新法とは何か》
簡単に言えば「下請法で守られないフリーランスを保護する法律」です。下請法は、仕事を委託する大企業が、立場の弱い下請けに不当な取引条件を強いることを禁止しますが、「委託者は資本金1000万以上」、つまり資本金1000万円以下の企業の下請いじめを裁く法律はありません。そして、フリーランスに仕事を委託するのは中小企業が多い。
日経5月10日朝刊に「原料高騰を価格転嫁し上場企業は過去最高益、中小企業も価格転嫁が進む」とあります。中小企業の価格転嫁に下請法は強い武器、これをもっと弱い立場のフリーランスに、フリーランス新法です。


【フリーランス新法をざっくり紹介】
保護されるフリーランスは「従業員を使用しない個人企業(含法人)」です。
仕事の委託者は①従業員を使用する個人企業(含法人)」と②フリーランスに区分されます。
委託者の義務には「仕事内容、報酬額、支払期日の書面での明示」「報酬60日以内支払」「育児介護ハラスメント対策を講じる」「中途解約事前通知」等があります(委託者①②で課される義務の項目が変わります)。違反者には50万以下の罰金が課されます。

《フリーランス新法の影響》
罰金以上に怖いのは労働基準監督署立入等の風評でコンプライアンス上取引を控える会社が続出し、事業継続を危うくすることです。元購買担当の経験では、下請法対象企業との価格交渉には非常に気を遣います。「コンプライアンスに抵触すると会社も自分の立場も無くなる」下請法の存在は大きい。

「フリーランス白書2020(フリーランス協会編)」によると、フリーランスの年収は200万未満が22.5%、200~400万が22.9%です。サラリーマン平均年収約400万と比較し立場の弱さが伺えます。フリーランス新法はフリーランスの盾になります。

《新しい産業育成支援:アニメ制作の例》
新しい産業が生まれる時は小さな会社、その時不当な取引条件を強いられれば育ちません。
世界を席巻する日本のアニメ、でも「アニメーション制作者実態調査2019(JAniCA)」を見ると「はて?」と思います。アニメーション制作者の年収分布は年収400万未満が55%、働く人が低収入では産業は育ちません。
原因の1つはフリーランス比率が50%と高い事です。もう1つは、アニメ製作が多重下請け構造で、フリーランスと取引する委託会社は下請法対象外の規模であることです。

事例報告「実態調査にみるアニメ制作従事者の働き方」|労働政策フォーラム「アニメーターの職場から考えるフリーランサーの働き方」|労働政策研究・研修機構(JILPT)


アニメは高付加価値産業です。フリーランス新法が施行されれば適正な利益配分に改善されるでしょう。

《運送業界の多重下請け構造解体》
トラック運転手は実質フリーランスの方が多いようです。「2022年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態((社)日本トラック協会)」を見ると、トラック運転者の年収447万と会社員平均年収400万に比べ若干高いが、長時間労働(1日平均10時間)で収入割安感がある。
運送業界は多重下請け構造が特徴です。労働時間規制による人手不足で価格転嫁は進んでいますが、元請けから下請け、孫請けに利益転嫁が進んでいません。下請けの規模は下請法対象外です。アニメ制作業界と異なり、運送業界は高付加価値でなく、孫請けまで利益配分する余裕がない面も障害です。

この状況を放置すると人手不足が加速し日本の物流が廻らなくなる…多重下請け構造を解体する業界再編が進んでいます。5月10日日経朝刊によると、物流業界のM&A件数は10年前の2倍に増加しています。4月27日NHKスペシャル「物流激変2024~」では下請けが孫請けをM&A、多重下請け構造解体の様子が描かれました。フリーランス新法は業界再編を加速するでしょう。

《フリーランス新法の問題点》
フリーランス新法を評価する話をしましたが、課題もあります。現在は、保護対象が「従業員1名の会社」だけ、従業員が1名でもいれば対象外です。規制対象も直接委託のみ、間接委託の元請けにも利益適正配分の責任を担わせてはと思います。
ただ「議論するより早く施行して産業構造改善を優先し課題は追って法改正」が私の意見です

ではまた次回

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