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【有給問題】#02 ~有給休暇と働き方改革 法改正対応へのアドバイス~

こんにちは。社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆です。

先日投稿した『【有給問題】#01 ~今だからこそ改めて有給休暇の本質を見よう~』にたくさんのお問合せを頂き、 ありがとうございました。

今回は、「年次有給休暇(有給休暇)と働き方改革」についてお伝えしていきます。

有給休暇についても、働き方改革によって労働基準法の改正がなされ、2019年4月から「企業が従業員に年5日の有給休暇取得させること」が義務となります(以下、「有給5日義務付け」と称します)。

しかも、この義務は罰則(罰金)付きです。
企業の規模を問わず義務化される上に、施行まであと半年強しかありません。ぜひ、この記事を参考にして、対応を急いでください。



★有給休暇に関する法改正の内容とは?

気になる「有給5日義務付け」について、もう少し詳しく説明します。

企業(使用者)が、年間の有給休暇消化日数が5日未満の従業員(正確には年10日以上の有給休暇の権利があって、消化日数が5日未満の従業員)に対して、有給休暇取得の希望日を聴き、その希望を踏まえて有給休暇を取得すべき日を指定し、有給休暇を取得させることが義務付けられたのです(改正労働基準法第37条第7項)。


★どう対応すればいい? 

「有給5日義務付け」ですが、現状で有給休暇の取得日数が、全員年5日以上取れている企業や、呼びかければ全員年5日以上取れそうな企業は、新たに特別な対応策を考えずとも、法改正に対応できる可能性が高いでしょう。

問題は、それ以外の企業の対応です。
対応のためには、「全体的」と「個別的」、2つの視点から対応策を考えていく必要があります。


★全体的視点での対応策とは?

全体的な視点とは、企業全体としてどのような制度が導入可能なのか、という視点のことです。

制度設計という、大掛かりな話になりますので、「すでに制度があるならば有効に活用しよう」という視点から考えを進めていきましょう。 


「すでにある」かどうか確かめていただきたいのは、「年次有給休暇の計画的付与制度」(以下、「計画的付与制度」とします)です。


計画的付与制度とは、有給休暇の内5日を超える分については、労使協定を締結することで、計画的に有給取得日を決定できるものです。(労働基準法第39条第6項)

例えば、お盆休みや年末年始休みと計画的付与日を合わせたり、GWの前半と後半の間の平日を計画的付与日とし長期休暇としたりすることができます。 


計画的付与制度が自社にすでにあるかどうかをスタートラインにして、法改正対応をどう進めていくかの例をフローチャートにしてみました。 以下の図をご覧ください。


出発点は、「計画的付与制度の有無」となります。


まず、計画的付与の制度をすでに導入している企業の方から、フローチャートの矢印を下へとたどっていきましょう。

すると、次の箱(図形)で、付与日数が「5日以上」かどうかが問われています。


導入済みの計画的付与の日数が、年5日以上であれば、今回の法改正のために新たな対応をする必要はありません。


しかし、年4日以下だとすると、赤色の矢印をたどって、「年5日以上の付与に変更可能か」という問題を考えてみてください。


ここで、変更可能であれば「対応A」へ、変更ができなければ「対応C」へ進みます。具体的な対応については、後でご説明します。


次に、計画的付与制度を導入していない企業の場合です。
これから、「年5日」以上の計画的付与制度は導入可能でしょうか。
可能であれば「対応B」へ、導入が難しければ「対応C」へ進みます。

☆対応A 年5日以上の計画的付与実施のために労使協定を結び直す
☆対応B 年5日以上の計画的付与を内容とする労使協定を締結
☆対応C 抜本的対策が必要

対応A・対応Bは、いずれも計画的付与制度の導入での対応ですから、厚生労働省のホームページなどをご覧になれば対応可能でしょう。


しかし、対応Cは、これだという「型にはめる」ことがすぐできません。


この部分のコンサルティングは、社会保険労務士としての腕の見せどころとなります。見方を変えれば、社労士によって実力の差がはっきり出る部分でもあります。
フローチャートで対応Cにたどり着かれた場合には、ぜひ一度弊事務所へご相談ください。各企業の実情に応じた制度をご提案します。

ここまで触れませんでしたが、留意すべき点として、今回の法改正は「年10日以上の有給休暇の権利」を持つ従業員が対象ということになります。
対象外の従業員に関してどう考えるかなどと言った問題などについても、個別のご相談の中でお伝えしていきます。


★個別的視点での対応策とは?

前述の対応Aから対応Cのどの対応をするにしても、制度設計という全体的な視点にとどまっていては、真の「働き方改革」は達成できません。

前回、有給休暇とは「従業員がリフレッシュするために休暇を取る権利」とご説明しました。
「有給5日義務付け」への対応には、従業員一人ひとりがリフレッシュできているか、という個別的な視点からの検討もしなければなりません。

実際のところ、どの従業員も満遍なく有給を十分取得している、という企業はなかなか存在しないというのが、社労士としての実感です。


たとえ全体的視点から制度を整備して、「もっと有給を取得しなさい、制度だから」とアナウンスしたとしても、個別の従業員からすると、「そんなに簡単に休めないよ」「だったら仕事を減らしてよ」といった形で受け入れてもらえないかもしれません。

従業員一人ひとりの作業量を把握した上で、十分な対策を講じるというステップを踏まずに、制度だけ導入しても、「絵に描いた餅」になってしまいます。


それでは、従業員が真にリフレッシュできないばかりか、モチベーションが下がることになりかねません。

さらにいえば、「もっと仕事をしたいから、有給休暇は取りたくない」という意見すら出てくる可能性すらあります。


ですが、「有給5日義務付け」である以上は、対象となる従業員全員に最低でも年5日は有給休暇を取得してもらう必要があるのです。


★全体的・個別的、両者の視点を統合して対応を!

「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、今回の「有給休暇5日義務付け」に関しては、全体的な森(制度)と個別的な木(従業員)の双方をバランスよく見て行かなければ、対応が難しいというのが正直なところです。

このバランスを達成するには、「生産性」という視点から統合して見ることがどうしても必要になるでしょう。


生産性(労働生産性)とは、どれだけのインプット(人員の投入)に対して、どれだけのアウトプット(生産の量および質)が得られたかというものです。

第4次産業革命ともよばれる、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの新たなテクノロジー活用が本格化する時代に企業が生き残るためは、単に量を追うだけでなく、質、つまりどれだけの付加価値を生み出せたかという知的な側面が重視されます。
そのためには知的生産活動に取り組む従業員が心身ともにリフレッシュすることが非常に重要になります。

「働き方改革」は、過重労働などのマイナスを防ぐだけでなく、心身の状態をプラスに持っていくことで生産性を向上させるための起爆剤となるものなのです。

ですから、従業員だけでなく企業にとってもプラスになります。

だからこそ、企業は適正な人員配置や効率化の工夫によって、従業員一人ひとりがリフレッシュするための有給休暇を取得する余裕を作り上げていく必要があります。


ここまでお読み頂いた経営者や人事労務担当者の方々には、自社の現状を法改正に対応させる作業を思い浮かべるだけで、「参ったな」と感じていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。

しかし、インターネットの普及や働き方改革の浸透により、有給休暇に関するフェイズは完全に変わりました。

この法改正を悲観的に受け止めず、対応することが生産性を向上させ、イノベーションにつながる良い機会なのだと、まずは楽観的に捉えるようにしてください。


幸いなことに、人事労務分野にも第4次産業革命の波が及び、HRテクノロジー本格活用の時代が到来しています。
最新の勤怠管理ソフトなどHRテクノロジーを活用することで、従来よりも遥かに容易に「森も木も見る」人事労務管理が可能になっています。

先ほど、「対応C」に該当された場合は抜本的対策が必要とご説明しましたが、実際のコンサルティングの場では、その対策にHRテクノロジーを活用されることを積極的におすすめしています。

施行時期は、2019年4月1日で、あと半年程度しかありません。さぁ、すぐに取りかかりましょう!


【有給問題】シリーズ
#01  ~今だからこそ改めて有給休暇の本質を見よう~
#02 ~有給休暇と働き方改革 法改正対応へのアドバイス~
#03   ~有給休暇義務付けのその先へ~


それでは次のnoteでお会いしましょう。

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