見出し画像

【有給問題】#01  ~今だからこそ改めて有給休暇の本質を見よう~

こんにちは。社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆です。


今回は、有給休暇(年次有給休暇)とは何か、についてお伝えしようと思います。


つい最近のニュースで、ある企業において、上司がクイズの結果で有給休暇を取得できるかどうかが決まるかのようなメールを部下に送ったという、驚くべき出来事が報じられました。

これは極端な例ですが、社労士としての日々のコンサルティングの中でも、有給休暇の本質についてまだまだ理解不足な面があるな、と実感することがあるのも事実です。


労働法に関する理解不足は時として重大な労使トラブルを招くことに直結しますので、この機会に有給休暇に関する基本を読者の皆様と再確認していきたいと思います。

特に、人事労務管理担当者の方には、社内で経営者や管理職の方に、有給休暇への理解を深めてもらうきっかけにしてくださるとありがたいです。



★「有給休暇の本質」とは?

有給休暇の本質をひとことで言うなら、「従業員がリフレッシュするために休暇を取る権利」ということになります。

従業員が心身のリフレッシュを図り、また、自己啓発の機会を持つことを可能とする趣旨で、従業員が賃金を受けつつ休暇を取ることができるようにした労働基準法上の権利なのです。


通常の休日は、従業員の心身の疲労の回復ということが主な目的になります。
これはいわば、「マイナスをゼロ」まで戻すような感じの休みですが、有給休暇はより積極的に、リフレッシュや学びという「プラス」の効果を目指した休みだということになりますね。


なぜこのような制度が設けられたかというと、法定の休日以外に会社を休んでリフレッシュしたいと思っても、そもそも会社が休みを認めてくれなければ休めません。

さらに、休めたとしてもお給料が出ないのでは、休む気になかなかならないでしょう。そこで、労働基準法は従業員の権利としてお給料の心配をせずに、リフレッシュできるようにしたのです。


従業員がリフレッシュしたり、見聞を広めたりして心身ともにプラスの状態で職場に戻ってくることは、生産性の向上にもつながり、企業にとってもプラスの効果が期待できます。


このように、本来は労使ともにWin-Winの関係になれるはずの有給休暇制度ですが、わが国の有給休暇の取得率が国際的に見て低いと長年言われ続けていることは皆さんご存知のことと思います。そこで、日本の有給取得率はどれくらいなのか見てみます。



★国際的に見た日本人の有給取得率はやはり低かった!

厚生労働省の調査(平成29年「就労条件総合調査)によると、平成28年の1年間に企業が付与した有給日数(繰越日数は除く)は、従業員1人平均18.2日です。
そして、有給取得率は49.4%、取得した日数は9.0日という結果が出ています。

有給を約半分取得しているという数字は多く感じるでしょうか、それとも少なく感じるでしょうか。実感としては、「そんなに多く有給を取ってないよ」という人も多い気がします。


このデータをより細かく見てみると、従業員1,000人以上の企業の有給取得日数は10.6日であるのに対して、従業員30人から99人までの企業では、7.3日と、実に3日もの差があります。従業員29人以下の企業の数字はありませんが、さらに少なくなりそうです。
このあたりが、先ほどの調査と実感のずれの原因だと思われます。


そして、この数字が国際的に見てどうなのかを考える際に参考になるのが、総合旅行サイトのエクスペディア・ジャパンの調査(世界30ヶ国 有給休暇・国際比較調査2017)です。

なんと、日本人の有給取得率は世界30ヶ国中で2年連続最下位だそうです。この調査での日本の有給取得率は50%で、各種の国際調査で日本と似た結果になることが多い韓国ですら67%の取得率で、その他の国は70%超えから100%まで、日本人からしたら驚きの高さの数字がずらりと並んでいます。

やはり、日本人の有給取得率は低いと言えそうです。



★労働基準法を見てみよう!

日本の有給休暇取得率が国際的に見て低い原因として、働くことを美徳とし、空気を読んでしまう日本の国民性や、いわゆる日本型雇用が長時間労働を生んでいることなど、さまざまなものが指摘されています。

ですが、個人的には、「有給休暇とは何か」という本質的な部分が、労使ともにしっかり理解されていない場合が多いことに大きな原因があると感じています。


有給休暇は「従業員がリフレッシュするための休暇を取る権利」でした。
この観点から、有給休暇に関する法律の具体的な定めを確認していきましょう。

具体的には、労働基準法第39条が有給休暇について定めています。

2つの重要なポイントがありますので、まず、ここをしっかり理解してください。
 
1つ目のポイントは、有給休暇を取得することは従業員の権利だということです。

使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。(労働基準法第39条第1項)

 と、労働基準法に定められています。

権利と義務はコインの裏表の関係に通常ありますので、有給休暇を与えることは経営者の義務であり、同時に従業員の権利であるということになります。

有給休暇は企業が恩恵として与えるものではなく、一定の要件を満たせば従業員が当然に取得できるものなのです。


先般の「有給クイズ」の例は、この権利である点を無視してしまったわけですから、非常に問題があります。
部下のお財布の中の1万円札を取り上げて、「クイズに正解したら、この1万円札をやるぞ」と言ったようなものだと言えば、その問題点が実感できるのではないでしょうか。
しかも、そのクイズは絶対に正解できないわけですから、大問題です。


話を労働基準法に戻しますと、有給休暇は勤務期間が増えるごとに、下の表の通り、増加してきます(労働基準法第39条第2項)。

(出典:しっかりマスター労働基準法有給休暇編


なお、一週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ない者(≒週4日以下の従業員)は、下の表にあてはめ、有給日数を与えます(労働基準法第39条第3項)。週5日の従業員よりも少ない日数となっています。

(出典:しっかりマスター労働基準法有給休暇編


2つ目のポイントは、有給休暇は従業員がリフレッシュしたい日に取得できるということです。

使用者は、(中略)有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない(労働基準法第39条第5項本文)

と定められているためです。

例外として、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」(労働基準法第39条第5項但書)と定められておりますが、これはあくまでも例外規定で、「余人をもって代えがたい」という極めて限定的なレベルであることを要求されます。

個人的に、この例外規定を濫用している企業が、労使トラブルに発展している印象があります。


そもそも、なぜ従業員が希望する日に与えなければならないかといえば、有給休暇が「リフレッシュ」するための権利だからです。

例えば、好きなスポーツの観戦や、好きなアーティストのライブに行くことでリフレッシュしたいと思って、せっかくチケットを予約したのに、「別の日にして」ではリフレッシュになりませんよね。企業としては、どうしてもその日にその従業員に働いてもらわないと困る、というレベルでない限り、有給休暇を取得させる義務があるのです。

以上の2つのポイントは、1つ目が「権利」、2つ目が「リフレッシュ」に関するものでした。

これで、「有給休暇は従業員がリフレッシュするための権利」ということがお分かりいただけたのではないでしょうか。



★「そうは言っても現実は…」と言えない時がついに来た!

実際には、大企業は別として、多くの中小企業では、有給がなかなか使われてこなかった(従業員からすると「使えなかった」)のが現実です。

政府もこの有給休暇取得率の低さには頭を痛めていて、これまでにも有給取得促進のための法改正がされてきましたが、それでもなかなか功を奏しませんでした。


しかし、インターネット、特にSNSの普及で、「有給休暇はリフレッシュするために休暇を取る権利」であることが常識化しつつあります。

このような状況の下で企業側が何らの手も打たないでいると、労使トラブルの火種に油を注いでいるのと同じと言っても過言ではないでしょう。

また、「有給休暇を取りにくい」と従業員に思われてしまうことは、人材確保やエンゲージメントの面からもマイナスになってしまうというリスクもあります。


それだけではありません、来年(2019年)4月には改正労働基準法が施行されて、年間の有給休暇消化日数が5日未満の従業員(正確には年10日以上の有給休暇の権利があって、消化日数が5日未満の従業員)については、企業が有給休暇を取得すべき日を指定し、有給休暇を取得させることが義務付けられました。


「働き方改革」の一環としての法改正ですが、もはや有給休暇に関するフェーズが完全に変わったことを、企業は自覚する必要があります。

法改正に無対応や対応不足の場合、企業に罰金(30万円以下)が科されることになっていることからも、政府の本気度がわかります。

「働き方改革」では「生産性」(これも最近悪い意味で話題になりましたが)という言葉もよく登場します。
従業員がリフレッシュすることが生産性の向上につながるような人事労務管理が本格的に求められる法改正がなされたということです。


この法改正への対応については、各企業にとって非常に重要なものとなりますので、回を改めて、「働き方改革における有給問題」をお話しますね!

【有給問題】シリーズ
#01  ~今だからこそ改めて有給休暇の本質を見よう~
#02 ~有給休暇と働き方改革 法改正対応へのアドバイス~
#03   ~有給休暇義務付けのその先へ~

社会保険労務士法人シグナル問い合わせ先 info@sharoushisignal.com
※現在お問い合わせを多数頂いているため、ご要望に添えない場合がございますことを予めご了承ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?