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三重晴三、芸能界入り!?『きみをスターに』/キミをスターに①

芸能界という響き。憧れる人もいるとは思うけれど、僕などはそれほど興味が沸かない。苛烈な競争社会でありつつ、コネ社会でもある。実力も必要だし、運も絶対に必要。夢のある世界なんだろうけれど、単純に生き残るのが大変そうに思えてしまうのだ。

そんな芸能界も、最近は間口が広まっているように思える。というか、芸能人と一般人の垣根が取り払われてきているようなのだ。

YouTuberだったり、地下アイドルだったり、Kindle作家だったりと、事務所や出版社などに頼らずに、自分から発信できるやり方も増えてきているし、自己発信を足掛かりにしてテレビに出てタレント活動を始める人もいる。

また、芸能人と言えばテレビに出てなんぼという時代もあったと思うけど、今はそうではない。舞台だったり、ラジオだったり、TikTokのようなSNS上で人気が出て、コアなファンを獲得する例も枚挙にいとまがない。


ただ、芸能界への敷居が下がった代わりに、芸能界に踏みとどまり続けるのも苦労する時代に入ったと言えるだろう。人気YouTuberが廃業するケースも良く見られるし、アイドルも大量にデビューしたと思えば大量に「卒業」してしまう。

大御所クラスでも大手事務所を独立して姿を消してしまうケースもあるし、お笑い芸人もコンビ解散をきっかけに芸能界を辞める、なんていう話も聞く。

サラリーマンをやっていて、なかなか「廃業」することも、「卒業」することも、「事務所独立」することもないわけで、その点、「サラリーマンは気楽な稼業ときたものだ」(by ハナ肇)は、今にも生きているように思えるのである。


さて、藤子ワールドでは、芸能界に強く憧れて、何とかしてデビューしようと画策する人たちが、時々現れる。

藤子マンガ全盛期は、子供たちがまだまだTVタレントに対して夢と憧れを抱く時代だったので、当然、藤子作品でもそのテーマは幾度も取り上げられているのだ。

そこで本稿から数回にわたって、「スター」を目指す藤子キャラたちをご紹介していこう。


「パーマン」『きみをスターに』
「てれびくん」1984年4月号/大全集7巻

突然だが、「パーマン」世界の大スターと言えば、星野スミレ一択である。まだ小学生ながら、歌番組やドラマ、映画まで幅広く活躍する少女スターで、みつ夫を始めとして、国民全体が彼女の熱烈なファンとなっている。

本作冒頭、スミレちゃんがTVのインタビューに答えていて、デビューのきっかけは町中でのスカウトだったということが明かされる。最近はオーディションでスターへの切符を掴む人が多そうだが、かつてのアイドルは原宿などで声を掛けられて・・・ということが王道であった。

ちなみにこのテレビ番組の司会者はどう見てもタモリである。


みつ夫が「偶然は本当にあるんだ」などと呟きながら外へ出ると、三重晴三がタレントにスカウトされたという話が聞こえてくる。

三重晴の回りくどい自慢話によれば、自宅の庭で歌をメドレーで口ずさんでいたら、塀の外から「うまい!!」と声を掛けられたのだが、それがバニーズプロのスカウトだったと言う。

スカウトは三重晴には大スターの素質があるという。そして、今度有名な太林監督「時どきこける少女」という星野スミレ主演のSF大作を撮るにあたり、その相手役に歌って踊れる美少年を探しているので、事務所に来て欲しいと言われたらしい。

言わずもがなだが、「時どきこける少女」は「時をかける少女」、太林監督は大林亘彦監督のパロディである。「時をかける少女」は1983年の夏に大林監督、原田知世主演で公開した角川映画で、配収28億円という特大ヒットを飛ばした青春映画の金字塔である。

同時上映は、薬師丸ひろ子主演の「探偵物語」。今考えても、どうにかなりそうな最高の二本立てである。


三重晴はさっそくおめかしして、ママと一緒にバニーズプロへと向かう。話を聞いていたサブは、インチキプロダクションではないかと疑う。タレントにしてやると騙して金を取る悪い奴らではないかと言うのである。

きっとそうだということで、みつ夫はパーマンになり、パワッチ!と三重晴の車を追う。すると、オフィス街ではなく、倉庫街に車が止まり、三重晴たちは、狭い入り口の中に案内される。

するとあら不思議、バニーズプロとデカデカと看板が掲げられた立派なビルが建っており、中に入ると既に太林監督がお待ちかねだと言う。そして大林亘彦に見た目そっくりの太林監督に、面会後すぐに「気に入った」と太鼓判を押されて、スミレの相手役の大抜擢が決まる。ギャラは500万だという。


パーマンはこっそりと話を聞いていたが、「どうも本当らしいや」と渋々事実を認めつつ、「しかし、やっぱり納得できない!!」と不満あり。

サブやカバ夫たちは、騙されたのではないと知ると、急に「友だちがスター」「サインして」とチヤホヤ始めるが、みつ夫はどうしても信じられないと、一人離れていく。


さて、その晩、ハッピーだった三重家に暗雲立ち込める電話が掛かってくる。相手は太林監督で、映画会社との製作費の折り合いがつかず、撮影を断念すると言う。

晴三の主役が立ち消えとなり、家族は大慌て。パパが電話に出て、いくら足りないのかと監督に迫り、必要な一億円を明日届けると約束する。三重家が金持ちとは知っていたが、一日で1億をキャッシュで用意できるとは、想像を上回る富豪である。


さて、三重晴の映画出演に納得しきれないパーマンは、その話をパー子にすると、「変ねえ、そんな話聞いてないわよ」と、事情通のような感想を口にする。「君に関係ないよ」とパーマンは答えるが、まさか今話している相手が星野スミレだとは露知らず。

パー子は続けて、「太林監督に会ったと言うのがおかしいわ」と言う。監督は次回作のロケハンで九州に行っているのだそう。さらにバニーズプロも聞いたことがないし、ビルが建っていた場所は、もともとビルなどない場所だと言う。

なんでパー子はこれほどの芸能通なのか、疑われそうなものだが、スミレちゃんの友だちということになっているので、何となく聞き流しているのだろうか。


バニーズプロに約束通り一億円を届ける三重晴。「晴三君は大スターになりますよ」とニセ太林に声を掛けられる。

すると、「こんなことだと思ったわ」とビルの天井がメリメリと剥がれて、パー子が姿を現す。ここは西宝撮影所のオープンセットで、バニーズプロの看板を付けて、粉飾していたのである。さすが普段から撮影所に出入りしている星野スミレ、もといパー子である。

すっかり騙されていた三重晴たち。「甘い話には気を付けることですね」と忠告すると、晴三は「このことを知られたら恥ずかしくて生きていられない」とあくまで体面を気にする姿勢。さすがは見栄を張る男である。

優しいパーマンは「黙っててやるよ」と約束するが。この後晴三は、カバ夫たちには「やっぱり勉強の方が大事だから、きっぱり断った」と最もらしい言い訳をする。

「もったいない」「三重さんて真面目なのね」と引き続きチヤホヤされる三重に対して、裏事情を知っているだけにイライラするみつ夫なのであった。


さて、本筋とは離れるが、「時をかける少女」で知世ちゃんの相手をしたのが、高柳良一氏であった。角川主催のオーディションで抜擢され、その後角川書店の編集者になったという異色の経歴を持つ。

いつだか、「時かけ」のリバイバル上映があって、原田知世と高柳氏が登壇するというので駆けつけた思い出がある。大林監督もまだお元気だった。そして映画は何度見ても傑作なのであった。



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