見出し画像

落涙必至!? 愛岩との離別と再会『かわいい石ころの話』/ドラえもん「感動×動物」傑作選⑤

ドラえもん「感動×動物」傑作選と題して、主にペットと飼い主の交流を描いた感動作をご紹介している。これまでに4作品を見てきたが、どれも切なく、心が温まるようなお話ばかりであった。

これまでの記事はこちら。

しずちゃん×ペロ

キョーボー×ベソ

のび太×ハナちゃん(子ゾウ)

のび太×イチ(のら犬)

さらに同系統のお話としてこんなのもありました・・。

のび太×フー子(ミニ台風)


本稿ではシリーズのとりあえずの最終回として、少々異色の「ペットもの」を取り上げたい。これまでのペットは台風含めて一応生き物であったが、今回はなんと無機物。

かなりヘンテコな展開なのだが、最後はちょっと感動して涙を零してしまう。そんな不思議な魅力のある作品なのである。


『かわいい石ころの話』
「小学二年生」1980年2月号/大全集11巻

「名犬ラッシー」というドラマ(アニメ)がある。少年とラッシーという名前のコリー犬との離別と再会までを描いた感動作である。

原作は1940年にイギリスで発表され、すぐに映画になったり、ドラマ化されたりした。日本にも戦後には紹介され、テレビの黎明期である1954年から長くドラマが放送されていた。

藤子先生とも縁が深く、1958年には二ヶ月連続の掲載作品としてマンガ化させており、さらには1960年から一年間連載マンガにもしている。

まだこちらの作品についてはレビュー記事を書いていないが、近く取り掛かる予定である。


なぜそんな話題から始めたかと言うと、本作『かわいい石ころの話』のベースは「名犬ラッシー」だからだ。しかも少年役はのび太ではなく、意外にもスネ夫という変わり種。

お話冒頭では、のび太が「名犬ラッシー」ではなく、「名犬ラッキー」というドラマ(アニメ?)を見ている。ラッキーと少年が夕日をバックに感動的な再会を果たして、抱き合うところで放送が終わる。

最終回でも良さそうだが、「来週をおたのしみに!」とテロップされていることから、まだこの後も一波乱続くのかも知れない。

のび太もドラえもんも、涙を流して感動し、のび太は「犬って可愛いものだなあ」としみじみしている。のび太はスッと立ち上がり、ママの元へと駆け寄る。

するとママはのび太がひと言も喋らない内に「犬なら飼いませんよ」と釘を刺す。「名犬ラッキー」を見て犬が飼いたくなったことを、丸っとお見通しなのである。

そこでのび太はドラえもんに頼りに行く。すると今度ものび太が何も言う前から「犬の代わりに何か出せと言うんだろ」と機先を制して、「ペットクリーム」というチューブ状のクリームを出す。

このクリームを石ころに塗ってよく磨くと、犬みたいになるというのだが、それは一体どういうことなのか??


石はどんなものでも良いらしい。本物の犬と変わらないようになると言う。さっそく庭に出て、目をつぶって適当な石を手にする。それは小さくて黒い石で、のび太は「パッとしない」などと言っている。

この石にクリームを塗ってよく磨く。磨けば磨くほど懐く仕組みらしい。しばらく磨くとピョコと動き出し、のび太をご主人様と認識して、纏わりついてくる。さっそく甘えているのである。

名付けのシーンは出てこないが、後ほど説明もないままにクロと呼ばれることになる。クロは、のび太が歩く後をコロコロと付いていく。クンクン鳴いたりして、いきなり愛おしいのである。


ペット石のエサは砂と水だということで、近くの公園の砂場に取りにいく。ペットを飼う時の問題の一つである餌代については、全く心配なしである。

ただ一応犬になっているので、おしっこ問題は発生する。特に最初はしつけていなかったので、部屋の隅でモゾモゾ始めたかと思うと、シャーとおしっこを出してします。

そのドタバタを聞きつけた、ペット防御アンテナを張り巡らしているママが、「のら犬なんか連れ込んで・・・」とかち込んでくるが、さすが石には何も言えなくなる。


ここからは、石のクロとのび太の交流が描かれていく。「ドラえもん」にはペットものはいくつもあるが、その時ののび太の可愛がり方は、とても見ていて楽しげで、ペットを飼う喜びに満ち溢れている

まずは散歩へと連れ出す。気持ちは犬なので、ワンワンと大喜び。犬も人間も、体を動かすことは大いなる快楽なのだと、ペットを見るとよく思う。

表では、凶暴そうな犬とバッティングしてバトルとなってしまうが、犬のようで石なので、相手の犬が噛んでも効かないだろうし、逆に体当たりは結構なダメージが与えられそうである。

案の定、クロが獰猛な犬を蹴散らして、その強さを発揮するのであった。


まだ生まれたて(?)の石なので、空き地では大はしゃぎでワンワンと走り回る。そこでのび太はそ~っと隠れてみようと思いつく。走り回っていたクロだったが、ハッとのび太の姿が見えないことに気が付き、うろうろと空き地を探し回る。

ハッと我に返るクロの姿は、本物の動物のように見える。素晴らしい画力である。

しまいにはクウンクウンとベソをかくクロ。さすがに可哀そうだということで、隠れていた土管の奥からのび太が姿を現すと、ワンワンワンと一生懸命に向かってくる。

のび太も「クロ」と呼びながら走り寄っていく。のび太とクロの再会の様子は、冒頭でのび太が見ていたテレビでの名犬ラッシーの場面と同じである。

「感動的だなあ」などと呟くのび太だったが、思い出して欲しいのは、クロはあくまで石だということである。二人は感動的に抱き合うのかと思いきや、クロはガツンとのび太の顔面へと衝突して、大ダメージを負ってしまうのであった。


さてさて、のび太が楽しんでいるのを、他のメンバーが放っておくわけがない。しずちゃん、ジャイアン、スネ夫とクリームを借りてそれぞれにペット石を作ることになる。

負けん気の強いジャイアンとスネ夫は「あんなのに負けない名犬を作るぞ」と意気盛ん。このパターンはだいたいうまくいかないことになるのだが、果たして・・・。


しずちゃんはおそらく家の中にあっただろう水晶の玉を犬にする。真ん円できれいな、しずちゃんらしい石のチョイスである。

ジャイアンはペット犬に強さを求めるタイプということで、大きめの漬物石をペットにする。これもジャイアンらしい選択だ。

そして問題はスネ夫。スネ夫は自分の体ほどもある巨大な庭石をペットにしたらしく、ドスドスと荒っぽく登場したかと思うと、ガオとまるで猛獣のように吠え立ててくる。

スネ夫は庭石にサムソンと命名し、「固い友情で結ばれているのさ」と抱き合う。獰猛だったサムソンも、スネ夫の前ではクウンとかわいく甘えるのであった。


庭石がなぜヤンチャなのかは不明だが、サムソンは夜中でも大声でガオ・・と鳴いているようで、その声はのび太の家まで聞こえてくる。

翌朝、たんこぶなど怪我だらけのスネ夫がボヤく。サムソンが庭を滅茶苦茶にするし、夜通し吠えるのだという。体が石なので、寝なくても大丈夫そうである。

その結果、スネ夫のママからどこか遠くへ捨ててこいと命じられたらしく、ドラえもんにどこでもドアを借りて、遠くへとサムソンを捨てることになる。

「のら石にするとかわいそうだよ」とのび太たちは言うが、もうどうしようもない。スネ夫は青森にサムソンを置いてくるのであった。

ここでは「なぜ青森?」と思うところでもある。青森は東京からは離れているが、あくまで同じ本州の陸続き。ここで北海道とか九州などを選択していれば、この後のようなことはなかったかもしれないのだが・・・。


それから一週間。のび太としずちゃんとスネ夫で下校していると、遠くからワンワンという声が聞こえてくる。ワンワンワンとスネ夫に飛び込んでくるのは、巨大な庭石サムソンである。

サムソンは「名犬ラッシー」と同様に、青森と言う遠く離れた地から、はるばる飼い主と再会するために大冒険してきたのである。

スネ夫は巨岩に押し潰されてノックアウトだが、のび太は「感動的だなあ」と思わず涙を零す。大笑いしながら、少しほっこりする見事に泣き笑いのラストシーンなのであった。




この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?