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お花見=桜+ご馳走+団らん!『かべ景色きりかえ機』/Fキャラお花見騒動①

今年(2024年)は桜の開花が早いと予測されていたが、3月上旬に寒の戻りがあって先延ばしとなり、結局例年よりも遅い開花となった。

自分は「お花見を毎年欠かさない!」みたいな気合いの入った人間ではないのだけど、満開の桜の下を歩くのは嫌いではない。桜の開花は、不思議と何か根本的な喜びを感じさせてくれるものなのだ。

桜(ソメイヨシノ)の開花は、気温の上昇がその条件となるので、桜が咲き始める時期と暖かくなって春が来たと感じる時期は、ちょうど重なることになる。

桜の開花で私たちが嬉しく感じるのは、見た目的に桜が美しいということもあるが、春がやってきたという喜びが、動物的な感覚として心躍ることに繋がっているのだろう。


藤子ワールドの住人たちは、春になると一斉にお花見に行きたくなるのが常となっている。しかし3月末~4月上旬は親が忙しかったりするので、子供のFキャラたちは、お花見に連れて行ってもらえず、悔しい思いをしたりしている。

また、お花見に繰り出したは良いが、何かトラブルに巻き込まれたりして、思うようにお花見を楽しめなかったりもする。

お花見は、Fキャラたちにとって、悲喜こもごものひと騒動が巻き起こるイベントなのである。

そこで、「Fキャラお花見騒動」と題して、その悲喜こもごも溢れるエピソードをいくつか拾っていきたいと思う。


「ドラえもん」『かべ景色きりかえ機』
「小学三年生」1983年4月号/大全集14巻

桜は毎年春に必ず咲いて私たちの目を喜ばせるが、だいたい10日くらいでピークを越えてすぐに散ってしまう。喜びと同時に儚さを感じさせる花木である。

よって桜の花見を堪能できる時期もとても短く、週末しか動けないような人であれば、お花見のチャンスは年に数回しかないことになる。

のび太は、なぜかお花見に行きたくて仕方がない男の子なのだが、パパの仕事の都合でお花見に行くチャンスを逃して、悔しい思いをすることが多い。

本作はそんなのび太の嘆きをドラえもんが何とかして救ってくれるお話となっている。しかも、最終的にはのび太のパパの気持ちまでもしっかり描かれ、感動的な結びも用意されている。

藤子作品でお花見と言った場合には、真っ先に思い浮かぶ、お花見代表作と言えるだろう。


冒頭、のび太は家族そろってお花見に行くことになり、ジャイアンたちに自慢するが、「まだ行ってなかったの」と意外な顔をされる。パパの仕事が忙しく、お花見になかなか行けなかったようで、日曜日の今日がラストチャンスなのである。

ちなみに本作当時(1983年)は週休二日制をほとんどの企業が導入していないので、出掛けることの可能な休日は日曜日だけであった。

ところが家に帰ってみると、会社から電話が掛かって来て、パパは急きょ出社せねばならなくなる。この日を楽しみにしていたのび太とドラえもんは、「ひどいひどい、パパの嘘つき」とカンカン。


パパは渋々出社していき、ママもお使いに出掛けてしまう。残されたのび太は部屋でゴロゴロして、「せっかくの良い天気の日曜日なのに」と不満タラタラである。

ドラえもんは「パパだってどんなに花見に行きたかったかと思うよ」とフォローを入れるが、のび太は「じゃ行けばいいんだ。会社なんか辞めちゃって」と不貞腐れる。

会社と自分とで、会社を選んだパパへの不満を募らせるのび太の気持ちは良くわかるが、大人になって子供を持った自分からすると複雑な思いがする。実際に自分も何やかんや仕事を最優先にしてしまい、子供との交流を後回しにしがちだからである。

特に「急な仕事」が降ってきて、家族との時間が削られてしまう場合に、どのような対応をするべきか、とても悩ましい問題である・・。


さて、我が子はともかくとして、のび太にはドラえもんという強い味方がいる。ドラえもんは、どのようにして「お花見」を用意するのだろうか。

まずは衛星中継で花を見ようと言ってモニターを出す。のび太が本物の花を見なくちゃと注文を付けると、「花咲か灰」を撒いて部屋中を花盛りにする。

ところが花見と言っても、花が見られれば良い訳ではない。のび太は「わかってないんだなあ」と愚痴り、「花見は賑やかにご馳走を食べるから楽しいんじゃないか」と指摘する。

ドラえもんはせっかくのび太のことを考えてアイディアを出したのに、駄目出しを食らったので、「勝手にしな」と言って寝転がってしまう。人のやる気を奪っていけないのだ。


ところがさすがはドラえもん。「あれがあった」と名案を思い浮かび、「かべ景色きりかえ機」という何かのコントローラーのような道具を取り出す。この機械は、壁を通してどこの景色でも見られるようになるという。

そこで早速花見の名所らしい「花野山公園」に距離を方角を合わせて、のび太の部屋の壁に映し出す。すると満開のの桜の木々と、ワイワイガヤガヤと大いに賑わっている人たちが目の前に広がる。

「かべ景色きりかえ機」は、単純に壁をスクリーンに見立ててどこかの景色を映し出すものではなく、空間移動してどこかの場所と繋がる働きがあるようで、公園から花見をしている酔っ払いたちがのび太の部屋へと逆流してきてしまう。

『あの窓にさようなら』で登場した「窓けしききりかえ機」とほぼ同じような道具だったようだ。


なだれ込んだ酔っ払いに暴れられて迷惑を被ったので、改めてかべ景色きりかえ機を調節して、上空の高い所から花を見ることにする。

定番アイテムの「グルメテーブルかけ」で、花見だんご・ホッドドッグ・ハンバーガー・ジュース・コーラ・どら焼き等を取り出し、宴会の開始。そよ風に乗って、桜の花びらが部屋へと舞ってきたりして、とてもいい雰囲気である。

眺めの良い桜と美味しい食べ物で、のび太の今年度の花見熱は解消されたのであった。


夜も遅くなって、のび太が布団に入った頃に休日出勤のパパが帰ってくる。「遅くまで大変ね」とママが出迎えると、パパは疲れたなど愚痴も言わずに、「今日はのび太に可哀そうなことをした」と口にする。息子思いの心優しきパパなのである。

ママは「仕方ないわよ」と言いつつ、花見ができなくて残念だったとも述べる。パパも同調する。

そんな二人のやりとりを聞いていたのび太とドラえもんは、二人にもお花見をさせてあげようということで、「かべ景色きりかえ機」を使って、居間の壁に夜桜を映し出す。

テーブルにはビールと豪華なおつまみが一式。大変遅くなったが、家族4人での花見がささやかに行われたのであった。


「花より団子」というけれど、この場合の団子とは「団らん」のことを指しているんではないかと、この季節になると思う。

「お花見」とは、桜が咲いただけでもダメ、ご馳走(団子)があったとしても不十分、加えて花を眺めておしゃべりする仲間との団らんが必要なのである。


さて、明日以降、シリーズでお花見作品を次々と見ていく。今年の桜が散る前に全部書き終えることができるだろうか・・。




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