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そして始まるラブストーリー『めだちライトで人気者』/女優・星野スミレ③

「パーマン」世界の美少女アイドルだった星野スミレは、1960年代の漫画連載を終えたその約10年後、突然、「ドラえもん」世界に舞い降りる

その姿は、もはや少女の面影のない、立派な大人の女優・アイドルとして成長を遂げていた。

星野スミレと言えば、1960年代の「パーマン」において、有力なパーマン3号(パー子)の正体候補として描かれていたが、連載中ははっきり明示されていなかった。

しかし内緒のままかと思いきや、連載終了後に放送されたテレビアニメや発売された単行本のカバーで、あっさりと「パー子=スミレ」だと明かされる。


こうした事実を知っている「パーマン」読者にとって、星野スミレが成長して再登場を果たした姿を目撃した時に、ある疑問が浮かんだのだった。それは、

①星野スミレはまだパーマン3号として活躍しているのか
②他のパーマン仲間たちはなにをしているのか
③特にスーパー星へと留学したみつ夫は、帰ってきたのだろうか

ということである。


「女優・星野スミレ」と題して記事を二本書いてきたが、その中で大人になった星野スミレの置かれている状況を整理した。すなわち、

A.星野スミレは大人の女優として人気者であり続けている(『オールマイティーパス』)
B.星野スミレは歌手活動も続けている(『出前電話』)
C.星野スミレには好きな人がいて、その人は遠い遠い国にいる(『影とりプロジェクター』)

である。

これまで見てきた3作品では、星野スミレに関する疑問①~③を解消するような事実は明らかにならなかった。しかし、『影とりプロジェクター』のラスト一コマでは、遠い遠い国にいる好きな人について詳細は伏せられており、さらなる奥行きを秘めていることが暗示されている。


本稿では、『影とりプロジェクター』から実に3カ月後に描かれた『めだちライトで人気者』という作品を見ていく。この作品は、事実上『影とりプロジェクター』の続編的立ち位置となり、成長した星野スミレの最終回となる。

本作を最後に、大人になったスミレは描かれなくなるのだが、作中で衝撃的な事実が明らかとなり、その後の「パーマン」という作品全体の意味合いをガラリと変えてしまうエポックメイキングなお話となっている。

本稿では作品の内容を解説とともに、本作によって何がどう変わったのかを、語りたい。最後にオマケ情報もあるので、どうぞ終わりまで読んでみてください!


本稿の前に、以下の記事を読んでもらうと理解がさらに進むはずです。


『めだちライトで人気者』(初出:「目立ちライト」で大スター)
「小学六年生」1980年4月号/大全集8巻

いつもの空き地で集まっておしゃべり中の仲間たち。のび太は一生懸命に新作のあやとりの説明をするのだが、全く相手にしてもらえない。そこへ、「町のチャンピオン」というテレビ番組で「TOKIO」を歌って優勝した少年が通りかかると、皆の注目はその少年へ。

のび太はあやとりの方が難しいんだと納得できないまま帰宅する。


家ではテレビのワイドショー番組をドラえもんが見ている。そこでは芸能リポーターの男性が、我らがアイドル星野スミレに直撃インタビューを敢行している。

リポーターは「教えてよ、スミレちゃん。ネ、ネ、ネ、・・・」となかなかウザい迫り方をしている。その風貌や言い回しから、そのモデルは元祖芸能レポーターの故・梨本勝であろう。

梨本氏は本作執筆時、テレビ朝日の「アフタヌーンショー」において、次々と突撃インタビューをしていく様子がウケていた。「恐縮です~」というような入りでズバズバ切り込んでいく姿は、カタルシスを生みつつ、やり過ぎだという反応もあった。


突撃取材を受けたスミレは、

「何度も言ったでしょ。落目さんとは結婚しません。他の誰とも当分結婚する気はありません!!」

と梨本に強く答えている。

落目さんとは、『影とりプロジェクター』で自分から星野スミレとの噂話を各方々に吹き込んでいた落目な二枚目スター落目ドジ郎のことである。落目が流したデマをスミレちゃんは全否定しているのである。

食い下がる梨本を振り払って、スミレは車に乗りこみ、「久しぶりの休日なんです、一人にして」とコメントを残して、どこかへ自分で運転していってしまう。

『影とりプロジェクター』では分刻みの過密スケジュールが描かれていたが、久しぶりの休日を一人で過ごしたいという気持ちは、なんとなく理解できる。

そしてここでは、しつこいリポーターの姿も強く印象付けている。視聴者が求めているので、取材を続けてますというような姿勢に、ちょっとやり過ぎ感を覚えるのである。


テレビをみたドラえもんは「人気スターも大変だね」と一言。一方ののび太は「でも一度はあんなに騒がれてみたいよ」という感想。先ほどあやとりをみんなに無視されたので、気を落としているのである。

ドラえもんは「つまり目立ちたいってこと?」と聞き、「めだちライト」という道具を出す。この光を浴びると目立つことができるらしいが、ドラえもんは「使わない方がいい」と述べる。


のび太は意に介さず、さっそくライトを浴びる。すると早速目の前のドラえもんが好奇の目でのび太を見てくる。そして、「どこへ行くの?ネ、ネ、ネ」と、まるで先ほどお芸能リポーターのようにしつこく尋ねてくる。

その後もしつこく質問してくるドラえもんを振り切って、のび太は外へ出て空き地へ向かう。通りではおじさんから女子高生、少年や犬までがのび太をジロジロと見てくる。のび太は「こんな熱い視線を感じたのは初めて」と嬉しい気持ちになる。

空き地ではしずちゃん、スネ夫、ジャイアンでボール遊びをしている。そこへ目立ちのび太が現れたので、「のび太が来た」と3人が集まってくる。そこで、満を持してのび太はあやとりを披露。大いに拍手を受ける。


そこからは3人からの質問タイム。最初はあやとりについて、「どんな時にアイディアが閃くの?」などと質問されて満足げなのび太だったが、「今日の宿題やった」とか「今まで何回0点取った」などと、答えたくない質問も飛び始める。

しまいには、「今でもおねしょするか」「どうしてそんなにバカなの」などとプライベートに切り込む質問を浴びせられて、のび太はたまらず逃げ出す。ドラえもんが目立つのはやめとけという理由が、わかってきた。


しずちゃんたちからは逃れたが、町の人々からも好奇な目で見られ、不躾な質問をされる。「放っておいてよ」と逃げても、どこまでも追ってくる人々にのび太は完全に参ってしまう。

そのままのび太は全力で走り、思わず道を飛び出して、走っていた車を止めてしまう。すると車を運転していたのは、何と星野スミレ。のび太は「星野スミレさん!!」と驚き、スミレの方も「あら。あなた前にうちへ来た子ね」とのび太のことを覚えてくれている。


星野スミレは海を見に行くのだというので、のび太はスミレの運転するドライブに同行することに。しばらくして人里離れた海に着き、スミレは「人けのない海って大好き」と語る。

のび太は目立ちライトを浴びているので、本来ならスミレに質問攻めにあってもおかしくないが、「自分がいつも追い回されているから」うるさく聞いたりしないのだという。

さらにスミレは、

「ま、こういうお仕事していれば、仕方のないことなんだけどね・・・、ときどき一人きりになりたくなるのよ」

と言いながら、水辺の方へと歩いて行く。


と、ここで衝撃的な一コマが現れる。スミレが砂浜にペンダントを落としているのをのび太が見つけるのだが、なんとそこに写っているのは、須羽みつ夫なのである!

みつ夫は星野スミレのパーマン仲間で、パーマン1号の中の人。「パーマン」最終回でスーパーマンの星へ留学してしまったのだ。その後、二時間だけ里帰りをするお話があったが、その後の消息は不明のまま。パーマンにおいて、将来みつ夫がどうなったかということは、謎のままだったのである。

星野スミレのペンダントには少年時代のみつ夫が写っている。それはつまり、子供の頃に旅立ってそのまま帰ってきていないことを意味する。


のび太はスミレに「これ落としたよ」と言ってペンダントを渡す。するとスミレは、

「ありがとう。私の一番大事なものなの」

とお礼を言う。シンプルなセリフだが、星野スミレの一番大事なものが、みつ夫の写真という事実は、「パーマン」ファンに最大限の衝撃を与えるものだ。

のび太は「その子、スミレさんの子?」と尋ねるのだが、スミレは「古いお友だちよ」と答える。そしてさらに衝撃的な発言が続く。

「今は遠い世界へ行っているけど、でも・・・いつかきっと帰ってくるわ」

つまり、星野スミレは、自分に取って一番大事なみつ夫の帰りをずっと待っているというのである。『影とりプロジェクター』では好きな人と言っていたが、それらの発言を合わせると、星野スミレはみつ夫のことが好きで、いつまでも帰りを待っているということなのだ。


この一連の星野スミレの想いを乗せた発言から、ある真実が浮かび上がる。

それは「パーマン」において、パーマン1号の中の人須羽みつ夫のことを、パーマン3号の中の人星野スミレは、好きだったということだ。それはつまり、「パーマン」がラブストーリーだったということを意味するのである。

1960年代の「旧パーマン」では、そんな素振りは見せてはいなかったが、パーマン仲間として活動していくうちに、恋心が芽生えたのかも知れない。留学してしまって、不在を感じて好きだったと気付いたのかも知れない。

いずれにせよ、パー子はパーマンを好きだったという事実は、パーマンの世界をまるで違うものに見せるのであった。


ところがこの話は旧パーマンの話題だけでは終わらない。というのも、本作から三年後に、「パーマン」が再び連載されることになるからである。

1980年代のパーマンを「新パーマン」と呼んだりするが、この新パーマンでは星野スミレがパー子の正体であるという事実はもちろん、スミレがみつ夫を好きであるという前提で物語が進むことになる。

具体的にラブ要素をバッチリ含んだエピソードも描かれていく。それについては、今後「パーマン」の考察において、じっくりとご紹介していきたい。


さて、のび太とスミレが良い感じで物思いに耽っていると、突如草やぶから、「その写真を見せてくれ!!」と梨本とキャメラマンが姿を現わす。「こんなところまで追ってきたの」と呆れるスミレ。

しかし帰ろうとすると、「車のキーを抜いておいたらから帰れないよ」と梨本は強硬手段に出てくる。「わたしゃ、食いついたら離れないんです」とほぼ非合法な手段で迫ってくるのだが、そこでのび太は「目立ちライト」を梨本に浴びせる。

すると、スミレを撮っていたカメラマンや周囲にいた人たちに梨本は注目を浴びてしまう。「テレビに出てるレポーターの本物だ」と大勢に追いかけ回される梨本。

追いかけていた者が追いかけられ、梨本はしばらくスミレさんの元へはやってこないだろう。・・・きれいな素晴らしいオチである。



そしてここからはオマケ情報。この記事の最初の方で示した星野スミレについての疑問を改めて書き出してみる。この疑問について、それぞれ答えを考えてみたい。

①星野スミレはまだパーマン3号として活躍しているのか
②他のパーマン仲間たちはなにをしているのか
③特にスーパー星へと留学したみつ夫は、帰ってきたのだろうか

①については、はっきり明示されていないが、パーマン活動は引退していると見るべきだろう。本作においてスミレは一人になりたいと言って車で海へと向かった。もし仮にパーマンであり続けていれば、パーマンセットでどこか遠い一人になれる場所へ飛んでいけるはずだ。

今はパーマンを辞めて、パーマンセットはスーパーマンに戻したと考えるのが普通なのではないだろうか。


次に疑問②と③。まずパーマン1号については、本作において今でもスーパー星へ留学中ということが明らかとなった。

2号、ブービーについては人間より寿命の短い猿ということを考えると、生きているとは思うが、パーマン活動は続けていないものと想像できる。

パーマン4号、パーやんについては、実は別の作品で大人になった姿が描かれている。それは「中年スーパーマン佐江内氏」の最終回にて、これも突如大きくなったパーやんが、パーマン活動を続けながらある仕事をしている場面が描かれる。

この作品については、またいつか記事にしてみたいと思う。


オマケ情報その2。
「旧パーマン」から「ドラえもん」を経て「新パーマン」へと至る流れを時系列にまとめておく。これを頭に入れておけば、藤子Fワールドがますます楽しく読めること請け合いである。

1966年12月:「旧パーマン」連載開始
1967年11月:「旧パーマン」最終回『スーパー星への道』発表
1967年12月:『帰ってきたパーマン』発表
1968年4月:TVアニメ最終回でパー子の正体がスミレだと判明
1971年:虫コミックス「パーマン」4巻のカバーでパー子の正体がスミレだと明記
1977年4月:「ドラえもん」『オールマイティーパス』にて大人になったスミレが登場
1978年10月:「中年スーパーマン佐江内氏」最終回にて大人になったパーやん登場
1978年11月:「ドラえもん」『出前電話』
1980年1月:「ドラえもん」『影とりプロジェクター』
1980年4月:「ドラえもん」『めだちライトで人気者』にて、スミレの好きな人はみつ夫と判明
1983年4月「新パーマン」連載開始



「ドラえもん」も「パーマン」も徹底考察中!


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