気になるあの子とお花見デート?! 「宙犬トッピ」『「タイムグラススコープ」でお花見』/Fキャラお花見騒動⑥

藤子Fキャラの、強烈な「お花見に行きたい!」物語を集めてご紹介していく「Fキャラお花見騒動」シリーズも本稿でとりあえず最終回。何とか桜が散り切る前に書き終えることができそうだ。

ここまで5本の記事を書いているので、宜しければ読んでみて下さい。(あまりビュー数も伸びて無いようだし・・)


ここまで見てきた作品は、見事にお花見に行きたいのに行けないお話ばかりで、忙しくて実際にお花見に行けなかった藤子先生の思いが込められているんではと考えてしまう。

本稿で取り上げるお花見エピソードは、これまで見てきた作品と違って、主人公がお花見に行けないと嘆くお話ではない。むしろ行けたはずなのに、違うことに熱中してしまって、自らお花見のチャンスを逃してしまう。

しかも一緒にお花見に行くはずだった人は、主人公の幼馴染みで、互いに気になる存在という女の子。主人公だけでなく、相手の女の子も一緒にお花見したかったのである。

本作はお花見エピソードでありながら、実は藤子作品の中でも有数な恋愛エピソードでもある。個人的にかなりオススメの一本なので、気合い入れてご紹介していきたい。


「宙犬トッピ」『「タイムグラススコープ」でお花見』
「別冊コロコロコミック」1984年4月号

ということで、今回は「宙犬トッピ」という作品から一本ご紹介。一般的に「宙犬トッピ」の認知度はかなり低いので、まずはそもそもの作品について触れておきたい。

少し前に「宙犬トッピ」とは何ぞやということを丁寧にまとめた記事を書いているので、こちらを是非先にお読み下さい。


上の記事と重複するが、まずは簡単な概略から。

本作の主人公の卓見コー作は、「キテレツ大百科」のキテレツのような発明家気質の少年で、知能レベルは高めだが、発明に熱中してしまうとその他のことに一切気が回らなくなってしまう。

もう一人の主人公トッピは、科学文明の発達した星のペット犬だが、飼い主に捨てられて地球にやってきて、コー作の家にやっかいとなる。犬とは言え、人の言葉も話すし、進んだ科学技術の知識も豊富。

トッピはコー作に自分の持つ先進的な知識を教えて、コー作はそれを発明品に落とし込んでいく。そして作り出した発明品であれこれするというのが、「宙犬トッピ」の物語のパターンとなっている。


主人公のコー作は中学生で、彼には幼馴染みの女の子がいる。見た目は完全にしずちゃんそっくりな美少女の青山みどりである。

みどりはコー作のことをずっと気にかけているのに、コー作が女の子のことよりも目の前の発明に熱中してしまい、みどりの気持ちをイマイチ掬い取ってあげられていない。

「キテレツ大百科」のキテレツとみよちゃんの関係にもかなり近いものがあるが、みどりはみよちゃんよりもグッと優しく、コー作を好きな気持ちも前面に出ていて、何とも健気なのである。


また「宙犬トッピ」では、いつもの藤子劇場同様、スネ夫役とジャイアン役も登場する。それがネズミとカバ口である。主人公と敵対するのは、スネ夫型のネズミの方で、スネ夫同様嫌味で意地悪な性格だが、実家は金持ちというキャラクターである。

ネズミもみどりのことが気になっているのだが、みどりの気持ちがコー作の方を向いていることを理解もしている。

本作では、コー作・みどり・ネズミの人間関係がテーマとして出てくるので、上記の関係性については押さえておきたいところである。


それでは前置きはここまでとして、内容を少し見ておこう。

トッピが古いアルバムを引っ張り出してきて、幼い頃のコー作の写真を見ている。みどりちゃんと一緒の写真が多く、コー作は「小さい頃はいつも二人で遊んでた」と回想する。

トッピは素朴に「どうして遊ばなくなったのか」と尋ねると、コー作は「二人とも大きくなったから・・・」と煮え切らない答えをする。どんなに仲の良い幼馴染みでも、異性である場合、ずっと一緒に遊んではいられないのだ。

コー作は久しぶりにみどりと二人でデートしたいと考えて、トッピを留守番にしてみどりの家へと向かう。みどりの方も、突然訪問してきたコー作に対して、目を輝かせて「まあ珍しい、遊びに来てくれたの?」と嬉しがる。

みどりは、ちょうど桜の季節ということで、桜の名所であるらくだヶ丘へ行こうと誘う。コー作もすぐに同意し、カメラを取りに一旦家へ戻り、みどりもサンドイッチを用意するという。

ここまでの流れは、互いに好き合う少年少女の心地よいラブストーリーとなっている。が、そんなに簡単にハッピーエンドは迎えられない。


家に帰ったコー作に、両親が夕方から崩れるらしいので傘を持っていくよう告げる。外は雲一つない天気で降りそうもないが、本当に天気予報は当たるのだろうか。

降るか降らないかはっきり知る方法はないかとトッピに相談すると、「ないでもない」と言って、24時間以内の未来を見ることをできる「タイムグラススコープ」を使えばいいと答える。

この道具は、髪の毛よりも細い繊維の中を光を通す超高品位のグラスファーバーだが、要は今の光ファイバーと同じようなもの。本作執筆時では世界各国で高品質の光ファイバーの実用化を目指して開発競争が活発で、その事実を踏まえた発明品である。

さらに凄いのは、光のスピードを光速以上に上げることができるので、まだ入ってこない光まで通すことができるという。それはつまり、未来の情報をいち早くキャッチできることを意味することらしい。


コー作はそのような素晴らしい発明品のアイディアを聞いて、案の定制作に熱中してしまう。待ち合わせの時間になってもコー作が姿を見せないので、みどりが迎えに来るのだが、トッポがコー作に話しかけても、全く相手にしない。

みどりは「いつもこうなんだから!!」と堪忍袋の緒が切れて、声を掛けるの止めて帰って行ってしまう。みどりと楽しく出掛けるための発明品なのに、そのみどりを突き放してしまうことになるという、まさしく本末転倒のコー作なのである。


落ち込むみどりを見つけたネズミは、意地悪そうな表情で「またコー作にフラれたな」とみどりを挑発する。「誰が!?」と強がるみどりにネズミは畳みかける。

「前から不思議に思ってたんだ。どうして君ほどの女の子が、コー作なんか追っかけ回すの。もっといかす男がいくらもいるのに」

前からネズミがみどりを気にしていたことが良くわかるセリフとなっている。そしてネズミは加えて、「どこか遊びに行かない?」とみどりを誘う。弱った女の子を落とす、なかなかのテクニックである。


一方のコー作は、トッピから映像の受像機の作り方を聞いて、それも制作する。そしてファイバーを外に出して加速機を進めて、夜までの天候を確認していくと、雨が全く降らないことがわかる。

これで無事「タイムグラススコープ」は完成し、傘無しでらくだ山に花見に行けることが判明したのであった。

・・・が、そこでコー作は約束の時間をとっくに過ぎてしまっていたことに気がつく。慌ててみどりの家へと走るが、出掛けていて不在。何で教えてくれなかったとトッピに抗議するが、時既に遅し、自業自得なのである。


何はともあれ、「重力コントローラー」を使ってらくだ山まで飛んでいく。するとみどりはネズミとお花見に来ており、コー作が食べるはずだったサンドイッチを分け与えている。その様子を見て、悔しがるコー作。

トッピは綺麗な桜が気に入ったようで、せっかくだから家で花見をしようと言って、グラスファイバーをセットして帰ることする。

コー作の部屋に受像機を移して花見をするのだが、コー作は二人がどうしているか気になって仕方がない。ファイバーを操作して様子を伺うと、仲良さそうに桜並木を散歩している。

「どうでもいいけど」などと強がるが、言葉とは裏腹に、みどりのことが気がかりなコー作。音声チャンネルもあるということで会話を聞いてみると、ネズミが積極的にみどりに話しかけている。

キャンピングカーを買ったので、夏休みに日本縦断旅行を計画しており、一緒に来ないか、車が嫌なら葉山のヨットハーバーに乗らないか、など基本的にお金持ち自慢を兼ねた誘いなのだが、みどりは「せっかくだけど」と丁寧に断りを入れている。

みどりの表情や受け答えから、ネズミに対して興味がなく、心ここにあらずな雰囲気を醸しているのだが、そんなことにはネズミもコー作も気が付かない。中学生の男子のデリカシーはこんなものなのである。


ネズミがみどりを誘って、公園のボート遊びをする二人。コー作は「いい加減帰ればいいのに」と呆れてしまう。この気持ちが嫉妬であることに、コー作はまだ自覚できていない。

腹が減ったのでラーメンでも作ろうと思った瞬間、二人が乗った船がひっくり返って、池の中へと放り出される。ネズミは岸の近くに辿り着くが、みどりは溺れてしまっている。

幸い、この受像機は未来の二人を映し出している。トッピに確認させると、約30分後の出来事だという。

全速力でらくだ山へと舞い戻り、ちょうど今からボートに乗りこもうとする二人の前に立ち塞がって、止めろと制止する。が、彼らにとっては未来のお話なので、俄かに信じられない。

ネズミはヤキモチだと喝破すると、コー作はバカ言えと顔を真っ赤にして否定する。ここでみどりに遅れたことを謝れば良かったのだが、思春期のコー作には、男気を発揮することができない。


結局ボートに乗り込んでしまう二人。いざという時助けるしかないと、一旦引き下がるコー作とトッピ。

ただここでは、「タイムパラドックス」のことを考えれば、ボートに乗るのを中止させることはできなかったとは思う。未来での事故を知ったからと言っても、それを回避できないはずなのだ。

ボートではネズミがコー作にことを批判している。何かに熱中すると他のことはすっかり忘れちゃうおかしな奴だと。

確かに「熱中症」のためにみどりも腹を立てたわけだが、ここでみどりはコー作のフォローに入る。

「そうかしら。そんなに熱中できるって、素晴らしいと思うけど」

そう、みどりはわき目も触れず一つのことに熱中する性格のコー作が好きなのである。その性格によって約束をすっぽかされるのは辛いが、それでもみどりはコー作を肯定するのである。


ネズミは「なんであんなやつをかばうの」と取り乱す。こちらも女心をそれほど掴めていないのだ。ただ、ネズミがボートに立って激昂したために、ボートが傾き、受像機で見たとおりに転覆してしまう。

みどりが水に落ちそうなところを、コー作がキャッチ。溺れていないので、予定されていた未来は変わってしまい、結局ここではタイムパラドックスが成立してしまっている。

ネズミも溺れているが、タイムスコープでは岸にたどり着いていたので、大丈夫と判断してそのままにする。


ここでようやくコー作が、約束を破ったことについて、みどりに謝る。みどりは「いいのよ、助けに来てくれたから」と優しく許してくれる。二人の良い関係はこれで無事修復されたようである。

コー作はみどりに「うちで花見の続きをしない」と誘う。「タイムグラススコープ」によって、まだ昼間なのに、夜桜見物を楽しむことができるのだ。

みどりは「まあきれい・・・!!」と感動の声を上げるのであった。



お花見をベースにしながらも、つかず離れずのコー作とみどりの関係を追った、何度読んでも楽しい恋愛エピソードとなっている。もっと知られるべき作品かと思い、全力で紹介したが、気になる方は是非とも原作に当たって欲しい。



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