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「全悪連」25周年記念作品『巨大ロボットの襲撃』/魔土災炎博士の珍発明③

「パーマン」世界のマッド・サイエンティスト、魔土災炎博士。ハーバード大学とソルボンヌ大学に入学しているほどの頭脳を持ち(それぞれ中退と早退をしているが)、自立型のロボットPマンを助手にしてしまうほどの科学力を持つ男である。

しかし、その類稀なる能力を明るい世界で使おうとはせず、古い屋敷の汚い研究室で夜な夜な何かを研究している、闇の世界の科学者なのである。

そんな影の実力の噂をどこからか聞きつけた悪者集団「全悪連」が、彼にコンタクトを取ってくる。それは、自分たちが苦しめられている町のヒーローパーマンを撃退する発明品を作って欲しいという理由からであった。

魔土博士は「パーマンなら相手にとって不足はない」ということで快諾し、この日から全悪連と魔土博士で、次々とパーマンを倒すための科学兵器の開発が始まったのである。

これまで「全悪連」×「魔土災炎博士」のエピソードを、登場順に2本記事を書いた。下記がそれ。


本稿ではその続きとなる3回目の登場作品を見ていくわけだが、以前にさわりだけ別の切り口で記事にしているので、こちらに上げておきたい。

上の記事は「映画」をテーマに「オバQ」と「パーマン」から数本の作品を抜き出した贅沢(?)な内容となっている。ただし、ここでは魔土博士のことは一切触れていないので、今回改めて記事化する。



『巨大ロボットの襲撃』
「月刊コロコロコミック」1983年8月号/大全集7巻

前回、動物を大きくすることができる煙を発明した魔土博士。普通に世に発表していればノーベル賞受賞は間違いないはずだった。しかし、闇の世界で生きる魔土博士は、パーマン退治に失敗したばかりか、自分の屋敷にいたゴキ○リを大きくしてしまい、家に戻れなくなる羽目に陥っていた。

今回は、莫大な予算がつぎ込まれた「全悪連」の壮大なプロジェクトを任されることになるのだが、果たして・・。


本作は西宝映画の創立50周年の記念超大作映画「パーマン」のプロジェクトと、全日本悪者連盟結成25周年の記念事業が並行して進む、何やら記念碑的なお話である。

映画「パーマン」は製作費100億円という破格の大作である一方、全悪連の周年記念日では「アレ」を世の中で大暴れさせるという、こちらも破格な計画であった。

この二つの巨大プロジェクトを繋ぐキーワードは、「ロボット」である。二つの巨額な事業が重なり合うことで、まるでSF映画のようなパーマン対巨大ロボットが現実化するという、非常に良くできた物語なのである・・。


製作費100億円をつぎ込んだ西宝映画50周年記念映画「パーマン」。主人公は本物のパーマンが演じるわけではなく、売れっ子の俳優が務めることになる。

パーマンの役には、歌手の美庄年彦が抜擢される。みつ夫は「あんなキザ男は嫌だ」という感想だが、パー子曰く「女の子にはとっても人気がある」という。

パー子の役はなんと星野スミレ。パー子は「自分にピッタリ」と胸を張るが、みつ夫とブービーは「かわいいスミレちゃんがパー子の役をやらされて可哀そう」と笑うのであった。

なお、パーマン2号の役はチンパンジータレントが見つからず、映画の出演は見送られることに。この話を聞いて気を悪くしたブービーは、以降映画への関心を持たなくなる。

あと、本筋とは関係ないが、パー子役にスミレちゃんをキャスティングした人物は、なかなかの慧眼ではなかろうか。ずばり正体を見破っているわけなのだから。


さて、一方の全悪連ビルでは、クーラーが壊れて真夏の暑さにやられている理事長たち。「ひと雨欲しいぞ」と思ったところで、急に天候が悪化してゲリラ豪雨が降り出す。

雷鳴と豪雨と言えば、あの男、魔土災炎博士が全悪連ビルまで足を運んできたのである。理事長はこの日もパーマンを目の敵にしており、「あいつがいる限り日本中の悪者たちは、伸び伸び楽しく働くことができん」と机を叩く。

魔土博士が持ってきたのは、全悪連の25周年記念事業のための、「あれ」の設計図である。「あれ」さえあればパーマンなんかひねりつぶしてやる!と理事長はいきり立つが、魔土博士は「しかし、これを完成させるには莫大な金がかかる」と忠告する。

西宝映画の映画同様、盛大な記念事業には元手がいる。理事長は、資金は会員からの寄付で賄うという。「日本中の悪者から心のこもった金が続々と送られてきている」と理事長は自信満々である。

それにしてもパーマン世界の悪者は、仕事に忠実な人たちばかりのようなので、是非足を洗って世の中のためになる職についてほしいものである。


パーマンたちは映画の撮影を見学するべく撮影所へと足を運ぶ。パーマン役の美庄年彦は、みつ夫とは全く似ていないキザ風な美少年で「僕がやるとパーマンがカッコよくなりすぎるんじゃないかな、アハハ」とパーマンに喧嘩を売るような挨拶をしてくる。

一方のパー子とすみれちゃんは仲良さそうに会話している。ま、本物とコピーなのだから、仲良くて当然なのだけども。

映画「パーマン」のストーリーは、悪魔の科学者黒鉄博士が作った巨大ロボットと戦うというもの。まるで現実感がない設定で、パーマンは「まんがみたい」と呆れる。

もっとも、この現実感のない設定が現実と化してしまうのだが・・・。

映画ではパーマンとパー子が互いに素顔を見せているので、パーマンが「パー子は誰にも顔をみせない」と指摘すると、「映画だからいいじゃない」と監督。「スミレくんの顔を見せないとファンが怒るもの」と、商業的な理由が現実に勝るのである。


山奥の秘密工場では、魔土博士のあれの開発が進んでいた。豪雨の中、理事長たちが現場を訪ねてくる。ここで、ずっと「あれ」としてきたものが、姿を見せる。それは巨大なロボットなのであった。

5日後の25周年記念日には、ロボットでひと暴れさせようというのが、ドン石川の目的であったのだ。

・・・ところが、肝心なロボットは下半身しか完成していない。足だけでも数メートルはある巨大さだが、全体を作るには金が全く足りないのだという。

「莫大な金がいると言ったはずだ」と博士、「貧しい日本中の悪者の仕送りはもう全部吐き出した」と理事長。しかし、今さら中止とはいかない。「天才と言われる男なら何とかしろ!!」と激昂するドン石川なのであった。


特撮の現場を訪問するパーマンたち。基本的にはミニチュアを使った映像を実景と合成する特撮で進行している。しかし100億円の超大作ということで、何と巨大なロボットの上半身は実物大で作られており、ここでパーマンを手で掴むシーンなどを撮影する予定という。

しかもこのロボットは、コンピューター制御で自動に動くという仕掛けとなっており、どうやら破格の製作費はここに集中投下されているようである。

ちなみに製作費100億と簡単に言っているが、これは日本映画としてはおそらくこれまで一例もない金額ではないだろうか。その昔の「天と地と」などが製作費50億円とうたっていたが、海外ロケに日本の馬を持って行ったり、撮影場所への道路も作ってその金額である。


さて、ここで2つの記念事業が、偶然にも重なったことに読者は気がつくことになる。

巨大ロボの下半身だけを作った魔土博士。上半身だけを作った映画「パーマン」。この2つがくっつくことで、一体の巨大なロボットが完成することになるのだ。

その事実に気がついたのは「全悪連」であった。巨大ロボットを作ったというニュースを知ったドン石川たちは、西宝映画の倉庫からロボットの上半身を奪い取ったのである。

巨額を投じたロボットが盗まれ西宝映画は大騒ぎ。そんな中、もはや映画に一切の関心のないブービーは関係ないという素振りでバナナなどを食べている。・・・むろんこのバナナは、とある伏線である。


見事に巨大ロボットが完成し、高速道路を使って東京へと襲撃を開始する。非常線を張るが、ロボットはパトカーなどを軽々と持ち上げて大破させてしまう。まるで「まんがのような」事件が起こってしまったのである。

ニュース速報を聞いたパーマンはさっそく現場へ向かう。2号と3号にもバッジで応援を頼む。

その頃、パーマン3号=星野スミレは「パーマン」の撮影に臨んでいた。現場で本物のバッジがなり、出動することになるパー子。この時、少々ややこしい変身経路を辿るので、整理してみると・・。

①パー子を演じている星野スミレ
②マスクを取ってコピーロボットと入れ替わる
③本物のマスクを被ってパーマン3号に変身する

役者→素の自分→パーマンと、星野スミレの一人三役がよくわかるシーンとなっている。


さて、映画の製作費と日本中の悪者たちの仕送りがガチャンコされた巨大ロボットは、かなり頑強に作られている。パーマンたちが立ち向かうも、ボディは鉄より硬い強化プラスチック仕様で打ち破れない。

巨大な手にパー子が捕まり解けなくなる。パーマンもパンチで倒され踏み潰されそうになる。この絶体絶命のピンチに、ずっとバナナを食べていたブービーが、驚いて皮を道路に落とすと、これに巨大ロボットが足を滑らせ転倒する。

すると、ロボットが上半身と下半身で真っ二つに分かれてしまう。どうやら、二つの記念事業の融合は、案外やわだったようである。

ロボットを操縦していた魔土博士とドン石川は、命からがら逃げだしていくのだが、ここで仲間割れ発動。「滑って転んだだけで壊れるとは何事だ」と怒る理事長に対し、「あと一日ノリ付けが渇くまで待てと言ったんだ」と反論する魔土災炎。

どうやら敗因は、ドン石川が設立記念日にこだわり過ぎたせい、ということになるのではないだろうか。


オチとしては、今回の事件のニュース映像をそのまま映画のクライマックスで使うこととなり、主人公はバナナの皮で世界を救った2号が主役となったとのこと。「ウキャキャーイ」と猿喜びをするブービーなのであった。


さて、魔土博士の登場作では、前2作もそうだったが、天才的な魔土博士をどうにも信用できないドン石川という対立構造ができ上がっていて、うまく協力体制が築けないことになっている。

本作がきっかけとなったのかは不明だが、次回では完全なる仲間割れが発生し、その先にはそれぞれ別行動を取ることにも繋がっていく。その辺を次回の記事で明らかにしたい。


さて、本作では西宝映画50周年の記念作品として「パーマン」を製作したが、実際の映画会社はどんな記念作品を作ってきたのだろうか。

例えば西宝ならぬ東宝映画では、創立50周年にあたる1982年(本作の一年前!)にいくつかの話題作を作っているが、その中で特筆すべきは「幻の湖」であろう。

内容はここでは書かないが、まず本作以外にお目に掛かれないシーンの連続で、特に爆笑を呼び、特に大きく首を捻ることにもなる凄まじい怪作となっている。もし未見の方がいるようなら、是非死ぬ前に見るべきだとここで強調しておきたい。

また東映の創立50周年は2001年だったが、この年もいくつかの記念作品が作られているのだが、ここにも一本見逃してはいけない作品がある。それが「千年の恋 ひかる源氏物語」である。

これも多くは語らないが、時に目が離せない、時に目をつぶってしまう怪作の名に相応しい一本となっている。

まあ、そういうことで、古今東西周年企画は、それほどうまくいくわけでなさそうなので、エンタメ系の経営者の方々は、是非そのあたりの研究を深めてもらいたいと切に願う次第である。



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