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魔土博士の輝かしい経歴が明らかに!『動物巨大化スモーク』/魔土災炎博士の珍発明②

パーマンが登場して以来、町の犯罪者たちは途端に仕事がしずらくなり、生活に窮し始めている。そんな悪者たちの集まりである全日本悪者連盟(全悪連)は、パーマンを強く敵視し、何とかして撃退したいと考える。

そんな折、全悪連の理事長ドン石川は、狂気の科学者・魔土災炎博士の噂を聞きつけて、博士に科学兵器を開発してもらい、パーマンをやっつけてもらいたいと願い出る。

魔土災炎博士は、パーマンなら相手に不足なしということで、「全悪連」に協力してパーマン撃退の必殺兵器を開発していくのだが、これがなかなかヒットしない。

客観的に見ても博士作る発明品は天才的なものばかりなのだが、使い方が悪いのか、運が悪いのか、日頃の行いが悪いのかはわからないが、必ず最後は返り討ちに遭ってしまうのである。


そんな魔土災炎の「大発明」を見ていこうということで、「魔土災炎博士の珍発明」と題したシリーズ記事を開始した。

前稿では「パーマン世界」に初登場した魔土博士のエピソードを取り上げた。「パーマン世界」と注釈をつけたのは、それ以前にSF短編で2回ほど既に姿を見せているからである。

そのあたりのことは下記の記事にまとめたので、是非先にこちらをお読み下さい。


本稿では、魔土災炎博士のパーマン2度目の登場作品を紹介する。

『動物巨大化スモーク』
「小学五年生・六年生』1983年6月号/大全集8巻

魔土博士初登場となった『ブル・ミサイル』では、パーマンの真っ赤なマントを標的にしたブル・ミサイルで、パーマンをあと一歩まで追い詰めた。

ところが、偶然パーマンが煙突の煙に巻かれて真っ黒になってしまい、標的を見失ったミサイルが迷走。たまたま赤い車でパーマンがやられるのを見ようとしていた魔土博士は、逆に自分の作ったミサイルの標的にされてしまう・・。

パーマンとの初対決に自滅した魔土博士と全悪連幹部は、その翌月、再びパーマン撃退の秘策を練ることになる。


前回同様、全悪連の理事長ドン石川とその子分が魔土博士の屋敷を訪ねると、この日も酷い雷と豪雨が出迎えてくれる。「雨」は魔土博士の象徴なのえである。

ドン石川たちは、魔土博士作成のお手伝いロボットPマンに案内され、博士の研究室に通される。全悪連は、憎らしいパーマンを倒すために、魔土博士に莫大な研究費を払っているらしく、今日はその兵器の開発を促しに来たようである。

魔土博士の発明が捗らないので、ドン石川は「金目当てのインチキ野郎ではないのか」と喧嘩腰で迫るが、博士も「口を慎みたまえ」と一歩も引かない。この両者の関係は、対パーマンでは結束しているが、基本的に信頼関係は醸成されていない点には注目しておきたい。


そんな険悪な空気が流れる中、突然Pマンが光線銃を部屋中に撃ち始める。博士がたまらずPマンを蹴飛ばして事なきを得るが、Pマンは部屋に増殖しているゴキブリを撃とうとしていたのであった。

ゴキブリホイホイをPマンに買って来いと命じている博士を見て、ドン石川は「あんたは本当に偉い学者か」と疑問を呈する。すると、「疑うとは無礼な」と魔土博士はいきり立ち、自らの経歴を詳らかにする。

「僕はハーバード大学を優秀な成績で中退。引き続きソルボンヌ大学早退・・・」

優秀な成績での中退やら、大学早退が素晴らしい経歴とは言えない気がするが、とは言え、ハーバードとソルボンヌという米仏の名門難関大学に一度は入学しているわけなのだから、優秀なことには違いない。

優秀だがいかがわしいという、まさしく魔土災炎博士を表現するにピッタリの学歴なのではないだろうか。


この話はそのままスルーとなり、今回の魔土博士の発明品が明らかとなる。試作品第一号だと言って取り出したのは、小さな缶詰のような容器で、これに火を点けるとプシューと煙が噴き出す。これを外へと放り投げ3分待つとなんと、博士の屋敷の前の雑草が人の丈を超す高さに成長している。

魔土博士が作り出したものは、30分間生物の細胞を大きくするガスなのであった。まだ試作段階では植物にしか効かないが、もうすぐ動物を巨大にして見せるという。博士には、パーマン撃退のプランが既に頭の中にあるようなのである。


さて、『ブル・ミサイル』同様、魔土博士とドン石川側が描かれた後に、日常のみつ夫が登場する。本日は捨て猫と目を合わせてしまったみつ夫が、ペットを飼える環境じゃないとわかりつつ、猫を結局連れて帰ってしまうところから始まる。

いつまで隠し通せるか・・と思いつつ、猫のエサをコソコソと用意しているうちに、あっさりと妹のガン子に見つかってしまう。普段はみつ夫のいたずらなんかをすぐにママに告げ口をするガン子であるが、拾い猫があまりに可愛いので、逆にママに見つからないように応援すると言い出す。

こうして、みつ夫はガン子の援軍を得て、猫を飼い始めるのである。

こうして、動物を大きくしようとする魔土災炎、猫を飼い始めたみつ夫という二つの物語が並行する。ここでは、さり気なく魔土博士の屋敷にゴキブリが増えているという、伏線めいたものも描かれていることも頭の片隅に置いておきたい。


さて、10日後。

魔土博士は試作を重ねながらも、ようやく「細胞巨大化スモーク」を完成させる。これは人間以外の動物の細胞を大きくさせるという、ノーベル賞ものの大発明品である。

ドン石川たちは、これを使ってどうやってパーマンを倒すのかイメージが浮かばないままだが、魔土博士は空腹で気の荒くなったドブネズミを持ってきて、秘策を説明する。

それはパーマンが寝ている間にドブネズミを部屋に放し、巨大化スモークを炊いて、ネズミをライオンのように仕立てて、パーマンを骨まで食わせてしまおうという残酷な作戦なのであった。

ドン石川はこの話を聞いて、「実に恐ろしい素晴らしい発明だ」と大満足。博士も「僕の天才がわかったかね」と自信を深めている様子。さっそくスモークを手に、パーマン退治へと向かう3人。


パーマン側はというと、あれから10日間猫はママに見つからず、飼い続けているという。パー子も「ずっと見つからないといいわね」と応援してくれる。

魔土博士たちは「パーマンが良く来るという家」だということでみつ夫の家を張りこむと、ちょうどパーマンが飛んでくる。そのまま夜中になってもパーマンは出てこないので、そのまま部屋の中にいると判断する。

そこで、作戦がスタート。

ドン石川の子分がみつ夫の部屋へと登っていき、窓を開けて寝静まっていることを確認すると、中にドブネズミを放つ。そして、巨大化スモークを投げ込んで、ドブネズミはムクムクと大きくなる。

ところが部屋の中では、みつ夫と一緒に拾い猫も寝ていたのである。スモークは子猫も巨大化させて、同じく巨大化したネズミと対峙する。ネズミにとって猫の天敵なのだから、多少抵抗したとしても、ネズミは猫から逃げ出すことになる。

みつ夫の部屋のドタバタ騒ぎから、「パーマンが食べられているのだな」と石川たちは思うのだが、次の瞬間、「ヤヤヤのヤ!!」とビックリ仰天する。

なんと巨大化したネズミが、巨大化した猫に追い立てられ、魔土博士やドン石川たちの方向へと走ってきたのである。


散々な目に遭って、這う這うの体で屋敷に戻ってくる魔土博士。門先にいたPマンに水を求めるのだが、Pマンは「怖くて家に入れない」と、ロボットらしからぬことを言い出す。

Pマン曰く「研究室のゴミを燃やしたらスモークが家中に広がってしまった」という。その結果、何と巨大化したゴキブリたちが魔土博士の屋敷を蹂躙することになってしまったのである。

「ヒエ~」と叫ぶ魔土災炎。天才博士も巨大なゴキブリには太刀打ちできなかったのである。


一方のみつ夫。部屋でネズミと猫が乱闘していたのを目撃したのかわからないが、「化け猫の夢を見た」と言って悲鳴を上げて、家族のみんなを起こしてしまう。

そしてこの変な夢を見た日を境に、猫が部屋から消えてしまう。みつ夫はがっくり気を落とすが、ガン子は「きっとどこかで可愛がられるわよ」と慰める。何ともいい感じの兄妹関係なのであった。


最後に、本作は、前作『ブル・ミサイル』とよく似た構成となっている点をおさらいしておきたい。

まず魔土博士とドン石川のやりとりから物語が始まり、一度みつ夫の日常描写に戻った後、魔土博士の発明がパーマンを襲う。流れは全く一緒である。

さらに、魔土博士たちはパーマンの様子を伺っているが、パーマンは自分が狙われているとは露も知らない。つまりみつ夫としては、一方的に襲撃され、そのまま知らぬ間に敵が自滅しているという構成となっているのだ。

実はこの後、魔土博士のエピソードをさらに見ていくが、全て同様の構成を取っており、みつ夫が博士の存在を認識しないまま、連載が進んでいくのである。

もう一人のパーマンのライバルである怪人千面相が、互いに人となりも知った関係になることとはまるで違うものとなっている。


さて、次稿では既に記事化している魔土博士のエピソードも拾いながら、次なる対決を見ていきたい。



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