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マッドサイエンティスト、「パーマン」に初登場『ブル・ミサイル』/魔土災炎博士の珍発明①

藤子F世界の狂気の科学者、魔土災炎博士をご存じだろうか。

80年代の「新パーマン」において、全悪連(全日本悪者連盟)からパーマン退治の依頼を受けて、次々と天才的な発明を生み出すことになる科学者である。

魔土災炎という名前は、マッド・サイエンティストから命名されたものだが、漢字の使い方も狂気じみててお見事なネーミングではないかと思う。

見た目は髪が長くて目つきが悪く、鼻が高い(というか長い)。いつも白衣姿で、トレードマークは「大雨」である。(これについては後で説明する)


何度となくパーマンを追い詰める発明品を作る天才だが、悪者たちの発明品の使い方が悪いのか、発明品に落ち度があるのかわからないが、必ず作戦は失敗してしまう。

ただ、いずれにせよ、新パーマンの世界において、全悪連と共に幾度となくパーマンに襲い掛かる敵であり、重要な悪役キャラクターであることは間違いない。


そんな魔土災炎博士は、実は「パーマン」で初登場したキャラクターではない。1972年と1982年のSF短編で姿を見せており、既に使い勝手の良い、魅力的なキャラクター性を完成させていた。

初登場となる作品は、異色SF短編の『換身』(1972年9月)。詳細は下記の記事に譲るが、魔土博士は体を入れ替える「換身」を可能にする薬品を作り上げる。最後は撃たれてしまう役柄であったが、一命を取り留めていたらしい(?)。

続けてその10年後のSF短編『倍速』(1982年6月)で再び姿を見せる。ここでは何倍ものスピードで動けるようになるという時間を操る時計を発明している。

しかし、これは原理もわからず偶然作り上げたと言っており、狙って作った発明品ではなかったようだ。


そして『倍速』発表の翌年に「パーマン」が復活して連載が始まるが、この時パーマンと対峙するヴィランとして、魔土災炎博士が抜擢されることになる。

魔土博士が登場する「新パーマン」は全部で9話だが、どの回も天才的な発明品を作って、パーマンを苦しめる。(もちろん、お間抜けな珍発明もなくはないが・・)

そこで今回は、「魔土災炎博士の珍発明」と題して、新パーマンにおける魔土博士登場回をいくつか取り上げていく。魔土博士の意外な天才ぶり、しかしなぜか失敗続きとなってしまうお粗末ぶり、全悪連とのちぐはぐぶりを検証して、大いに笑っていきたいと思う。


『ブル・ミサイル』
「てれびくん」1983年5月号/大全集7巻

「パーマン」は。1983年4月から4誌(3話)同時に鳴り物入りで連載が始まった。60年代にA先生との合作として連載していた「パーマン」と区別するために、「新パーマン」と称されている。

60年代の「旧パーマン」からは大きな設定変更も加えられており、以前の記事でポイントをまとめているので、宜しければ参照下さい。

この記事でも触れているが、「旧パーマン」でパーマンの敵役となる組織「全ギャド連」が、「全悪連」という名前に変更となっている。連盟のトップはドン石川という石川五右衛門の子孫と言われる大悪党で、このキャラクターには変更がない。

本作はそんな名称変更となった「全悪連」の「新パーマン」初登場回でもあり、改めてドン石川氏とともに組織の紹介もされている点にも注目いただきたい。


本作は雑誌掲載時にはカラー作品であったが、この「色」が重要な役割を果たす作品となっている。

冒頭は雷鳴轟く豪雨の中、人が住んでいるようには思えない古い屋敷に、一台の車が到着する、中からは悪人っぽいシルエットの男二人が出てきて、「ここが魔土博士の屋敷か、まるで化け物屋敷ではないか」と会話をしている。

ギ~と古い建てつけの門が開き、中から一本足に車輪がついた宇宙人のような風貌の小型ロボットが出迎える。ほっかむりをした男性二人は、ロボットの後について屋敷の中へと進みだす。

しかし「お入りください」と案内された先はなんとトイレ。「無礼な!!」と激昂する男性二人だったが、館内のスピーカーから「Pマン、また間違えたな。わしは地下室にいるぞ」と声が掛かる。

「魔土博士というやつ、本当に腕は確かなのか」と疑いの目を向ける男二人。Pマンという名前が付いているロボットが、地下室へと二人を連れていく。

男たちは博士の実力を疑っていたが、完全なる自我を持ったロボット(Pマン)を作り上げており、博士の実力は間違いないように思える。ここで、博士の実力の評価が全悪連側で低く見積もられたことが、この先の両者の関係がギクシャクすることに繋がっているようだ。


謎めいた研究が行われている地下室で、全悪連のドン石川と魔土災炎博士が初対面となる。ドン石川は、部下から暗黒街の帝王と恐れられているお方だと紹介されている。この説明は、読者にも向けられたもので、パーマンがいかに凶悪な敵に目を付けられていることがわかる構成となっている。

ドン石川は魔土博士に、パーマンのことを愚痴る。「あの癪に障る小僧が現れてから、スリも空き巣も強盗もカッパライもみんな生活が苦しくなって泣いている」のだと、ドン石川も泣きながら語る。

ドン石川たちは魔土博士にパーマン撃退の化学兵器を発明して欲しいと依頼。魔土博士も「パーマンなら相手にとって不足はない」と快諾するのであった。


日付変わって良く晴れた日。

パーマンはのんびりと空中で昼寝をしており、「これもパーマンになったおかげだよ」とリラックスモード。ところがそこへブウンとハチが飛んできて、追い回されてしまい、何とか水に潜って難を逃れる。

そんなパーマンのズッコケな様子を遠くから魔土博士が観察している。「案外だらしないやつだな」と感想を漏らした後、「閃いた!!」と大声を出す。どうやらパーマン撃退のアイディアが浮かんだようである。


13日後。またも雨の降る博士の屋敷にドン石川たちがやってくる。「ブル・ミサイル」という発明のテスト用ミニチュアが完成したという。

ちなみに、もうお気づきだろうが、魔土博士の屋敷を尋ねるときは、常に荒天という設定となっており、この後この設定が生かされる。

魔土博士の「ブル・ミサイル」は、先端に赤い目玉が付いており、この部分が赤色に反応する仕組みとなっている。このミサイルをパーマンの赤マント目がけて発射すれば、撃ち落とすまでパーマンを追い続けるという。

蜂に追い回されているパーマンの姿から着想を得て、誘導ミサイルでパーマンを追い詰めて撃退しようというわけなのだ。

テストをしようと言って、魔土博士は屋敷の窓を開けると、前の通りを赤い傘を差した少年がちょうど歩いている。偶然にもその男の子はみつ夫。自分の傘を無くしてしまったので、妹ガン子の赤い傘を借りていたのであった。

すると後方から小型のブル・ミサイルがみつ夫に迫ってきて、赤い傘にポンと命中し、傘は骨組みだけ残してボロボロになってしまう。「ママとガン子に叱られる」とみつ夫。「素晴らしい」とテスト結果に満足なドン石川たち。

魔土博士は「あの何百倍の強力なミサイルを作り、パーマンを粉々にして見せよう」と自信を深めるのであった。


一週間後。

ちょうど事件をひとつ解決して解散するパーマンたち。帰って休もうとパーマンが飛んでいると、後方からキーンと何かが飛来してくる。それは、真っ赤な目をつけたミサイルで、パーマンは「こないだの!!」と驚く。

しかも今回はパーマンの体以上の大きさで、その威力も強大であることが一目瞭然となっている。

パーマンは「何だかこの頃追われてばっかり」と逃げ回るが、ミサイルはしつこくどこまでも追ってくる。

その様子をまたしても遠くから双眼鏡で見ている魔土博士とドン石川たち。「パーマンもついに最期だ!」と早くも勝利宣言が出て、「最期を見届けよう」ということで、三人は車に乗ってパーマンを追いかけていく。


パーマンは既にヘトヘトで、追ってくるミサイルとの距離はあとわずか。「あと一息で追いつくぞ」と三人の乗った車が走る。すると、パーマンは煙突から噴き出す煙に飛び込んでしまい、ススで真っ黒けの姿に。

ブル・ミサイルはパーマンマントの赤を目がけて飛んでいたのだが、パーマンが全身黒くなってしまったので、目標物を見失った状況となってしまう。ミサイルはウロウロとし始めて、ドン石川たちの車に目をつける。

何と彼らはよりによって真っ赤な車でパーマンを追ってきたのである。ゴオとブル・ミサイルが車に迫り、ドガーンと大爆発を起こす。見事なまでの返り討ちになってしまうのであった・・。

ミサイルの難から逃れたパーマンだったが、家に戻って真っ黒けな姿をママに見つかり、みつ夫は走って逃げ出していく。「追っかけられてばっかり、もう嫌だっ!!」と泣き叫ぶのであった。


本作の構成上のポイントの一つは、パーマンは作中で魔土博士と全悪連の存在は知らないままとなっている点だろう。

みつ夫の立場からすれば、①蜂②ブル・ミサイル試作品③ブル・ミサイル④ママと、作中ずっと何かに追いかけられている。みつ夫としては訳もわからずミサイルに追い回され、ある種の偶然性において難を逃れているが、結局ママに怒られてしまう。

一方、みつ夫のあずかり知らないその裏側では、①蜂を見て博士がミサイルのヒントを思いつき、②特に名乗らずパーマンを攻撃するのだが、②パーマンの知らない内に博士たち勝手に自滅する。

表のストーリーと裏のストーリーを交錯させて、パーマンもドン石川たちも誰も幸せになっていない物語が作られているのである。さすがは短編の名手藤子先生の仕事である。


今回は全悪連と魔土博士の初タッグとなった作品で、パーマンが偶然を味方にして図らずも勝利を得た(本人は気付いていないが)。彼らとパーマンとの戦いはまだ始まったばかりで、この後8回も相まみえることになる。

続けて次稿では本作の翌月に描かれた魔土博士再登場のお話を紹介する。




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