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「暴力なんてその場かぎりのもんだよ」『まいもどった赤太郎』/赤太郎三部作③

突然だが、少年犯罪について考えてみる。(というか何度か考えている)

少年、いわゆる未成年の犯罪は何かと社会的に注目されるわけだが、その罪に対する償いについては二つの考え方がある。

一つは応報の考え方。未成年だろうと老人だろうと、犯した罪に対する厳正な処分を求める考え方である。それに則れば、少年が人を殺せば、死刑判決もあり得る。

もう一つは更生の考え方。まだ心身ともに未発達な少年の犯罪は、情状酌量の余地があり、まだ更生も可能と考える。すなわち、大人の罪よりは軽い処分に留めて、保護観察をつける、という流れとなる。


成人年齢の引き下げが行われ、基本的には応報の考え方に世の中は傾いていると思われるが、僕としてはその方向性に多少の異議がある。

なぜかと言えば、若気の至りという言葉もあるように、若い頃の過ちは誰でも経験することである。警察のご厄介になるまでではないにしても、物を盗んだり、器物を壊したり、殴り合いの喧嘩をしたりと、多くの人が心当たりがあるのではないだろうか。

さらに軽犯罪のレベルを超えて、傷害事件を起こしたり下手をすれば殺人事件を起こしてしまう少年もいる。普通はそこまでのワルにはならないので、重犯罪を犯した未成年は特別で、彼らを厳重に罰するべきだと考える人は多い。

けれど、まだ未成年の人間が重犯罪に手を染めるケースは、彼らの家庭環境などに何か重大な問題が潜んでいるように思う。何かしら、情状酌量の余地があるのではないかと考える。

被害者が納得できないのは理解しつつ、一度道を踏み外した若者は更生させるのが社会の役割なのではないかと思うのだ。


・・・と、ここまである種の理想論を語ってみた。もちろん、現実はそんなに単純でもない。

ただ、物語においてくらいは、罪を犯した少年は更生してもらいたい、とそんな風に思うのである。


前後編に渡って「エスパー魔美」の大作『学園暗黒地帯』を紹介した。黒田赤太郎という少年院帰りのワルが魔美の通う中学校の応援団に巣くって、暴力で支配する「暗黒地帯」を作りあげる。暴力で部員の言論を封じられている状況を憂慮して、高畑がそこに戦いを挑むというお話であった。

結果的には、高畑が身を挺して暴力の証拠を詳らかにしようと考えたのに対して、魔美が「ワンダーガール」なるスーパーヒーローに扮して、超能力で赤太郎を撃退してしまう。

応援団は解散となり、暴力の連鎖は途絶えたのだが、赤太郎は「覚えてろよ」と言って去ってしまうことになり、根本的解決に至らない終わり方なのであった。

記事は以下。


本稿では、そんな赤太郎が、魔美の住む町の舞い戻ってきてしまう。大作の続編とも、後日談とも言えるお話だが、こちらも高畑の別の思いが感じ取れる作品となっている。


『まいもどった赤太郎』(初出:弟子入り)
「少年ビックコミック」1980年22号/大全集4巻

冒頭から黒田赤太郎が舞い戻ってくる。魔美の超能力によって袋叩きにされ、その後遠くの町で就職したらしいが、長続きせずに実家に戻ってきてしまったという。

それで小遣いに困り、またしても中学生を狙い、暴力的なカツアゲをし始めたのである。魔美は、カツアゲされた学生の念波の下に飛ぶのだが、なかなか赤太郎を現行犯で捕まえることができないでいた。


魔美は、『学園暗黒地帯』にて体を張った高畑に相談に行く。ところが、前回とは打って変わって、我がごとに感じていない高畑。魔美はあの時の勇気はどうしたのかと尋ねると、「その行動に意味があると信じられれば勇気もわく」と答える。

そして高畑は、

「でも、あの暴力ざたの後どうなった? 黒田赤太郎は変わったか? 暴力なんてその場かぎりのもんだよ。なんの解決にもなりゃしない」

と続ける。これは、本作のテーマとなる重要な発言となっている。

前作では言論の自由をテーマにした作品だったが、本作は続編と言いつつ、テーマをまるで変えているのである。それは、人間が犯す事件の解決法として、暴力が有効なのか、というものだ。


魔美は全く納得がいかない。高畑は親や先生が考えるべきだと回答するが、魔美は「インテリって無責任ね」と呆れて出て行ってしまう。力を持つ魔美としては、赤太郎の恐喝を邪魔することが自らの使命でもあるのだ。

犯罪の抑止は、力か、他の手段を探るのか・・。そういった問題提起をはらむやりとりとなっている。


この後、魔美が帰宅して他愛のないいくつかのやりとりが行われるが、これらは全てラストへ連なる伏線となっているので、ここで箇条書きしておこう。

・大相撲の中継をパパが見ている 
⇒ やがて「相撲」が赤太郎の人生を変える
・大相撲の中継に興奮して、パパの人形の絵がグチャグチャに
⇒ 魔美の出番
・せっかくモデルになったのに、念波で呼び出せられてパパを怒らせる
⇒ 次に呼び出されても出られなくなる
・念波の発信源に飛ぶと若者が年寄りから逃げ出し、「お前みたいな根性なしはいらん」と言われている 
⇒ この年寄りが赤太郎の人生を変える

赤太郎とまるで関係無さそうなやりとりだが、最後には全て伏線として機能し、結果全て必要不可欠なシーンとなっている。お見事な構成であるのだ。


さて翌日、学校では盗難事件が発生。魔美と高畑も財布を盗まれてしまう。そんな時に、魔美は念波を感じる。すぐさまテレポートすると、団地の屋上から男の子が飛び降りようとしている。明らかに自殺である。

落ちた生徒をテレキネシスで救う魔美。事情を聞くと、自殺ではなかったと言い張るのだが、手を握ってテレパシーを使うと、自殺しようとした原因が赤太郎であることがわかる。

この生徒は冒頭、赤太郎に恐喝されていた少年で、家のお金や友だちからお金を盗んで工面していたが、どうしようもなくなって自殺を試みたのである。・・・高畑は放っておくことがこれでできなくなってしまう。

ちなみにこの自殺未遂の少年は、『学園暗黒地帯』において、幹部たちに交じって赤太郎をずっとうちわで仰いでいた子によく似ているが、同一人物なのだろうか??


高畑はまたしても勇気を振り絞り、赤太郎に後輩から金をとるなと声を掛ける。赤太郎は高畑の顔を見て、「学校で唯一タテついた命知らず」だと思い出す。

高畑は腕ずくでも止めさせると言うが、赤太郎はそれに大笑い。やって見せてもらうと言って、高畑を人気のない原っぱまで連れて行く。もちろん、高畑は無謀に喧嘩を売ったのではなく、バックに魔美が控えていることを知っての上である。

原っぱでは、向かってくる赤太郎に対して魔美がテレキネシスを使って、なぎ倒していく。赤太郎からすれば、高畑が指一本触らなくても、自分が投げ飛ばされるので、「こんなバカな」と不思議がる。

やがてボロボロになった赤太郎は、ここで驚きの行動に出る。なんと、高畑に弟子入りを志願してきたのである。そして赤太郎は、初めて自分の心の内を語る。

俺は頭が悪いが強いだけが取り柄の人間。
もっと強くなることだけが目標。
高畑は初めて自分より強いやつ。
指一本触れずに投げ飛ばす必殺技を教えて欲しい。

魔美はここで呆れて退散。高畑は困った挙句、「ブラブラして脅しているやつに秘伝の技は教えられない」と言い捨てて逃げ出してしまう。


さて、ここから高畑と魔美は別行動となる。

魔美はパパから二度と仕事中に抜け出さないと誓うならモデルにしてやろうという提案を受ける。「誓う」と二つ返事でモデルに取り組むことに

高畑は家に帰ると「先生お帰り」と言って、赤太郎が出迎える。どうやら勝手に弟子入りして、家の家事をしていたのだ。高畑の忠告も踏まえ、恐喝を止め新聞配達を始め、髭も剃ったという。次は高畑が技を教える番だと言う。

高畑からは困った念波が飛び出すが、それをキャッチした魔美は、モデル仕事が離せない。そうこうしているうちに、高畑は先日の原っぱに連れて行かれ、もういっぺんあの技を掛けてくれと赤太郎に迫られる。

煮え切らない高畑を赤太郎が取り押さえ、技を使わないと腕をへし折ると脅す。魔美は念波が届きつつも、「休憩までもうしばらく待ってよ!」と言って動かない。


絶体絶命の高畑だったが、おじいさんが現われ、馬乗りになっている赤太郎をヒョイと放り投げてくれる。赤太郎は「余計な手出しは怪我の元だぜ」と凄むが、このじいさんも、お前のようなひよっ子には引けは取らんと自信満々の様子。

読者はここで、この老人が物語中盤で若者に「根性なし」と言い放っていた人物だと気がつく。

赤太郎は「抜かしたな」とじいさんに飛び掛かるが、掴み掛かってもまるでビクともしない。そればかりか、「ドスコイ」と一言、放り投げられてしまう。さらには、バンバンと突っ張りを決めて、赤太郎を後ずらせる。すごい体力と腕力である。


高畑はそこで気がつく。この老人は大相撲の年波親方であることに。赤太郎も年をとってもさすがにプロだと言って脱帽する。彼は自分より強い人間に頭が上がらない人間なのである。

赤太郎は土下座して、親方に弟子入りを頼み込む。高畑に続き、二人目の弟子入り志願である。。。

親方は言う。近頃の新弟子は甘ったればかりですぐ逃げ出す。お前は苦しい稽古に耐えられるのかと。強くなることが目標の赤太郎は、「強くなるためなら何でもやります」と力強く答える。

腕力を暴力として弱者に対してしか振るえなかった赤太郎が、大相撲という格闘の世界でその力を試そうというのである。それは図らずも、彼なりの「更生」なのであった。


年波部屋に入門することになる赤太郎。チョンマゲが結えるようになって、高畑と魔美にすれ違うと、これまでと違った充実した表情が見受けられる。

「稽古が楽しくてしようがないんだ。めきめき力の付いてくるのが、自分でもわかるんだよ」

赤太郎は、逃げ出したくなるほどの稽古を楽しいと言い切れるほどに、心から強くなりたいと願う人間であった。大相撲との出会いは、彼のため、そして周囲のために素晴らしいことだったのだ。

「応援してくれよな」と去っていく赤太郎。魔美は、大相撲中継を見ながら、今にきっとこのテレビで会える日が来ると思うのであった。


後輩を強請って、自殺するまで追い込むような悪童・赤太郎。彼は一度は魔美の「暴力」によって退散するが、しばらくして力を悪用する現場へと舞い戻ってきてしまう。

ところが彼は、自ら唯一のアイデンティティでもある腕力を振える場所を知らなかっただけなのだ。少年院に入れられても更生できなかったが、大相撲との出会い、年波親方との出会いで、彼は人生を掛ける場所を見出す。

本作は「暴力=応報」で解決した『学園暗黒地帯』の続編として、「非暴力=更生」で事件を解決したハッピーエンドの作品と言えるだろう。(その分、魔美の活躍は少なかったが)



「エスパー魔美」完全解説まであと少し。


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