メール文化に喝ッ!『出さない手紙の返事をもらう方法』/○○せずに△△する方法③
手紙を書く。
失敗するとハガキや紙を無駄にしてしまうので、事前に書く内容を考えて、試し書きなどをしたり、推敲を重ねてたりと入念に準備を整える。そして実際に書く時には、誤字脱字の無いように、丁寧に筆を進めていく。
そのような段階を踏んでいるので、受け取った方が気を悪くするような文面にはなりずらいし、手紙で伝えたいことは、割としっかり伝わるものだと思う。
ところが、(電子)メールではそうはいかない。間違えてもすぐに書き直せるし、送ろうと思えば一瞬で発信できるし、ほぼリアルタイムで相手に届いてしまう。
書く前に準備はすることもあるが、なにぶんメール文化ではスピード感を重視するので、推敲が甘くなったり、下手をすれば書き途中で誤送信してしまうことだってある。
そうなると、メールを受信した側が気分を害するなんて話はよくあるし、意図が誤って伝わってしまうことも多々ある。非常に危ういコミュニケーション・ツールであると言わざるを得ない。
その一方で、メールの素晴らしいところは、やりとりが簡潔で、かつ、レスポンスを早く受け取ることが可能な点である。単純な意思疎通が目的であれば、最も手っ取り早い手段だとも言える。
ところが手紙では、受け取った側が返事を書くのも大変だし、相手に届くまでに時間がかかる。いち早く返事が返ってこないとヤキモキしてしまうものだが、メールにはそのタイムラグがない。
手紙とメールでは、メリットとデメリットはそれぞれというわけなのだ。
本稿では、まだ電子メールが無かった時代の「手紙」にまつわるお話である。そして、実際に手紙を送らずにその人からの返事をもらってしまおうという、論理的にあり得ないことができてしまうのだ。
「○○せずに△△する方法」というフォーマットで描かれた「ドラえもん」作品を追っていくシリーズ記事はこれで3本目。これまでの2本のリンクを貼っておくので、興味ある方は飛んでみてください。
のび太のママが郵便物をチェックしている。学生時代の親友だった山田花子さんに手紙を書いたのだが、さっぱり返事が来ないのだという。憂鬱な気持ちになっているママをパパが慰める。
するとそれを受けてママが答える。
これに対して、パパは声なき絶叫を上げる。そして青ざめた表情でドタバタと廊下を走っていく。なななんと、パパは頼まれていた手紙を出し忘れて、コートのポケットに入れっぱなしになっていたのである。
「えらいこっちゃ。ママは怒りまくるぞ」と、これ以上ない慌てっぷりを見せるパパ。その一部始終を見ていたのび太は、ドラえもんに何とかなるかと尋ねる。
「ならんこともない」と言って取り出したのは、「返事先取りポスト」というかなり小型のポストである。このミニポストに手紙を投函すると、手紙を出す前に返事がもらえるのだという。
そこでママの手紙を投函すると、出した手紙と一緒に、先取りした返事が返ってくる。あとは、出した手紙を本当のポストに投函すれば良い。
困ったパパが、ママに手紙を出し忘れことを伝えようとしているが、怖くてうまく切り出せずにいる。そんなところに、のび太が返事の手紙を持ってくる。
のび太のママは、親友からの返事を貰って涙を流し、パパは不思議ながらもホッとするのであった。
さて、この便利な道具。しずちゃんやスネ夫たちも知ることになり、関心を寄せてくる。
まずすぐにしずちゃんが反応し、大ファンである歌手の天野星夫にサインが欲しいという手紙を出すところだったのだが、返事が待ちきれないので、「返事先取りポスト」を利用したいというのである。
で、投函してみると、元の手紙だけ戻ってくる。この意味するところは、返事はもらえないということのようで、しずちゃんはすっかり出す気を失ってしまう。
それにしても年頃であるしずちゃんは、何かと有名人やアイドルに興味を示しており、天野星夫が初めてファンを公言するタレントのような気がする。(近く、しずちゃんが好きなタレントたちという記事を書きます)
続けてウシシと言いながらスネ夫が近づいてくる。ジャイアンに手紙を出そうというのである。で、どんな文面かというと、ジャイアンへの悪口三昧なのである。
から始まって、徹頭徹尾バカ呼ばわりし続ける文章なのだ。
のび太たちは「よせ!ぶっころされるぞ」と制止するが、もちろん本当に出すわけではなく、出したらどうなるのか実験しようというのだ。
のび太たちも「面白い、やろう」と賛同し、悪口手紙を返事先取りポストに投函する。返事が戻ってきたので、さっそくスネ夫が読み進めてみると・・・。スネ夫の表情が一気に青ざめ、ワナワナと震えだす。
「よっぽど恐ろしいことが書いてあるらしい」とドラえもんたちは思うが、ちょうどその時後ろからジャイアンが声を掛けてくる。死にそうなまでに驚いたスネ夫は、そのまま「許してえ!!」と叫びながら逃げて行ってしまう。
果たして、どれほどの恐ろしい内容の手紙だったのだろうか。真相は藪の中である。
この一件でのび太に妙案が浮かぶ。いっぺんしずちゃんにラブレターを出してみたかったのだが、どんな返事が来るかと思うと怖くて実行できなかったということで、返事先取りポストを使って実験してみようというのだ。
早速家にに帰り、「僕のしずかちゃんよ」と書き出していく。実際に送るわけではないので、かなり慣れ慣れしい文体で、かつ歯の浮くような気取った名文句を並べ立てる。さらにはちょっぴりエッチな内容も含める。
出来上がった文章を読んで、ドラえもんは真っ赤になってよじれ倒れる。リミットが外れた文章を書かせると、のび太も文才が発揮されるようである。
さて、どんな返事が返ってくるのやら。ところが、出したはいいが、宛先が書いて無かったり、切手が貼ってなかったりで、何度もポストから戻ってきてしまう。返事先取りポストは、きちんと実際に送れるようにした手紙しか受け付けないようなのである。
のび太とドラえもんは仕方なく切手を買いに出かけていく。と、そのころ、山田花子さんからの返事を貰ったママが、再度返事をしたためている。そしてのび太に投函してもらおうと、部屋へとやってくる。
ところがのび太は不在。そして床には一通の手紙。ママは気を利かせて、一緒にその手紙を投函しに行ってしまう。出してはならない手紙が、しずちゃんの元へと送られてしまったのである。
その事実を知ったのび太は、ゲッ!とビックリ仰天。どんな返事が来るかもう一度同じ文面を書いて、返事先取りポストに投函してみると・・・。その返信には、絶交を告げるしずちゃんの最大級の怒りが綴られているのであった。
本当に先ほどの手紙がしずちゃんの手元に届いては大変なことになる。すぐさま取り返しに、いつものタバコ屋のポストに向かうと、たった今集荷されてしまったという。
こうなったら最後の手段。しずちゃんの家に配達されたところを、押さえるしかない。したがって、その翌日からしずちゃんの家の前でブラブラと郵便配達を待つ羽目となる。
毎日家の前でウロウロしているのび太たちを見て、訝しがるしずちゃん。「お構いなく」とのび太は返す。この後うまく手紙を奪取できたかどうかは、神のみぞ知る、である。
この場合、手紙が届くまでにタイムラグがあったおかげで、恐らくは事なきを得ることになるだろうと思う。
しかしながら、現代のメール文化では、送信と同時に受信されるわけで、うかうかと変な文面を作るのは、大変なリスクを負うことになる。
その意味において、今本作と読み返すと、メール文化においてもメールの文面を練ることは非常に大事なことなんだなと、思わずにはいられない。
何だか時を経て、藤子先生にメール文化に対して喝を入れられている気持ちにすらなるのである。
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