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6000字超!リーダーシップと独裁の狭間で『宇宙船製造法』/独裁について考える②

今回は仕事におけるリーダーシップと独裁について考察を巡らしてみたい。

ひとえにリーダーシップといっても、様々な形がある。リーダーシップは組織の構成員を引っ張っていくための重要な役割だが、組織の向かう先によってそのやり方は変わってくる。

組織体の目的によって、リーダシップの質が異なるというわけである。

具体的には、組織が現状維持を求めている場合、無理な新規投資を控えて、なるべく手持ちにあるものを活用してコツコツ数字を積み上げたり、現状を損なわせる要因を取り除くことに腐心する。

逆に組織が大きな成長を求めている場合、やるべきこととやらなくてもいいことを振り分け、選別したものに対して、カネ・モノ・ヒトのリソースを傾けていく作戦を取ることになる。

選別は組織内に敵を作る行為だが、成長が優先的な使命であるならば、非成長分野からは勇気ある撤退をしなくてはならないだろう。

また、組織体の目的次第で、構成員に期待することも異なってくる。現状維持の場合は、古参の組織員から歴史を聞き出し、昔のやり方をきちんと継承することが求められるかもしれない。

一方、成長を最優先で目指すのであれば、新しいアイディアを持った若手や外部の人間を重用する必要があるかもしれない。


ここまで見てきたように、組織体が置かれている状況によって、リーダーシップの方法が異なることは、大方納得がいくことだと思う。しかしながら、大前提として、リーダーシップを取るリーダーの質・能力の問題があることには留意が必要だ。

リーダーがリーダーシップを発揮して組織をある方向へと進めていくことには異論はないが、時としてリーダーがその任務を果たす力が無かった場合に、その組織内には大きな亀裂が生じることになる。

特に最悪なのは、リーダーが自分のリーダーシップの能力が低いことを自覚できない場合である。自分のリーダーシップの問題なのに、言うことの聞かない組織員たちが邪魔者に見えてきて、強引に自分の言うことに従わせる方策と取っていくことが考えられる。

そうなると、リーダーからすれば「リーダーシップ」を発揮していることが、周囲の人間から見るとただの「独裁」に思えてくるのである。


リーダシップと独裁とは、このように表裏一体のものであるが、それでも確固たる違いがある。下記に記事の作品『どくさいスイッチ』にて、藤子先生が定義づける「独裁」が語られている。

詳しくは記事を読んでもらいたいが、「独裁」の定義の部分だけ抜粋しておこう。

「独裁者というのはね、自分一人の考えで世の中を動かそうとする人のことだよ」

ポイントは、「自分ひとりの考えで」という部分。人の言うことを聞かなくなったら、独裁者に片足を突っこんだと考えてよいということになる。

本稿では、「独裁」と「リーダーシップ」がテーマとなっているSF短編を取り上げる。その違いとは何か、独裁者となるきっかけは何なのか。そういうことに頭を巡らせつつ、本作を検討していきたい。


『宇宙船製造法』
「週刊少年サンデー」1979年8号

まず最初に書いてしまうと、本作はSF短編の中でも10本の指に入る傑作であると考えている。

傑作ポイントはいくつもあるが、まず、大勢の少年たちが漂流生活をするという良くあるプロットの舞台を宇宙の果てに置き換えた点、リーダーシップと独裁の狭間を考えさせてくれる点、そしてエグイお話でありながら、最終的に涙が止まらない感動が待ち受けている点などである。

さらに言えば、宇宙の果てからの脱出について、極めて真っ当なSF的処理を施している点も特筆できる。同じように宇宙の果ての星からの脱出を描いた作品が藤子作品にはあるのだが、その点については記事の最後で触れることにしたい。


冒頭からいきなり漂流が始まっている。まず、漂流に至る経緯が、主要な登場人物の紹介と共に説明されていく。

・春休みを利用して、男女8人でヨットを使って銀河系横断中
・ワープ中に次元震に巻き込まれ、銀河系の果てと思しき星に宇宙船が漂着
・不時着のダメージで、居住区が大きく破壊され宇宙船の体を成していない
・もっとも手近な宙港から20万年光年離れており、タキオン通信機がいかれて交信不能
・反重力エンジン始め、航行系統はほぼ無傷

8人の登場人物たちは以下である。

・主人公の小山は宇宙船が漂流するきっかけとなったワープの時の当直で、何とかボロ船を操ってこの星に辿り着かせた
堂毛は名前の通り獰猛な性格で、気にに食わないことあると暴力を振るう
志貴杜は、状況を冷静に分析し、判断できるいかにもリーダーシップを発揮できるタイプ
・通信を担当した村上
・後に堂毛の子分のように振る舞うことになる甲森
・小山と仲の良い女子、ユカ
・名前のわからない男女が一人ずつ


志貴杜を中心に状況を整理すると、現時点で地球に戻れる可能性は0%。エンジンは生きているので、ともかくも漂着している氷から脱出して緯度の高い地域まで飛ぶことにする。

極地かと思っていたが、宇宙船が乗っていたのが巨大な流氷であったことがわかる。この巨大な氷の塊が存在していることが、本作の大事なポイントとなるので、是非覚えておいて欲しい。


航行している船からの様子で、この星は重力や大きさも地球と似ており、大気成分もほぼ一緒で、宇宙服なしで行動できることを知る。温暖な地域まで航行し、川が近くを流れている山の中腹に着陸する。

食料品は残り12日分。8人は今後の行動指針についての話し合いを持つ。まずは技術的な知識と、天才的なヒラメキを持つ主人公小山が、惑星からの脱出プランを語る。宇宙船のエンジンは働く。配線や配管の修理は積み込んである材料と工具で可能。あとは船体の裂け目を塞げばよい、と。

志貴杜が、批判的に質問をしてくる。真空に耐える合金版がどこにあるのか、それをどうやって切って曲げるのか、船台(ドック)は、溶接用バーナーはどうする?

志貴杜は小山の意見を却下し、もう地球へは帰れない、この星に根を下ろして生き抜いていくしかないと語る。そして、冷静沈着で頭が切れる志貴杜は、サバイバルするためにするべきことを羅列していく。

・食料の確保(木の実採取、釣り、狩猟)
・そのうちに農耕や牧畜も手掛ける
・冬の周期がわからないので、急ぐ必要あり
・住居は今まで通りに船室を利用
・衣服は作り出す必要がある
・外敵の備えもしておく

まだ生還できると考えている小山は、宇宙船の修理も行いたいと提案するが、志貴杜はできもしないことに振り向けるエネルギーはないと、拒絶。そして、このチームの目的と方向性をピシャリと明示する。

「非常事態なんだぞ! 生きるか死ぬかだぞ!! 全員が一つの目的に力を合わせなきゃ、成功はありえない」

仲間の賛同を得て、8人の生存作戦が始まるのであった。


食料採取、毒見、家畜となりそうな動物の捕獲。順調な滑り出しに見えて、すぐにチームには暗雲が立ち込める。それは獰猛な性格の堂毛が自分勝手な行動をとり始めたことによる。

甲森をスネ夫的な部下にして、山を吹き飛ばすエネルギーを備えた熱線銃を持ち、仲間の言うことを聞かなくなる。音頭を取っている志貴杜のリーダーシップに腹をたて、デカい顔しやがってと、面と向かって反抗してくる。

どっちがボスが決着つけようといって、一方的に志貴杜を殴り飛ばして、大怪我をさせてしまう。周囲の小山たちも、堂毛の狂気じみた暴力に恐れをなして、怯んでしまう。

こうして王様として君臨した堂毛は、備蓄の食料を勝手に食べてしまうなどの横暴に走る。暴力を背景にした、独裁体制を敷いたのである。


これ以上堂毛をのさばらせると、ブループ全員に危険が及ぶことになると志貴杜が指摘、小山たちを取りこんで、この日の夜にクーデーターを決行することを決める。

夕飯後、志貴杜が緊急会議を開きたいと提案する。この時呼び止められた堂毛は、「俺のことなら王様と呼べ!!」とすっかり専制君主のような発言をしている。

志貴杜は重大な犯罪行為があったと指摘、計画的な管理が必要な食料を食い散らかしている不届き者がいると断罪する。当然、自分のことを非難されたと気がついた堂毛は、光線銃を取り出そうとするのだが、それはとっくに小山の手に渡っている。

「素手で二対一でこのオレを戦うつもりか」と凄む堂毛であったが、志貴杜が残るメンバーに対して、「このままでは全員が自滅の道を辿る、断固処罰して秩序を取り戻すべきだ」と熱弁すると、女子たちも加わって六対一の形勢となる。

さすがに多勢に無勢となった堂毛は喧嘩においても劣勢に立たされ、甲森に助けを求めるが、さすがはコウモリ、7対1だと言って、堂毛打倒の側に寝返るのであった。


禁固一週間の罪状を与えて、仕返しを口にする堂毛を黙らせることに成功。物騒な光線銃は皆の了解のもと、志貴杜が預かることになる。こうして、武器と仲間の信頼を得た志貴杜は、事実上のリーダーに就任。「この新天地に、素晴らしい理想郷を作り上げて見せよう」と、力強く公約を述べるのであった。

物語はこの後、志貴杜が強いリーダーシップを発揮するのだが、大方読者の予想通りに、徐々にそのやり方が仲間の賛同を得にくくなっていく。独裁とは、たった一人の考えで組織を動かそうということだとすれば、徐々に志貴杜は独裁者への道を進んでいくことになる。

ちなみに強力な兵器である熱線銃の存在は、この後惑星脱出にも力を発揮するアイテムである。


乾季の到来を予期して、志貴杜は川から水を引いて貯水池を作ろうと提案。男子たちは土木工事をすることになるが、当然ながらその重労働ぶりに、「俺たちは奴隷か」と不満たらたら。しかしその中でも、志貴杜と堂毛は黙々と働く。

ある夜、夜更かしして小山が船の再建の計画を練っている。そこへ入ってくる志貴杜。小山はそこで思いついたことを説明しようとするのだが、「エネルギー節約のために消灯時間は9時までと申し合わせたはずだ」と、話を遮ってしまう。

小山に対して、「一番頼りにできる男だと思っている、皆をまとめていくには君の協力が必要で、信頼を裏切らないでくれ」と注意する。そしてここで気になる発言も加えている。

「小さな星だが、ここは僕らの国なんだ。申し合わせは、いわば法律だ。今後、もっと色んな法律を作ることになるが、守ってくれなきゃ意味がない」


リーダーシップとは、皆をまとめあげることが目的だが、その手段としてルールを作るやり方がある。ルール作成に当たっては、ルールの周知徹底や組織員の了解がなくてはならないが、その運用の厳格さはリーダーに委ねられる。

志貴杜は、仲間うちでワイワイするような関係を離れて、仲間を一つの国家とみなす発言をしている点には注目しておきたい。確かに、皆で生き延びることが最大の目的ではあったが、その目的達成のために、ルール順守が一義となり、構成員の一人一人の別の考えを潰してしまう方向に舵を切っているように見えるのだ。


秋が深まり冬の到来は間近。皆で決められた量の食料調達に勤しんでいるが、小山の採れ高が少ないことを志貴杜が非難する。すると小山は見てくれと言って、地球の鉛そっくりだという鉱物を見せる。これを熱線銃で溶かしながら船の穴を塞げるのではないかと語り始める。

志貴杜は「8人で鉛を掘るのに何年もかかると思うか」と問い質し、小山の意見を却下。そればかりか、予定の食糧確保ができなかったということで、ルールに従って、三日間の食料20%カットを命じる。

さらに志貴杜は「宇宙船のことは忘れろ」と付け加えるのだが、小山は反発して「君は地球へ帰る望みを完全に捨てきれたのか」と質問する。するとその答えは、

「夢を見るよ、毎晩・・・。地球に帰った夢を。だが、考えるのは実行可能な道だけだ。それがリーダーの務めじゃないかな」

というもの。彼は自分の中の思いと、実際の決断を切り分けていることが伺える。そして、それはラストへの伏線にもなっている。


別の日。仕事をさぼってたき火をして山火事を発生させた甲森に、志貴杜が棒叩きの刑を処している。あやうく宇宙船を全焼させ、全員の命を危険にさらしたということで、罪深い行為だったとは思うが、仲間に対して暴力的な刑罰を行うのは、さすがに見逃せない。

小山が「いい加減にしろ」と止めに入るが、「好きでやってると思うのか」と正義心を見せる志貴杜。しかしその表情は、既に何か大事なものを失ってしまっているような狂気を伺わせる。

この状況で、ユカは「まるっきり独裁者よ」と小山に告げる。みんなもピリピリしており、いつまでこんなことが続くのかと嫌気を催している。

しかし話を聞く小山は上の空。相変わらず彼の頭の中は「宇宙船製造法」のことでいっぱいなのである。・・・すると、氷に足を取られて滑ってしまう小山。そこで小山は何かのヒントを閃いたようで、「そうだ!!氷だ!!」と声を上げるのである。


非常呼集のサイレンが鳴り響く。志貴杜や他の仲間が船へと集まってくる。操舵室に小山が閉じ籠っているようで、やがて宇宙船が空へと浮かび上がる。

志貴杜は熱線銃を使って鍵を壊し、操舵室に入ると、小山が「逃げるんじゃない、宇宙船の材料が見つかったんだ」と言って、舵を握っている。傍にはユカの姿もある。彼女も同意の上での行動なのだ。

小山は、自分の宇宙船製造法を披露する。

・最初に着陸した島のような流氷が宇宙船の材料となる
・熱線銃のパワーを使い切って船体を氷山の中心部に埋め込む
・気密は万全で宇宙空間で氷が解けることもない
・反重力エンジンは重量を気にする必要もない
・食料さえ積んでおけば水も空気も氷から取り出せる

この小山のSF的アイディアこそが、藤子F作品の醍醐味である。


堅実派の志貴杜は、氷の宇宙船などという危険な賭けは認めぬ、止めないと撃つぞと銃口を小山に向ける。「頼む、撃たせないでくれ」と叫ぶのだが、小山は「止めない、撃て!」ともうテコでも動かない覚悟である。

志貴杜は引き金を引いてしまうが、肩を掠っただけで、小山は運転に復帰する。「僕を止めるには心臓を射貫くしかない」と言い放つ小山。「止むを得ん」と銃を手にする志貴杜であったが、ユカが体をぶつけてそれを妨害する。

ユカは逆に銃を取り上げ、「やらせてあげて!!」と志貴杜に向ける。「反乱だ!二人を捕まえろ!!」と気色ばむ志貴杜であったが、周囲の反応は彼の予想に反するものであった。

「いや、やってみる価値があると思う」
「俺も小山に賛成だ」
「俺も」と、堂毛が久しぶりに口を開く。


こうして独裁者・志貴杜は失脚し、小山がリーダーとなって、宇宙船の復活事業へと乗り出すことになる。

かつての流氷を見つけて、熱線で船底の氷を溶かしながら、氷塊の中心部へと沈めていく。作業員は宇宙服を着て水中に潜る。二人一組、三時間交代で昼夜ぶっ通しで作業を進める。

水圧が徐々に高まっていく。船内の隔壁がどこまで耐えられるのか未知数である。元リーダーの志貴杜は、「いい加減な見通しで皆を危険にさらすのか、100%の安全を保障しろ」と小山に詰め寄る。

するとそこへ堂毛が現われ、「50%でも30%でも俺ならやるぜ、こんな星で長生きするよりはな」と小山の肩を持ち、「みんなもそう思ってる。頑張ろうぜ」と言って握手してくるのである。

生存が第一目的だったこの組織体は、いつしか命の危険を冒してでも、地球帰還を果たすことに、目的は変更されていたのである。志貴杜は、そうしたチームの意思を途中から汲むことができなくなっていたのである。


隔壁は水圧に耐え、船を包んだ水は再び氷となる。船は流氷の中心部に深くに沈み込む。そして二日後、反重力エンジンが始動する!!

「成功だ!!」

小山たちの新造宇宙船は、見事に飛び立ったのである。歓喜の渦に酔いしれれる仲間たち。共に抱き合って、涙を零す。

すると、その場に志貴杜の姿がない。小山が彼の部屋を覗いてみると、一人ベッドで突っ伏して、志貴杜が泣いている。

「帰れるんだよ、地球へ帰れるんだよ、ママ!・・・」

そう、仲間の命を守ることだけを最優先にして、現実的な判断を下してきた志貴杜もまた、毎晩地球に帰れる夢を見続けた、一人の少年なのであった。まだ、母親のことをママと呼んでしまうような、子供であったのだ。

氷に包まれた新造宇宙船は、地球帰還を目指して、ワープに入るのであった。


なお、本作は主にラストシーンにおいて、単行本収録時に大きな加筆修正が行わている。読後感は変わってくるが、独裁者と化してしまった志貴杜にも手を差し伸べている、素敵なラストであったと思う。

さらに補足情報。本作の、辺境の星から脱出するという展開は、全く別の作品でも語られている。それが「21エモン」の最終回『宇宙の墓場から』である。こちらも絶体絶命のピンチを奇抜なSF的アイディアで乗り越えているが、発想としては同じものである。

こちらは、ずっと先になるが「最終回特集」で取り上げる予定である。




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