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旧→新 7大設定変更とは?『パーマンはいそがしい』/「新パーマン」の幕開け①

藤子作品で最も好きな作品を挙げるとしたら、僕は「パーマン」と即答する。大げさではなく、最も影響を受けたマンガと言い換えてもいい。子供の頃から、大人になってからも、何度も何度もマンガを読み、アニメを見てきた。

パーマンの魅力は一口では語り切れないが、一つには「スパイダーマン」でも主題とされている点が挙げられる。すなわち、大いなる力には大いなる責任が伴うというアレである。

他にも仲間との友情、強力な敵とのバトルなど、見所も多い。中にはメッセージ性のある作品もあったりして、大人の鑑賞にも耐えうる完成度を誇っている。


これまで「パーマン」の記事をたくさん綴ってきたが、前稿にて再度魅力をまとめてみた。本稿を読む前に、是非ともご一読をオススメさせていただきたい。



さて、今回から「新パーマン」についての記事を書いていくのだが、その前に旧パーマンから新パーマンに移行するにあたり、いくつもの設定変更があるので、まずはそちらをまとめたい。

てんとう虫コミックス「パーマン」5巻において、4巻までの「旧パーマン」から、「新パーマン」へ移行するにあたり、設定変更についての注釈が加えられているが、それが全てではない。

書かれていない部分も含めて、主だった変更点を下記に列挙する。

◆「旧パーマン」→「新パーマン」への設定変更
① スーパーマンの名前が「バードマン」に変更
② パーマンの最高飛行速度が91キロから119キロへ
③ コピーロボットの大きさが一回り小さく
④ ブービーの住まいが動物園から、家のペットに
⑤ パー子の正体が星野スミレだと明かされている
⑥ 全ギャド連が「全悪連」に名称変更
⑦ パーマン5号(パー坊)がいないことになっている

特に7番目の変更点が最も影響が大きいが、単行本での注釈にはあえて書かれていない。


「新パーマン」は1983年4月号より、全4誌にて連載が始まった。藤子不二雄先生のために創刊されたと言われている「コロコロコミック」と、「てれびくん」「小学三年生」「小学四年生」である。

このうち、「小学三年生」「小学四年生」では同じ作品が掲載されていたので、毎月3作品の新作が発表されていたことになる。「コロコロコミック」と「てれびくん」は約1年の連載で、学年誌については3年間連載された。


ここで注目しておきたいのは、パーマンの連載開始とともに、アニメも放送が始まっているということである。しかもアニメ放送に先駆ける形で、「映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城」の併映として『パーマン バードマンがやってきた』が映画化されている。

第一話となるエピソードを映画で上映して、レギュラー放送に繋げていく形となっている。これは立派なメディアミックスの手法と言えるだろう。


本稿から3回に渡って、1983年4月号で発表された「パーマン」3作品を取り上げ、各話しっかりと内容の吟味を行っていきたい。題して「新パーマン」の幕開け。旧パーマンからの設定変更だったり、新要素などを丁寧に見ていくこととしたい。

本稿ではまず「てれびくん」掲載の『パーマンはいそがしい』を紹介する。


『パーマンはいそがしい』「てれびくん」1983年4月号/大全集5巻

スーパーヒーローの物語である「パーマン」だが、記念すべき第一話は、ヒーローである喜びより前に、辛さを前面に描かいていく。ヒーロー漫画としては異色の組み立てである。

冒頭、先生にテストの点を叱られ、ガールフレンドのみっちゃんからは「これから頑張ればいい」と励まされ、カバ夫とサブには「無理無理」と揶揄される。家に帰ると、妹のガン子は毎回100点なのに、兄のみつ夫はお粗末な点なので、ママからは「あんた恥ずかしくないの」と嫌味を言われる。

勉強しないからテストの点が悪いのだとみんなに指摘されるみつ夫なのだが、彼にも当然言い分がある。訳はみんなに言えないが、勉強したくてもできない理由があるのだ。


部屋に戻ってベッドに転がるみつ夫。そこへビビビビと音が鳴りだす。鳴っていたのはパーマンバッジ。「何か事件かい?」と尋ねると、「ウキウキ」と猿の声が聞こえてくる。

ここでみつ夫はポケットから小さくしていたパーマンセットを取り出し、ササッとパーマンへと変身する。

「僕はパーマンなのだ! 世の中の平和のために働いているのだ。だから勉強する暇がない。それなのに・・・そのことを誰にもしゃべれないのが辛い所なのだ」

第一話目初っ端のパーマン登場シーンから、いきなりの愚痴三昧。ヒーロー活動と学業の両立が困難な上に、秘密を他の人に話せないストレスを抱えているようなのである。

「新パーマン」からの読者としては、いきなりしみったれたヒーローの登場ということになるのだが、「旧パーマン」の『パーマンはつらいよ』などを読んでいれば、そのみつ夫の気持ちは痛いほどわかる。

ただ、先ほどはベッドに転がっていたし、パーマンには「コピーロボット」という味方がいるはず。勉強する暇がないと言い切れるものなのか、疑問は浮かぶ。


パーマンはコピーロボットを引き出しから取り出し、鼻のボタンを押す。先述したが、コピーロボットの大きさは、旧パーマンからだいぶ小型化されている。旧→新の間に、バード星の科学力がアップして新製品が出たのだろうか。

パーマンはコピーに「勤めで出ていくが、宿題をやっておけ」と指示を出す。「わかったわかった」といい加減な返事をするコピー。読者としても、パーマンとしても、何だか調子だけがよいような気がする。


ベランダからパーマン出動!! 初回の事件は・・・公園でプロレスラーと相撲取りが大喧嘩をしており、この仲裁。ベンチやゴミ箱を放り投げたりする大乱闘で、危なくて誰も止められないので、パーマンの出番となったのである。

すったもんだあって、レスラーと力士を木の上に引っかけて、ようやく二人を落ち着かせて反省させる。怪力の持ち主たちをさらなるパワーで押さえ込んだパーマン。公園の野次馬たちは、「さすがはパーマン」「立派ねえ」などと賛辞を贈る。

パーマンにはそんな言葉は届いていないようで、「宿題!」と言って家路を急ぐ。すると下から「今日はどんな活躍したのか話してよ」とカバ夫とサブが声を掛ける。


チヤホヤされて、さぞパーマンが喜ぶかといえばそうではなく、「どうもおもしろくないんだよな」と、逆に不満な様子。それはなぜかと言うと、みんなパーマンを褒めてくれるのに、みつ夫に戻ると、全く相手にされないからであった。

みつ夫は、冷たいカバ夫とサブの反応を見て、「同じ人間なのに!!」と悔し涙を零す。この第一話は、常に可哀そうなヒーローというエピソードが並べられているのである。


みつ夫が部屋に戻ると、コピーロボットは宿題もせずベッドに寝転がっている。コピーに対し、「どうして君はだらしないんだ」と聞くと、

「君のコピーだもの。君がしっかり勉強すれば、僕もそうなるよ」

と一蹴。頼みの綱のコピーロボットがこの調子なので、ちっともみつ夫の学力は伸びないのであった。。


明日こそは宿題をしていかないと叱られて、バカにされる。勉強机に向かうみつ夫だったが、そこへ再びパーマンバッジの呼び出し音が鳴る。さっきはブービーからの呼び出しだったが、今回はパー子。

今回は初回ということもあり、パーやん以外の登場人物は一通り出演させる方針であったと思われる。

パーマンを呼びだしたパー子。とある家に空き巣が入ったので捕まえて欲しいという。パー子が捕らえれば良かったのだが、パー子曰く「泥棒が嫌い」なのだという。これは甘えているのか、パーマンに会いたかった言い訳なのか・・。というのは考え過ぎだろうか。

「泥棒が好きな人っているもんか」とブツクサ言いながら空き巣のいる家に入ると、部屋を物色中の泥棒が包丁でパーマンに向かってくる。しかし、ガチーンとパーマンの体は包丁を通さない。ここで、頑強な体の持ち主であることを紹介する形となっている。


あっさりと泥棒を片付けると、そこでようやく「どちらさん?」と家人が姿を現わす。大学受験中の受験生だったようで、勉強に夢中で気が付かなかったようである。集中できるのは凄いことだが、随分ノンビリとした男である。

「何かお礼をしたい」と言ってくれるが、「要りません」と断るパーマン。パーマンの関心ごとは今日の宿題だけなのである。

ところが、家に戻って宿題に取り組むが、苦戦するみつ夫。そこであることを思いつくみつ夫。それは、先ほどの受験生のコピーを作って、自分の宿題をやってもらおうと言うのである。

無事受験生にロボットの鼻を押してもらい、コピーに宿題をやらせるみつ夫。ズルい技だし、何の身にもならないが、まあたまにはこれくらいいいかと思わせるみつ夫なのであった。


第一話目から、ヒーローの喜びよりも、いきなり辛さをテーマに描く作品となっている。旧パーマンの『パーマンつらいよ』にも通じるお話で、合わせて読んでいただくとパーマンの魅力の一つに気づいてもらえるものと思う。



次稿以降では、別の雑誌の掲載された「新パーマン」第一話を見ていく。乞うご期待!


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