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ウッカリ100点を取った『高畑くんの災難』/男前!高畑君①

エスパー魔美のもう一人の主人公。それが高畑和夫(高畑君)である。特に序盤の『エスパーはだれ?』~『友情はクシャミで消えた』という作品群では、自分のことをエスパーだと勘違いする高畑の姿がメインに描かれていた。

その後、魔美がエスパーだと分かった後は、世界で唯一のエスパーのコーチとしての活躍を始める。魔美のテレポートを助ける「テレポーテーション・ガン」を作ったり、導体テレパシーの仕組みを明らかにしたりする。

高畑君はその天才的な頭脳と博識ぶりで、魔美が直面する問題や事件の背景を明らかにし、適切な解決法を提示していく。

「エスパー魔美」は、魔美と高畑のコンビネーションがあっての物語なのである。


高畑は見た目がパッとしない男の子で、スポーツも得意ではないため、クラスではそれほど目立たない存在である。彼の天才的頭脳や、正義感溢れる性格などは、クラスメイトたちには知れ渡っていない。

それはまるで超能力を隠し続ける魔美のようである。魔美も高畑も、世間に知られていない超人なのである。


本稿ではそんな高畑君の才能の一端が明らかとなってしまう(そして恨みを買う)お話を紹介する。

『高畑くんの災難』「マンガくん」1978年6号/大全集3巻

高畑は天才的な頭脳の持ち主で、その学力はとても中学生レベルに収まらない。では、テストは毎回100点を取っているかと思いきや、そうではない。それはなぜか?

冒頭で、高畑が担任の先生に褒められている。何と学年トップの成績を取ったというのである。

「もともと君は頭は悪くない。どうしてもっと良い成績が取れないか不思議に思っていたんだよ。これが実力なんだ。自信をもって今後も頑張りなさい」

この担任の先生は高畑のことをよく見ており、もともと頭は悪くない=頭は良いことを知っている。作中に出てくるが、高畑をカンニングをするような男ではないと断言している。


いつもは学年トップの成績など出していないので、周囲から急にチヤホヤされる高畑。けれど、あまり嬉しそうな顔をしない。これには理由がある。

まず、今回好成績を取った驚きの原因はこれ。

「カゼひいてたんだ、テストの期間中。頭がボンヤリしててさ。ついうっかり全問正解しちゃった」

なんと、風邪引いてうっかり間違えたのではなく、うっかり全問正解したというのだ。つまり通常時は、敢えて間違えていたということになる。

その辺の事情を知っている魔美は、高畑に言う。

「いつも百点取れるのに、わざと何題か間違えることにしてるなんて、キザよ」

それに対して高畑は、わざと間違えている理由について

「だって悪いじゃないか、夜も寝ずに勉強している人たちに。僕みたいにブラブラしているのが良い点取っちゃ」

悪びれず答えているが、これも聞きようによっては相当にキザだ。しかし、高畑は自分の頭が良いことを、全く誇りに思っておらず、むしろ迷惑な能力だと感じている節すらある。


なお、このやりとりは『勉強もあるのダ』という作品で、既に魔美を高畑の間で会話がなされている。この時は高畑が「家で勉強をしたことがない」と言うので、魔美がキーッとなって、高畑が泣き出すというシーンがある。


ともかく、高畑は今回のテストについては、満点を取ったことを非常に後悔するのであった。そんな高畑に魔美は、

「過ぎたことくよくよしない! 今度気をつけて、悪い点を取れば」

アベコベな励ましをするのであった。


魔美はそんな高畑の悩みをパパに話す。どら焼きなどを食べながら・・。

そんな魔美にパパがグサッと一言。

「トップになる心配はなくても、別の心配があるんじゃないか」

魔美の方には、担任から家族宛てに「もう少し勉強をさせてくれ」という手紙が届いていたのだ。これが、良くある中学生の成績に関する悩み事である・・。


さて、思わぬ学年トップを取った高畑君。彼は本当に勉強している人たちに申し訳ないことをしたと語っていたが、まんまと何者かに恨まれてしまう

帰り道、魔美と別れたあと、ボールで転んだり、看板が倒れてきたり、家の前のどぶ板が外れていたりする。魔美の筆跡とよく似た手紙を受け取り、魔美の家であまり意味ない時間を過ごしたりもする。

学年トップになってから、明らかに悪質ないたずらを受けるようになってしまったのだ。


さらに嫌がらせは続く。翌日、先生の元に高畑がカンニングをしていたというタレコミの手紙が届く。先生にはカンニングをするような男じゃないと理解してもらえたが、これで確実に誰かから恨まれていることが判明する。

魔美は、嫌がらせの原因は高畑の成績を妬んだのだと見破り、犯人も、ガリ勉の点取り虫(天鳥勉)だと推察する。その話を聞いた高畑は、

「まさか! たかが成績ぐらいのことで」

と、驚く。この「たかが成績」発言に対しては、思わず魔美も「みんな苦労しているのに!!」と反発する。


この「たかが成績」発言から、高畑にとって、学校の成績などは全く重要ではないという考えが見て取れる。

学校の成績は、あくまでその時点の数字に過ぎず、生きていくのに必要不可欠なデータではない。成績と関係なく、実質的に頭の良い高畑は、恐らく社会的に必要な人間となっていくだろう。つまり、高畑にとって、成績は必要ないのだ。

つまり、高畑の考えの方が正しい訳だが、受験戦争に巻き込まれている中学生たちには全く理解できないことでもある。このテーマは、この後ラストで再び浮上する。


さて、魔美が高畑を恨んでいるのではと推理した天鳥は、直接的に高畑に詰め寄ってくる。

「おかげさまで四位に転落だ。君のせいだぞ。どうしてくれる」

天鳥は中学入学以来、ずっとトップ3を維持してきたが、今回高畑がトップに躍り出たことで、初めてランク外に落ちてしまったのがショックだったようである。

そして、高畑のことを「いつも遊んでばっかりいるような顔して、陰でガリ勉をしていてズルい」と食って掛かる。完全に逆恨みであるし、これまでの嫌がらせの犯人は自分だと宣言してしまっているようにも思える。


その夜。午前二時。魔美は強い殺気を感じて、飛び出していく。殺気のもとは、天鳥家の庭。天鳥はこのご時世にありながら、木に括った藁人形に釘を打ち込んでいる。「死ね!高畑!」と、完全に狂った目つきの天鳥。

しばらく釘を打ち付けていると、家の中から声が掛かる。ちょっと夜風に当たっていたと言いながら、部屋に戻っていく天鳥。殺気だっているが、本当に殺そうとしているわけではなさそうだ。


翌日。高畑の教科書とノートが盗まれる事件が発生。高畑は、魔美の家にやってくると、明日やる部分を読ませてもらいたいという。魔美はコピーを取ろうと提案するのだが、高畑はササっと教科書を読み飛ばしていくと、あっという間に終わりまで覚えてしまったという。

魔美は昨晩、天鳥が殺気立っていたことを告げると、「古めかしい」と大笑い。教科書を取られたことも、大した迷惑じゃないと気にしていない様子。そればかりか、久しぶりに野球の試合があると言って、飛び出していく。

高畑に嫌がらせをするのも楽じゃないようだ・・。


魔美は天鳥の行動がこれ以上にエスカレートするのではと危惧して、一言注意しようと天鳥の家へと向かう。天鳥の部屋にテレポートすると、天鳥の姿はない。室内には彼の父の写真が飾られている。天鳥の父はずっと前に亡くなっていて、今は母子家庭なのだ。

すると母親と言い合いしている天鳥の声が聞こえてくる。口論の内容としては、母親が天鳥が熱っぽいのに休まずに勉強を続けていることを諫め、天鳥は勉強の邪魔だから出ていけと反発している。

魔美は押し入れに逃げ込み、様子を伺う。天鳥は勉強でトップになってみせると父の遺影に語りかける。狂ったようにガリ勉している天鳥は、実はとても真面目な少年だったのだ。

魔美は、気持ちはわかるが、お父さんが生きていたら、今の天鳥を見て喜んでくれるのだろうかと考え込む。そしてそのまま眠ってしまう・・。


魔美の夢の中。
魔美は天上の天鳥の父親に会う。そして息子の現状を報告すると、そんな子ではなかったと悩ましげな表情を浮かべる。昔は外に遊びに連れていけとせがむ子供だったと。

そして、天鳥の父親は息子の夢の中に会いに行こうと決意する。そして夢の中だけでも楽しく遊ばせようと考える。そして、

「人生がたった一本の道で、それを通らねばおしまいという・・、けっしてそんなものじゃないことをわかってくれると思います」

と魔美に語る。

そういうことなら、もっと早く行動を取ってもらいたかったと思うところだが、天鳥の父親が息子の現状を知らなかったこと、そして会いに行くのことを決断しているように思える点から、天上世界と地上世界を簡単に行き来できない事情があるようだ。


魔美が目を覚ますと、既に暗くなっていて、部屋では天鳥が机の上で眠ってしまっている。魔美は高畑の教科書を見つけて、布団を天鳥に掛けて家へと戻る。

そして、眠っている天鳥は夢を見る・・。

「天鳥勉は、父に会った。幼い日に戻って。マミの超能力がマミも知らないうちに生み出したユメか・・。それとも本当の父の霊が勉を気づかって現れたのか・・・。それは誰にもわからない」

何とも余韻のあるナレーションである。


翌日。空き地でみんなと野球に興じる高畑。相変わらず下手の横好きであるようだ。そこへ天鳥がブラブラと歩いてくる。高畑は「やらない?」と軽く声を掛ける。白鳥は「う~ん、勉強で忙しいんだけどな」と表情を曇らす。・・・が、すぐに、

「でも ときどきなら」

と笑顔を見せて、高畑と一緒に野球チームの輪の中へと連れてだっていく。天鳥の別の人生が生まれようとしている。


天鳥の父親は、人生の道は一本ではないと語った。それは、良い成績を取らなければ良い人生を歩めないという、学生たち(=読者)の思い込みに待ったをかけるものだ。

本当に優秀ならば、テストの点に一喜一憂するべきではない。そんな藤子先生のメッセージが聞こえてくる。



目指せ「エスパー魔美」全話解説!


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