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英国挿絵画家の世界

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20世紀、英国では絵本挿絵の黄金時代が訪れた。この時のアーティストらを超える新人はいまだ現れていない。それくらい当時のレベルは高く、今日に名を残すスーパースターたちが誕生した。こ… もっと読む
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記事一覧

ルイス・キャロル、ジョン・テニエル『鏡の国のアリス』マクミラン社、1871年初版初刷

アリス伝説の始まりと言える原点の初版初刷は、世界中のアリス愛好家が追い求める英国を代表する稀覯本である。『不思議の国のアリス』及びその続編の『鏡の国のアリス』はこれまで多言語に訳され、様々な挿絵画家を起用して出版されてきたが、最初にルイス・キャロルとジョン・テニエルがマクミラン社から出版したオリジナルがどのような姿をしていたのかは、意外にも知られていないのではないだろうか。そこで、今回は『鏡の国のアリス』の初版初刷の表紙や見返しを始め、テニエルによる挿絵の一部を紹介していく。

アレクサンドル・アファナーシェフ、イヴァン・ビリビン『うるわしのワシリーサ』1965年復刻版

今回は、ロシアの巨匠イヴァン・ビリビンが挿絵を手掛けた『うるわしのワシリーサ』1965年復刻版の全ページを撮影したので公開する。本作はロシア民話研究者アレクサンドル・アファナーシェフによって編纂されたロシア民話のひとつである。 ビリビンが挿絵を手掛けた『うるわしのワシリーサ』は1899年に出版された。出版から60年以上が経過し、1965年にゴズナク博物館収蔵の初版を基に復刻版が印刷された。この復刻版も今では60年ほど前の稀覯本となっている。内容としては短く、僅か十数ページの

リヒャルト・ワーグナー、アーサー・ラッカム『ニーベルングの指環』1910年、1911年初版

リヒャルト・ワーグナー『ニーベルングの指環』アーサー・ラッカム版1910年/1911年初版のカラーイラスト「ラインの黄金」「ワルキューレ」全34枚、「ジークフリート」「神々の黄昏」全30枚を撮影したので公開する。本作は全4部作に及ぶ長編のため、上下巻で発表された。 全4章からなる『ニーベルングの指環』シリーズの「ラインの黄金」と「ワルキューレ」の2章を収録した一冊。ニーベルングの指環の魔力を狙った者たちの争奪戦と英雄を導くワルキューレである美女ブリュンヒルデの苦悩を描く。

チャールズ・ディケンズ、アーサー・ラッカム『クリスマス・キャロル』1915年初版

チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』アーサー・ラッカム版1915年初版に収録されている全12枚のカラーイラストを撮影したので公開していく。その他、モノクロイラストの一部を掲載した 。 本作は強欲で冷酷な商人エベネーザ・スクルージがクリスマスに過去、現在、未来を司る3人の亡霊と出会い、非日常的な体験をする物語。彼は時間を超えて旅する中、人の心の温かみや優しさの大切さを徐々に知り、改心していく。ディケンズを作家として世に知らしめた記念碑的作品と言え、幾度も映像化されて

ルイス・キャロル、アーサー・ラッカム『不思議の国のアリス』1907年初版

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』アーサー・ラッカム版1907年初版の全13枚のカラーイラストと一部のモノクロイラストを撮影したので公開する。 オックスフォード大学の数学講師チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンのもうひとつの顔は、作家ルイス・キャロルだった。本作は、ドジソンの職場の上司ヘンリー・リデルの娘アリス・リデルのために書かれたものだった。ある夏の日の午後、ボートの上でアリスに即興ファンタジーを聞かせていたドジソンは、彼女からこの話を本にして欲しいとねだられる。そう

ウィリアム・シェイクスピア、アーサー・ラッカム『真夏の夜の夢』1908年初版

ウィリアム・シェイクスピア『真夏の夜の夢』アーサー・ラッカム版1908年初版の全40枚のカラーイラストの他、一部のモノクロイラストを撮影したので公開する。 本作は、ギリシア・アテネ郊外の森を舞台に若者たちが妖精の魔法に操られて繰り広げる恋愛ファンタジーである。シェイクスピアの傑作のひとつで、成立は1594年〜1596年頃とされている。『ロミオとジュリエット』が完成し、『ヴェニスの商人』の構想段階だった頃の作品である。 本作は古代及び中世から伝わる神話から着想を得ており、オ

フリードリヒ・フーケ、アーサー・ラッカム『ウンディーネ』1909年初版

フリードリヒ・フーケ『ウンディーネ』アーサー・ラッカム版1909年初版の全15枚の挿絵を撮影したので公開していく。その他、モノクロイラスト一部掲載した。 本作は1811年にフリードリヒ・フーケが出版した小説。水の精霊ウンディーネと騎士フルトブラントの恋、そして、その悲劇的な恋の結末を描いたファンタジーである。 旅の途中、騎士フルトブラントは老父と出会い、彼に一晩泊めて欲しいと願い出る。フルトブラントは、老夫婦の家にいた養子の少女ウンディーネに魅せられる。翌日、洪水でフルト

J・Mバリー、アーサー・ラッカム『ケンジントン公園のピーターパン』1906年初版

J・M・バリー『ケンジントン公園のピーターパン』アーサー・ラッカム版の1906年初版の全挿絵を撮影したので公開する。本作は挿絵画家ラッカムが注目を浴びるきかっけとなった代表作である。当時の子どもたちのクリスマス用プレゼントブックとして飛ぶように売れた。挿絵は全50枚で、物語の間に挿入されるのではなく、巻末にまとめた形で挿入されている。そのため、巻頭に挿絵リストが用意されている。挿絵の多さには、ラッカムの筆の早さが窺える。これだけ細密な挿絵を数多く用意するのは至難の技である。

『死神と蝋燭』フランス・ブルターニュ地方民話

あるところに、息子の名付け親を探している貧しい男がいた。彼は歩き、名付け親に相応しい人物を探した。 「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」 「あなたは誰だ」 「神だ」 「なら、あなたには任せられない。戦争も貧困もなくならないのは、あなたのせいだ」 貧しい男はその場を去り、息子の名付け親を再び探した。 「名付け親を探している?なら、私こそ相応しい」 「あなたは誰だ」 「私はペテロだ」 「なら、あなたには任せられない。キリストの一番弟子ペテロよ、キリスト

アンティークフォトへの誘い | アルマンド・ノワイエの世界

今回は、『アンティークフォトへの誘い(いざない)| アルマンド・ノワイエの世界』と称し、2枚のアンティークフォトを紹介する。100年以上前に撮影されたフランスのポストカードである。写真が登場してから、人々はその魅力の虜になり続けてきた。そして、旧来の絵画と同じく、人が写真に求めるものは「美」だった。今回紹介する写真も、パリの美女を写したものである。人はいつの時代も美をこよなく愛す。当時のフランスで愛された女性たちの姿を観ていこう。 20世紀初頭のフランス共和国で、Arman

趣味の時間 | ハリー・ポッターとラテン語の世界

はじめに ハリー・ポッターシリーズの呪文は、その多くがラテン語で構成されている。かつて英国がローマ帝国の一部であり、ラテン語の影響を多いに受け、それらを取り込んできたことによるものだろう。今回の記事では、作品に登場するラテン語由来の呪文を紹介して行く。 expecto patronum エクスペクトー パトローナム 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で初登場する防衛呪文のひとつである。Expectoはラテン語で「待ち望む」の意で、Patronumはラテン語で「庇護者」を

ルイス・キャロル 『不思議の国のアリス』 | ゴールデン・アフターヌーンの始まりと終わり

今回は表題の通り、英国の作家ルイス・キャロルによって書かれた『不思議の国のアリス』について紹介していく。先日、しばらく前に発注した『不思議の国のアリス / 鏡の国のアリス』がロンドンから届いた。船便だったため、数ヶ月経てようやくのご対面である。2冊共に収録内容は『不思議の国のアリス / 鏡の国のアリス』の2作品だが、左側はモノクロ版挿絵、右側がカラー版挿絵という仕様になっている。 本書は邦訳ではなく、オリジナルの英文版となる。原題は「Alice's Adventures i

アンティークブックの世界 | ヒース・ロビンソンが手掛けた『十二夜』

今回は、20世紀英国の挿絵画家ヒース・ロビンソンが手掛けた『十二夜』を紹介する。本作はシェイクスピアによる劇作品で、最初の上演は1602年2月2日と記録されている。イリリアと呼ばれる海岸沿いの都市で繰り広げられる、4人の男女の恋を描いたラブストーリーである。それでは早速、ヒース・ロビンソンの挿絵の世界を観ていこう。画像はクリックすると、拡大して閲覧できるようになっている。限りなく現品の繊細さと色味を再現するため、キャリブレーションと画像処理ソフトを用いたレタッチを行なった。

アンティークブックの世界 | アーサー・ラッカムが手掛けた 『ニーベルングの指環』 仏語特装版

リヒャルト・ワーグナーによる『ニーベルングの指環』は、全てのファンタジーの原点とも言える壮大な冒険物語である。この全4章から成る物語にアーサー・ラッカムの挿絵が添えられ、上下巻に分けて出版された。上巻は1910年、下巻は1911年に出版され、同時にフランス語への翻訳版も出された。 アーサー・ラッカムは、英国の挿絵黄金期を代表する挿絵画家の一人である。ウォルター・クレインらから始まったこの黄金期は、1914年の第一次世界大戦まで続く。裁判所に務める父の下、三男としてロンドンで