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中国で中医学をまなぶ。

今年、新しく学んだことの中に、中医学もありました。

中国に来てから、鍼やお灸の治療を受けてみたりと、興味を惹かれるままに色々トライはしてみたものの、その効果というのは半信半疑で。なんだかよく分からないまま、自然と足が遠のいてしまってました。
そんななか、体験版として3日間の特別講座が開催されると知り、良い機会なので参加してきました!
今日は、その体験について書いていきたいと思います。


講座の概要

講師はニューヨーク出身、上海で開業して15年以上になる米国人の先生でした。
中国の大都市では外国人は薬草を直接買えなかったり、政治的にも色々制限があって事業を行う上での苦労がかなりあるようですが、「ニューヨークとどっちが良い?」の質問には、絶対上海!と答えちゃうような、愉快な先生でした。

授業日程は下記の通り。

1日目:中医学の歴史と理論
2日目:中医の診断ポイント・鍼治療
3日目:生薬(ハーブ)・薬膳

本当に短期のダイジェスト版なので、これを学んだからといって、「中医学のこと知ってます」なんて口が裂けても言えないですね。ただ、私なりの学びのサマリーを書いていこうと思います。


ポイント①:患者本人が必要とする以上の治療は行わない

中医の診断は、基本的に医師の五感を使って下記の4項目から行うもの。

1. 問診票(熱の有無、睡眠、精神状態等)
2. 呼吸の音や匂いに異常性がないかの確認
3. 舌の色の観察
4. 脈

これらから問題を特定し解決策を探るもの。西洋医学のように検査をして客観的証拠を探しにいくことはしないのが中医学。患者が何を訴えているのか、申告内容がベースになって診断されるそうです。

そして患者が必要としない治療は行わないのが前提。
例えばある病が見つかった際に、西洋医学では、本人が望んでいるかに関わらず、検査結果に基づいて薬を処方し、場合によっては入院させる。これは症状に対する対処法ではあるけれど、根本的な原因に対処していないこともありうるので、対処法に対処法を重ね、治療により患者が病んでいく可能性もあるかもしれない(日々西洋医学に助けられている身としては、あまり言いたくないが)。
一方で、中医学では、対処的に病を治すということだけでなく、個人の体質を見定めて体質改善や病気の予防などを理論的に行なっていく。短期的に結果が求められる治療には向かないが、長期的に個人に合うとされる治療を続けていくのが特徴。また、たとえ問題を特定したとしても、本人が望まないなら処置はしない。それが前提にあるそうです。


ポイント②:人のからだは「気・血・水」で構成される

中医学の大前提として、人のからだの構成要素は「気・血・水」であると考えます。

「気」とは、この宇宙を構成している一単位のようなもので、どこにでもありふれた存在。分子のような存在だが、目には見えないもの。そして、生きる為に必要なエネルギーでもあるこの「気」は、体内で流れが滞ると「痛み」や「不快感」を引き起こしたり、不足すると体が疲れやすくなったりします。「気」を体内で運ぶ役割を担うのが「血(血液)」。「血」も不足すると、栄養不足になったり、様々な不調を引き起こします。

"Qi is the Commander of Blood, Blood is the Mother of Qi. "
気は血(けつ)の流れを司る指揮官であり、血は気を養う母なる存在。

双方にとってなくてはならない、陰と陽の関係にある「気と血」

「水」は、血液以外の液体を指します(例:唾液、尿、汗、涙など)。からだを潤す重要な役割を担っています。
この3つのバランスが崩れると、様々な不調が引き起こされると考えられています。

またもう一つ、「人の三宝」といわれているのが「精・気・神」です。これらも人のからだを作る大切な三要素と言われます。

精(Jing)…先天的/後天的に獲得する、生命活動維持に必要な最も基本的な物質(生殖機能含む)。腎(腎臓)に蓄えられる。
気(Qi)…上述の通り、生きる為に必要なエネルギー。
神(Shen)…魂レベルで個々人の違いをもたらすもの(精神状態や意識など)。

これらのバランスを良くし、不調を解消していく為の解決策として、針治療やハーブ治療、薬膳などがあると理解しています。


ポイント③:大事な理論は「陰陽五行説」

「万物には陰と陽がある」という「陰陽二元論」は、中国哲学の思想であり、中医学のベースにもある考え方です。具体的には、何が陰で、何が陽、などとは決まっておらず、場面場面で相対的に決まるもの。(例:太陽と月、熱と冷、昼と夜、男と女…)

そして、人間は自然界の一部である、という考えのもと、自然界に存在する5つの物質を用いて相互依存のモデル化をしたのが「五行説」です。

https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/about_kampo/?p=11401

例えば、体内の「木」の要素を活発にしたい場合は、「水」の要素を取り入れる。「木」の要素を少し和らげたい場合には、「金」の要素を取り入れる。そんな風にそれぞれの要素が相互に影響し合っており、中医の診断でも注意深く診ていくポイントになります。
(自然界の要素が我々人間の体内にもあるという考え方は、インドのアーユルヴェーダにも近い気がします。)

では、具体的に何がどの要素に当たるのかは、下記になります。

https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/about_kampo/?p=11760

沢山あるのでポイントだけ。例えば体内の臓器について、日本語では、五臓六腑と呼ばれています。今日の解剖学でいわれる臓器とは必ずしも一致しないものですが、五臓と六腑は陰陽の関係にあり、一方が弱くなるともう一方も弱くなる、といった相互関係にあるようです。

「水」の要素にあたる「腎」は、中医においてとても重要と学びました。生命活動に必要な「精」を蓄える場所であり、血液の采配を決めるところでもある。その采配に基づき、「脾(すい臓)」で血液の流れを管理し、「心(心臓)」が動き、「肺」が酸素を取り込み「気」の流れをコントロールする(呼吸・水の流れを整える上でも重要)。身体は繋がっているんですね。
また、なかでも馴染みのない臓器「三焦さんしょう」は、火の要素に分類され、気と水の通り道とされます。この通り道は体内に3つ(胴体を上中下に3分割)あります。体内の水分量の調節や熱の分散を主に行う場所です。
(その他の臓器は割愛します🙏)

最下段にあるように、感情も面白いことに5要素に分かれます。(「怒り→木」「喜び→火」「心配・考え過ぎ→土」「悲しみ→金」「恐れ→水」)
例えば、心配性で落ち着かない場合には、土の五臓である「(すい臓)」にも問題がないか、と確認する一つの指標になります。食べ物がうまく消化されているか?体重変動はないか?喜びの感情に関しても、安定したレベルであるか?アンバランスなほど興奮を感じてはいないか?(ドラッグを用いた場合など含む)、必要に応じて心臓にも着目していきます。


ポイント④:鍼治療はある程度パターン化される

何となくキツネに包まれたような、慣れていないとそんな感覚を覚えるのが鍼治療かもしれません。実際に中国の歴史上、患者が理解していないのをいいことに、理論を無視して鍼を刺し、ぼろ儲けしていた中医の医者もいたそうで、厳しく取り締まられた時代もあったそうです。
私自身、「なぜこの症状でここに鍼を指すのかな?」とこれまで不思議で仕方なかったのですが、Channel Theoryにより、理論化されている事がわかりました。

学んだのは経路治療(Jing Luo Meridian System)。「気・血」が通る経路はクモの巣のように体内に張り巡らされていると考えられており、からだの不調を感じる部分と繋がる経穴(Acupoint)を刺激し、「気・血」の流れを誘発していきます。体内には少なくとも360個以上のツボがあると言われています。
不調はどの臓器と関係ありそうか、経路は陰・陽どちらか(「気」は経路によってどの方向へ流れるか決まっており、鍼で刺激する順番も決まっている)、など見分けながら治療を確定します。
(細かな経路やツボは割愛します🙏)

今回は下記のバリエーションを習いました。

・Stress & Pain Relief
・Women's Health
・Digestive Health
・Allergy Relief
・Liver Detox
・Strength and Flexibility
・Weight Loss
・Baby & Mommy
・Colds and Flu
・Facial Rejuvenation (Beauty)

各症状に対してどのツボを刺激するのか、ある程度決まっているみたいですね。何も鍼が無くても、押したりつまんだり(色々なテクニックあり)、日常的に自分でも試せるものと知りました。また、身体の中心に近いツボよりも、先端の方(Distal)がより効果的のようで、つまりは手や足に鍼を刺した方がパワフルだそうです。(「気」のエネルギーは体の内側よりも体の表層部の方がより強くなる傾向にあるそうで、皮膚や手足に鍼をするのは理にかなっているとの考えから)


ポイント⑤:理解するのに一生かかりそう、ハーブ治療と薬膳

中国最古といわれるハーブ治療に関する記述は紀元前2,800年のもの。神农(Shen nong) という人物(実在したか不明)による「神本草と考えられているそう。365種の植物の根、葉、木、動物の毛や石などが記述されている。

その後、有名になるのは、後漢時代(196-220年)の医師・張仲景(Zhang Zhong Jing)による「傷寒論」。風邪に対するハーブ治療法と陰陽論を統合したもので、中医学の大事な古典の位置付け。そして、明代(1578年)の李時珍(Li Shizhen)による「本草網目」は、薬物療法を体系的に記した書物として現在も使われている。

基本的に副作用はゼロと考えられているハーブ治療。それ自体が単体のハーブのものと、複数のハーブを混ぜ合わせるもの、授業では実際に色々試飲をしながらどんな効能が期待されるのか説明を受けましたが、種類が沢山あるのでこれを覚えていくのは大変だ、と思いました。日本の漢方とはまた違うみたいなんですよね(日本の漢方は、中国を起源とするも日本で独自に発展)。

簡単なポイントとしては3つ。

①それぞれのハーブ薬は、効果を発揮する温度が1つ、決まっていること。
②味によって機能する五臓六腑が変わってくる。2つの味が混在するのが一般的。(「しょっぱい→水」、「酸っぱい→木」、「苦い→火」、「甘い→土」、「辛い→金」)
③治療のポイントは「気」をどこへ動かしたいか。全6種類あり、一つの治療薬に対し複数(2-3ほど)あるのが一般的。(上から下へ(drying)、気が欠乏しているので強化(tonifying)、場所を動かす(transforming)、乾かす(drying)、そこに留める(astringing)、下から排出(purging))

上記は薬膳でも同じく大切で、更にどのように調理するかで、食べ物の陰陽が決まってくるとあります。日々、陰陽どちらかに偏った食事を摂るのではなく、バランス良く食べていくことが重要、というのがメッセージになります。

・オーブンで焼く…陽
・揚げる、炙る…陽
・蒸す…ニュートラル
・BBQ…陽
・水で茹でる…陽を減らす
・冷たい料理…ニュートラル
・塩味…陰   など

食材もそれぞれ「気」に対してどのような効能があるか決まっているようなのですが、種類が豊富でとても覚えられなかったので、またいつかきちんと学んでみたいです。


終わりに

古代ギリシャの医者、ヒポクラテスのこんな言葉があります。

“Without following a proper diet, the patient cancels out the doctors work. let thy food be thy medicine… —Hippocrates ”

患者がきちんとした食生活を続けなければ、どんな医療も意味がない。と言った意味です。

中医学は、私にとっては新しい存在で、その正体をもっと知りたいと思う一方で、まだ半信半疑な部分もあります。日本の友人や家族と話していても、なんとなく「胡散臭い」みたいな反応をされることもあって、もう少し、自分の言葉で経験として語れるくらいには理解出来たらいいなあ、と思っています。

最後に、授業の合間合間で、このQigong Exercise をして休憩しました。よくある準備体操では?と思いましたが、こういうシンプルな動きも「気」を流す動作、しいては気功に繋がってくるのかな。各国それぞれ似たようなものはあるけど、呼び名が違うだけなのかな、と思いました。興味がある方はぜひ。



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