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中国本土でも公開されたので、観に行ってきた。

オッペンハイマー。「原爆の父」と呼ばれたユダヤ系物理学者の半生を描いた映画。(写真は公式サイトより)

中国でも8月30日より公開となり、気になっていたので観に行ってきた。
いずれ日本でも公開されるのかもしれないが、まだ公開が決まらないという事実に、かえって「そんなにcontroversial な映画なのかしら? 」と興味が湧いたためである…。単純なわたし。


中国のアプリ“美团”にて。評価9.5/10 とやたら高い。
近所の映画館の一部。上映頻度も、やたら高くないか?


英語音声&中国語字幕、ということで、理解度8割は行けたかな?登場人物多く、途中でこんがらがったので、日本語でもう一度細部を確認したいという思いはあるが。迫力ある映画だったので、今のうちに雑感を書いておきたい。
※あくまで個人的見解ということで、ご容赦頂きたい。



①広島に思い入れのある私でも、淡々と見ていられた

まず、全体を通して見ていて、(日本人であるが故に)観るのがつらい、などという風には正直思わなかった(無論、個人差あるかもしれない)。
むしろよくここまで掘り下げて映画化できたな、というのが率直な感想だった。

戦争もの映画なので、確かに日本を標的にするときの議論の場面は出てくるし、原子爆弾の開発成功&戦争終結に歓喜するアメリカ国民も描かれる。でも戦禍にあるので、この辺はまあそうだよな、という感じ。

それよりは、1)原爆が日本の広島・長崎に落とされたことを映画を通して再認識させている、2)核軍縮への願いといったメッセージ性を感じる、今の若い世代(特に海外の)は、この事実を知らないかもしれないので、そういった意味で教訓的な側面も担える作品と思った。


②想像以上のどろどろ人間劇。決して他人事ではない


開発の過程もそうだが、それ以上に投下後の世論、そして転落していくオッペンハイマーも見どころ。ここが映画で特に強調したい部分なんだろうなと感じた。何せ、戦争終結後のどろどろ人間劇に割く時間が長い。そして、英語で鑑賞する難易度が高いと思ったのもこの点である。

そもそも原爆開発を開始したのはナチスドイツ。ヒトラーに負けるな、の一心で科学競争に国を挙げて乗り出すアメリカ。その開発費用は200億ドルといわれる。映画を見ていなくてもこの辺の前提知識がある方は多いだろう。しかし、ドイツが先に降伏、そこで開発は止まることなく、まだ戦時中にあった日本にターゲットが移される。細かなことは書かないが、良識ある人も皆、戦争の大きな渦に巻き込まれ流されて行くさまは、決して他人事ではないように思えた。組織人であれば誰にでも身近に起こりうる、長いものに巻かれていく感覚。オッペンハイマーも、政治や軍の意向、そして時代に飲み込まれた、ただ一人の科学者に過ぎないようにも見えた。

もう一点、作中に出てくるアインシュタイン、そしてオッペンハイマーは、共にユダヤ系移民であるという事実。これは私の見解に過ぎないが、民族虐殺を実行するナチスドイツに対する感情は相当なものがあったのではないか。この2人の物理学者の立ち位置は違うのでそこも見どころだが、出自ゆえの思いもこの原爆開発に乗せられていたかもしれない。そう想像してみては、様々な観点からこの物語を見ていく必要性を感じた。
(とはいえ、他の兵器と同じように核兵器が使われたという事実はやはり罪深い。踏み込むべきでない領域に入ってしまった。その緊迫感は映画からも伝わってくる。)

もっと色々書きたいがネタバレになるので…。その後のロシアとの冷戦や米国国内の赤狩りなど、当時の米国内外の情勢を理解している方が、より話の流れについて行きやすいと思う。


③原爆の被害を見せないという一貫性

鑑賞前に、インタビュー記事などを見て知った、「投下後の被害を見せるシーンは出てこない」という議論。

なので本当にゼロなのかと思ったが、オッペンハイマー視点で、投下後の日本の惨状、そして科学の成功の裏で多大な犠牲者を出したという科学者本人の呵責はものすごく伝わってくる。映像で見せるのではなく、想像させる。意図してそうさせている点が、おぞましさを掻き立ててもいて、そこまで違和感は感じなかった。

被害を見せないという点ではもう一つ。米国のロスアラモス研究所で、大規模な原爆実験の場面が出てくるが、そこでのその後の被害状況も全く描かれない。多少なりとも原爆の知識がある人は、あれ?と思うはず。調べて見たら、米国内でも、この実験で被爆して苦しむ多くの市民がいる事実を知った。

今回の映画でいずれの被害状況も映し出していないのは、さまざまな議論があることも認識しているが、今回の構成はそれはそれで示唆に富んだ内容となっており、個人的には受け入れられた。


中国国内での反応

とはいっても、中国語に不自由な私なので、口コミを読んだ雑感だけ。
※中国のアプリ上の口コミはかなり信憑性が高いと感じている。ダメなものには容赦なく低評価がつくし、レストランも商品も、高評価を試してみてハズレと思った試しは今のところない。

公開してまだ1週間程度だが、冒頭にも記載のとおり、9.5/10とかなり評価の高い映画になっている。人気があればわかりやすく上映回数も増えるのがこちらの映画館。こんなに1日に何回も上映している作品も、珍しい気が…(少なくとも私は初めて見た)。

コメントを見ていると、「震撼心灵的体验(心を震わす体験) 」のハッシュタグ、原爆投下時はおぞましさに震えた、オッペンハイマーの葛藤の描写が深い、見る人を深く考えさせる映画だ、映像の迫力と俳優陣の演技力がものすごい作品…、かなりポジティブなコメントが多かった。
日本に関するネガティブなコメントはそれほどなかったので少しホッとした。(ここのところ対日関係で少し盛り上がりを見せていたので…)



終わりに


今世界中で大きな話題となっている本作だからこそ、日本でもいずれはアクセス可能な作品となって欲しいな、と思った。実際に見て自分なりの感想を持つことが大切なので感じ方は人それぞれでOK、ただ、世界中の人が見ている素材を知っておくことには意味があるように思うのだ。

個人的には、オッペンハイマーという人物を今回初めて知ったので、多くの学びがあった。どこかで見るチャンスがある方には、ぜひお勧めしたい一作だ。


おまけ:映画「太陽の子」(2021)を観て、当時の日本でも原爆開発が行われていたことを知ったのですが、それについて池上彰さんが解説しているこの動画は分かりやすかったです。本記事と併せて載せておきたくなりました。



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