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GEMS COMPANY定期ONLINE LIVE vol.4 ~Acoustic~感想

始めに

 これは『GEMS COMPANY定期ONLINE LIVE vol.4 ~Acoustic~』の感想を綴ってみようと試験的にnoteを使ってみたものです。

昔話から

 三年半ぶりの「おうたのじかん」なので、記録として簡単に初演の思い出を残す。

 2019年12月に行われた「おうたのじかん」。それはGEMS COMPANYが曲を揃え、二回のライブを経験し、ファンもコールとペンラ振りを仕上げた怒涛の一年のラストに行われたアコースティックライブ。メンバーも当時12人から3人に絞られ、アコギ&ピアノの生演奏という、正直かなりコアファン向けな内容だった。併せてクリスマスライブの一週間後開催という、ファンも演者も濃密な年末の最後のステージが、今は無い横浜のDMMVRシアターでリアルライブとして行われた。
 ここで水科葵さんと音羽雫さんという当時から歌唱力のあった二人と、様々な事情により急遽三人目に抜擢された長谷みことさんが素晴らしいステージを披露した。
 透過スクリーン越しの両脇に伴奏者二名が控え、中央にて演者三名が代わる代わる立ち居を繰り返し、トークと歌唱がシームレスに行われる本当にディナーショーのようなライブだった。昼夜二回のライブでセトリが全曲違うという大ボリューム。( #おうたのじかん でツイッター検索すると当時の感想があふれている)
 特に記憶に鮮烈なのは長谷みことさんの『帝国少女』。急遽の参戦だった為、ほぼトリオでの参加だった彼女がソロで僅かに二曲歌った内の一曲。当時築いてきた彼女のイメージと全く違う楽曲が1番サビの終わりを迎えた時、会場がザワついたのをとても覚えている。
 逃げも隠れもできない生演奏で堂々たる生歌唱を披露し、素晴らしいステージを魅せつけるも、このライブは配信されず、動画にも円盤にも残らなかった。「おうたのじかん」は伝説のライブとして長く語り継がれ、年末を迎える度に古参ファンは再演を熱望した。

 そして来る2023年5月28日、当時のメンバーと一部楽曲を引き継ぎ、打って変わって初夏に行われた。
 直前の配信でも「とにかく成長を見てほしい。全く違う物になっている」と、ファンが期待するクオリティを約束した三人が一か月余りを全力で取り組んだ『GEMS COMPANY定期ONLINE LIVE vol.4 ~Acoustic~』
 その感想をここに綴る。

 なお普段ならメンバーごとのニックネームで記載するところ、今回は敬意を込めてフルネームないし名前での表記に統一する。

ライブ感想

①ソロメドレー

 ソロ曲メドレーという、一つの見せ場を惜しげもなく無料パートの最初に持ってきてくれたのが本当に嬉しい。この素晴らしい演目が残り続ける。
 メンバー個々に関連した歌詞だからこそ物語があって、ミュージカルを見ているかのようだった。

 1.imperfectl ight
 ギターとピアノによる躍動感あふれる演奏で軽やかさと爽やかさに彩られ、原曲とまた違う響きに聞こえて、正直イントロで一瞬気付かなかった。
 雫さんの真っ直ぐ空へ伸びていく声にそってひた走る懸命な葵さんとしっとりと咲くみことさんの個性ある声が並ぶ響きは、変化した彩りにとても相性が良く、より多彩な輝きを持つ歌になった。雫さん一人の圧倒的な歌唱とはまた違う、優しさと情熱の青春の歌のような。それがまた良かった。
 だからこそ、ワンコーラスでキレよく終わったのが、最高に潔く綺麗。

2.少女聖戦パラドクス
 イントロが一瞬Nierぽくて、みことさんとの親和性の高さを感じた。
 スローテンポでじっくり聞かせる構成だが、一番スローに感じるBメロをみことさんがしっかりキープして歌い切ったのが本当に凄いと思った。
 ただ、今回の歌唱の素晴らしい所は何よりも歌割だと思う。各人に割り当てられた歌詞が当人達の持ち味に添っていて素晴らしい。物語を語る様に各人が歌を重ね続け、落ちサビで葵さんと雫さんから放たれた感情をみことさんが一気に神々しく引き上げて、最後は美しいトリオで華々しく終える。
 余りに完璧な構成に鳥肌と涙で止まらなかった。最後に楽器をカットしたのも最高の演出だったと思う。もはや讃美歌ではないか。

3.メロウ
 演者全員のディズニー観の集合を見たような気がした。
 少しナイーブなイメージがあるこの曲を、溢れる笑顔で歌える雫さんが一際輝いていて、それが楽曲の新しい彩りになったのが発見だった。原曲より水底に指す光に色がついたように思う。
 そして、この曲はサビのハモリの美しさが尋常じゃなかった。葵さんを中心にハモリを渡っていく構成が流石で、特にみことさんとのハモリのメロディが美しくハマリ過ぎて情緒がおかしくなった。最後にトリオでの響きも本当に綺麗で、ボリュームも揃えた丁寧な響きにため息が出た。
 一人で遠くまで歩いてきたという歌を、仲間と共に歌うエモさはちょっと強すぎる。みことさんが最後ページを開いてくれたのも良い。

②Rain Dancer

 ギターの軽快さが降りしきる雨になって、その中を懸命に歌い踊る葵さんが最高に映える。
 原曲は淡々と独特な味わいだが、葵さんは弾き語りで感情を積み上げ雨の中を力強く踊る自身の歌にしてきた。それがギターで更なる強さを与えられ、飛沫を上げるような歌に仕上がっていて本当にかっこいい。
 Aメロで淡々ときて、Bメロでスッと滲ませてくる弱さがその後の強さを引き立たせて、節の最後に歌い放つ蓮っ葉な感じが、自棄になって踊りながらも雨で涙を隠す女の意地を見ているようで。
 それにしても葵さんのしゃくりがカッコイイ。洗い流すように、のワイパーなダンスも素敵。ダンスは苦手かもだけど、意外と踊っていた方が歌がノるのかと最近は見ていて思う。それにしてもフェイクが良い。

③裸の心

 情念を込めるのが上手い葵さんと、感情を飛ばすのが上手い雫さんの、出だしからの空気の作り方、胸を突く歌唱が強過ぎる。
 内に籠る形の葵さんのナイーブな声を、雫さんがしっかり抱き留めて風に乗せていくのが、人間を現すようなデュエットで凄いなぁと感じ入る。なんか都会の一人っ子と、田舎の大自然娘みたいな。
 この歌特有の田舎臭さと素直さを雫さんが担って、不安や恐れを葵さんが担って、一人の女の子の色んな感情や在り方がそれによって形作られているのが良い。主線を交互にすることで、二人の個性が歌そのものの色合いに寄り添っていて、風景が浮かぶよう。

④人生は夢だらけ

 椎名林檎さんのカバーなんだけど、もはや音羽雫さんの伝家の宝刀。
 出だしから楽し気に柔らかく舞台の上で踊るような歌は、悲喜の全てを笑顔で受け止めて全部私の人生味わい尽くすのだという林檎さんの貪欲精神とシンクロして存分に歌い上げられている。サビ後半で大輪のスポットライトが当たるように高く広がる歌唱でステージは一気に歌劇になる。そして余韻をピアノが踊り明かす。
 一番でこれをやりきって、二番から更に楽し気に、最後まで盛り上がり続け、最後のロングトーンで舞台は回転しながら天上に至る。もはや羽が舞って鐘でも鳴るんじゃないかと思うぐらいに神々しい。
 でも、多分何より眩しいのは、歌唱後の雫さんの満面の笑顔なのだと思う。あれほど美しいものはない。

⑤残響残歌

 みことさんのド真剣な顔から、本人の緊張がこっちにまで伝わるようで。しかし、歌い出せば勢いもでて、しかし走らず、一つ一つ積み上げていく丁寧さな歌唱が本当に長谷みことさんの今の強さなのだろうなぁと思えた。そして、その勢いを揺ぎ無く引っ張ってくれる雫さんの自然体は本当に懐が深いと感心する。
 ロックなカッコよさはみことさんが一番上手く歌えるから残響残歌の『らしさ』をしっかり形作っていて、特に2番Aの勇ましさと艶やかさは本当に綺麗だった。ラスサビは堂々と主線を辿り、最後のハモリは強さも重なりも最高だった。雫さんの終始カッコイイ歌というのも意外と珍しく、深く艶づいた歌唱も本当に良かった。

⑥帝国少女

 前回同様に今回もザワついたんじゃないかと思う。
 「おうたのじかん」は確かに『少女』だった。可愛い声で歌われていたし、都会に堕ちる退廃的な香りも若さの輝きになっていたけど。
 もはや今回は『イイ女の回想』になってた。豊潤で艶やかで、強くしなやかな歌声はもはや歌詞内の男達を遠く過去にしている。『帝国少女』で少女に、『啼哭少女』は妙齢で、最後の『帝国少女』でまた少女に都度立ち戻る。そこに都市を流れた女性の心の軌跡が見えるようで、歌い分けが素晴らしかった。
 それにしても、この膨大な歌詞をスローテンポ維持してブレる事無く刻んでいくのは本当に難しかったんじゃないかと思う。何より息が続かない。個人的に、その所々で魅せる苦しさがこの歌の痛みみたいなものを表現していて、好きだった。

⑦ナイトシングス

 夜になるにつれて念が深まる葵さんと、暗闇に漂うみことさんのコントラストが見事に東京少女達の物憂げな夜だった。夜繋ぎのセトリが凄い。
 ピアノも良かった。深として凛とした音は遠くのネオンで、特徴的な和音の回し方も綺麗で、低音の深みが本当に夜の深さだった。
 落ちサビのハモリが余りに美しくて、動悸が止まらなかった。そして音が消えてから始まるラスサビの静かな走りから、徐々に情動のボルテージを上げて訴えていく歌声。最後の最後、英語のフレーズの一行でのハモリがまた寂しげでも美しくて良かった。
 長谷みことさんのハモリは声と相まって不思議な世界観が現れるから、ハマると強いと思った。

⑧私は最強

 この曲の歌い出しが雫さんというのが、手前のMCの流れからして最高の繋ぎだった。他人と向き合うことで歌へのアプローチが変わっていったと話す三人を象徴するような、誰かの為に歌うならば最強になれる歌。
 元々様々な歌い方で組み立てるAdoさんの歌唱を、全く違う個性の三人で歌う事でびっくりするほど曲と一体化して、それでいて贅沢な三人のハモりが随所に入れられていて、聞き応えが凄い。
 そしてやはりサビ最後の『最強』の、まさにこの瞬間三人は最強になっているんだなぁと感じられる、最高のハモリ。
 向かい合って呼吸を読み歌声を重ねる。その様子と併せて曲を聞くのが、こういうライブの本当に醍醐味だなぁと「おうたのじかん」で感じていた楽しさを思い出した。

⑨WINDING ROAD

 一番びっくりした。本当に綺麗なアカペラの出だしを決めて魅せた。
 三人が楽しそうに歌う姿が、前曲からの繋ぎとしても最高だった。
 聞いている間、緊張しているわけでもないのに息を呑んでいた。あやとりのように編み上げられた歌割とハモリで、見応えも聞き応えも無限にあって、それらがしっかりとサビのラストで最高に気持ち良い響きに着地する。
 これをジェムカンが出来るという驚きと感動。何より「おうたのじかん」からの積み重ねた成長の先でこのパフォーマンスを魅せてくれた喜び。
 毎回の最高を更新していくジェムカンの、また一つの到達点がここにあったと思う。本人達は未だ途上と思うかもしれないし、そう言う人もいるかもしれないけど、ファンの欲目とか以上に、本当にプロとして良いライブを魅せてくれたと、歌い終わりにずっとリアルで万感の拍手をしていた。

⑩ゴールデンスパイス

 本編最後として最高のエンディングテーマだったと思う。
 Aの歌割は本来の自分のもシャッフルして個々の解釈で歌いあげて、Bはハモリを編んで重ねて、サビで三人で気持ち良く。ここに来るまで魅せてきた全てを、一番耳馴染の良い曲で集大成してくれるセトリが最高過ぎる。
 ギターの刻み方がかっこよかった。サビ後のまとめ方もシビれた。ピアノも華やかな響きを加えてくれて、とても綺麗だった。
 全員曲に比べたら半分以下の人数で、確かに音圧こそ無いけれど、それ以上に工夫と楽しさと見応えを散りばめた、全く遜色のないゴールデンスパイス。さらっとやってるけど色んなすごい事をしていて、それを感じさせない練度が本当に素晴らしい。 

⑪icy sweet

 可愛い以上に、綺麗とか美しいとか、どこかノスタルジーを感じつつも、本当にしっとりと大人向けに仕上がっていたと思う。それこそ背景の画像にあるイルミネーションのような輝きにも似て。それでいてみことさんの歌声が原曲のかわいさと繋がっていた。
 全体的にウィスパー感を大事にした雰囲気で統一されていて、ハモリもまさに雪景色のような美しさになってた。少し神聖な感じが加わって、よりクリスマスソングの趣が強いものになったような気がする。特に葵さんと雫さんが中々聞かない声なので、貴重な回だったと思う。

⑫好きだ

 忘れもしない「おうたのじかん」昼の部、アンコールのラストソング。
 多くの経緯と価値が凝縮された思い出のカバー。それをまたここで聞けるとは思わなかった。
 軽快な楽器隊の調べにそって、満面の笑顔で歌う三人の声は本当に楽しそうだった。ただトリオでハモるだけじゃない、歌っていて楽しいのだと、今この瞬間が一番好きだと、その感情を歌に込めながら、綺麗なメロディとハーモニーのまま歌い切った。
 特にラスサビは圧巻だったと思う。それぞれが放つ大きな声は背景の木漏れ日のように様々な光を放ちながらも重なり煌めいて、木々を揺らす風となって歌詞のまま跳んで、虹のハーモニーを架けた。
『夢を追うための痛みは傷にならない』
 それを体現してここに立つ三人が改めて歌う輝きは、本当に鮮烈な感動をこの胸に残した。

最後に

 カメラについて。今回ロングトーンの時にゆっくりとアップを入れていく手法を使っていたけれど、最高なので今後もどうかお願いします。本当に見やすくストレスなく、ひたすら歌に浸れるエモーショナルなワークでした。

 全体の雑感として。MCや転換の中でメンバーの緊張が手に取る様に感じられた。普段そういう面をステージで見せないようにしてきた彼女達だからこそ、今回のステージがどれだけ練習しても足りないほどの高いハードルと強い理想と、何より込めたい想いの多さがあったのだろうと想像する。それは時に気後れしてしまう程だったと、端々のエピソードからも読み取れた。
 それでも、自分達が歌を通じて体験した感動や喜びを聞きに来てくれたオーディエンスと分かち合いたい。この胸に宿った熱を貴方にも灯したい。
 そう語る三人の言葉はシンガーがシンガー足り得る素敵な動機だと思った。そして、それが出来るようになったという自信をもって行われたライブを聞いて、胸に宿るものを私も感じた。

 とても、良いステージでした。
 本当にありがとうございました。

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