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スヴェン・ギー・エングラー

10月29日、僕は浦和を歩いていた。
西なんちゃらの公園で恋人との素晴らしいひとときを過ごしたのち、浦和駅で一人になった。
せっかくだから昔住んでいた浦和の街を散策してやろうと思ったのだ。
パルコへ行くと、もうフレッドペリーはなく、まだグリーンレーベルはあり、もうgrnはなく、縮小こそすれまだタワレコはあり、もうスミスはそこにはなく、まだスミスはそこにはあった。
拡張されたような気のするザラを通り裏口から外に出た。
住んでいた家へと歩くことにした。
多少は地図を見ながら歩いていると、店名からソフトボールチームの女の子を思い出していた寿司屋があり、舌打ちって練習しないとあんなに上手くならねえよなと思った緑色の歩道があった。
通っていない中学校の横を通り、何かで隠れているせいでちょうどチンコだなと思っていたパチンコ屋の看板が今はもうない横断歩道を渡った。
このまままっすぐ進むとたぶん時々行っていたウエルシアがあって、左へ曲がったりなんだりすると住んでいた家がある。
ウエルシアがなくなっていようといまいと、ガッチガチの接客をしてくれた、見ようによっては器用でも不器用でもあるたぶん男子高校生はもういないだろうなと思い、かつての家へ向かうことにした。
家には灯りが灯っていた。
門の前で鳥のフンを食らったことや飼い犬と合唱したこと、兄から「今までで一番良かった」と『サラバ!』を渡されたこと、弾き語りで歌詞を飛ばしていたら兄から「『傷つけ合う前に』だよ」と言われたことなどを思い出した。
道を変えて、駅へと引き返すことにした。
横目で軽音部なのに壁当てをしに行った運動場を見ながら歩いていると、この道は何度もシガーロスを聴きながら歩いていたこともまた思い出した。
軽く車に轢かれたことのある横断歩道を渡り、バイト終わりの深夜におにぎりを2つ買っていたファミリーマートを通り、まだまだ駅へ向かって歩くと、駅前のロータリーに着いた。いつか高校の同級生と遭遇したことを思い出した。
それから、あったりなかったりしたなと思った。
悲しいでも寂しいでもない、落ち着いた感情だった。
僕がいた頃の浦和はもうなく、僕が今いる浦和がただあるだけだなと思った。
今日も手を繋いでもいいですか?とは言えなかったし、もちろん流れや雰囲気でサッと手を握るなんてことはできるはずもなかった、もしかしたら情けないのかもしれない僕は、手が当たるだけで鼓動が大きくなることにやはり情けないなと思いながら、それでもそばにいるのがうれしくってニコニコしていた。
これは最近気づいたとても重要なことなのだけれど、ニコニコ、は良い。
あなたと久しぶりに会った日に一緒に見たのと同じ大道芸人を駅で見かけたよって、離れていても伝えられる文明に感謝をして、それから文明の苦手なあなたを思い出して、今日も眠ります。

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