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道理ある希望を持つ、新しい資本主義へ

新年どうぞよろしくお願いいたします。元旦の日本経済新聞のトップ記事が紹介した「フレキシキュリティー」という表現は初めて目にしましたが、確かに日本の新しい資本主義には重要な概念であると思いました。

岸田総理の「新しい資本主義実現会議」が注目している日本企業の賃金アップについて有識者メンバーに拝命した私は、労働市場の流動性を高めることが必須条件であり、昭和時代の成功体験である新卒一括採用・年功序列・終身雇用を打破する必要があるという意見を述べています。

これからの新しい時代の多くの若者たちは、一生同じ会社で勤めることが大前提としてません。少子化高齢化社会によって、会社が若者たちを選んでいた時代から、(特に企業が欲しい有能な)若者たちが会社を選ぶ時代になっています。

また、労働市場の流動性が高まるということは、社員が自分の労働価値の社内だけで形成することに待ったをかけることです。何十年も会社の中で価値あると思った社員が、定年退職を迎えたときに、人生100年のときに、労働市場において初めて自分の労働価値に気づかさせられるということは酷な話です。そのような状態を長年維持させている日本企業の大罪ではないでしょうか。

日本では「解雇」が社会的タブーになっているため、経営のフレキシビリティが乏しく、結果的に先進国基準では安い賃金で社員に我慢してもらって、最後に退職金をぶらさげるている企業が日本では少なくないでしょう。

労働市場の流動性を高める=職を失うこと(解雇)=不安という固定概念を打破するには、いつでもリセットして再挑戦できる社会的土台が大事になります。そのような観点から、確かに同紙が示している「フレキシキュリティー」という概念が不可欠であると思いました。

岸田総理が掲げていらっしゃる「成長から分配の好循環」の大事なキーワードは「好循環」です。「成長」から「分配」から更なる「成長」へつながる連鎖です。

その好循環のためには、確かに同紙が指摘する「競争」→「再挑戦」という接続が大事になります。また、今までの資本主義の課題を打破して、新しい資本主義を成立するには「共創」→「再挑戦」も必要になるでしょう。

日本の新しい資本主義の成長と分配に好循環は国内に閉じるべきではなく、日本から世界へ「分配」(投資)→「成長」→日本へ「再分配」というグローバルな視野の共創も忘れるべきではありません。

ただ、関連記事で、日本の衝撃的な課題も可視化されていました。

この記事では、「経済成長率」、「労働生産性」、「所得格差」などメトリクスで日本と世界の違いなど、以前から色々なところで指摘されている現状が一覧表として整理してあります。相変わらず日本に優位性があるのが「健康寿命」という分野です。

ところが、目を疑ったのは、健康寿命の一つ上の欄の「他者への信頼度」です。先進国平均が214.1で、スウェーデン(522.2)、フィンランド(490.2)、デンマーク(521.3)と上位を占めているところ、日本のメトリクスは-62.0。桁違いだけではなく、マイナス。。。唖然としました。

いくら長生きしても、他者を信頼することができない生活が豊か、ウェルビーングとは決して言えません。

去年の大河ドラマ「青天を衝け」が描いた渋沢栄一は、子供のときにお母さんのゑいから、しっかりと教わりました。

「あんたがうれしいだけじゃなくて、みんながうれしいのが一番なんだで」.

今の言葉で言えば、みんなのウェルビーングです。

名著『論語と算盤』の「合理的な経営」で実の栄一は考えを示しています。

「仮に一個人のみ大富豪になっても、社会の多数がために貧困に陥るような事業であったならば、どんなものであろうか。如何にその人が富を積んでも、その幸福は継続されないではないか。」

つまり、インクルージョンなき、みんなのウェルビーングは無いという現代的意義です。

ただ、栄一は「ただ王道あるのみ」で断言をしています。

「富の分配平均などとは思いも寄らぬ空想である。」

つまり、結果平等ではなく、どのような身分や立場であっても自分の可能性や才能をフルに活かせる機会平等のインクルージョンある社会を渋沢栄一は目指していました。だから、500の企業だけではなく、教育機関、病院、社会福祉施設など600の社会的事業の設立・運用に関与したのです。

結果平等を過度に求める社会は、他者へ信頼度が低い社会かもしれません。妬みがある社会です。そのような社会ではセキュリティー(安心)を感じることありません。

一方、セキュリティがある社会は、いつでも、何回でも再挑戦できる社会です。

栄一は「道理ある希望を持て」で提唱しました。

「ぜひ一つ守らなければならぬことは、前述べた商業道徳である。約すれば信の一字である。」

「他者への信頼度」が低い国を、このまま日本の次世代に残すべきではありません。

渋沢栄一が大河ドラマや新一万円札を通じて蘇ってきていることいは理由があると思います。我々現世日本人にリマインダーを示すためです。「キミたちは、大事な宿題を忘れていないか。」

日本が、他者へ、他国へ、そして自分たち自身の信頼度を高めることです。


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