詩作の凄み/サカナクション「新宝島」


サカナクションのニューシングル『新宝島』。

まずは映像について。曲もすごいがビデオもすごいよね。クリエイティブに関わる全員がブレない一点を見据えてる感がビシビシ伝わってくる。本当はダサいはずのレトロなフォントや色や演出を、一周回った先端にするセンス。曲が持っている矢印をちゃんと視覚的に表現している。

こうして日本を代表するバンドの一角を占めるようになった前から、彼らが見据えているのはずーっとアンダーグラウンドとオーバーグラウンドの境界線上にある”汽空域”で、だからこそ、この『新宝島』という曲は彼らにとってすごく大事なポイントになっていたはず。ここのところはイベント「NF」やパリコレへの参加などハイカルチャー側へのアクセスを多く見せていて、『グッドバイ/ユリイカ』や『さよならはエモーション/蓮の花』というシングルも、どちらかと言えば内奥のほうに深く掘り進む側の方向性を持ったもの。というタイミングで、『バクマン』のタイアップで、ちゃんと外に開けたエネルギーを持つ曲にする必要があったんだと思う。だからキーワードは「歌謡性」。メロディも口ずさめる吸引力を持ったものになっている。

で、山口一郎がとっても難儀したという歌詞。これは素晴らしいと思う。『MUSICA』のディスクレビューでも書いたんだけど、この曲のキモはサビで繰り返し歌われる〈丁寧に〉という言葉になある。

実際には〈丁寧に〉じゃなくて「ていね・ていね・ていねい・に」と歌われ、「エ」と「イ」の音韻が繰り返される。この「エ」と「イ」の往復運動がすごく特徴的だ。実際に歌ってみればわかるとおり「エ」も「イ」も口を大きく開く音じゃない。解放ではなく抑制。音の響きがそれを示唆する。他にも〈連れて行くよ〉〈決めていたよ〉〈揺れたり震えたりした線で〉と「エ」と「イ」の往復運動が様々な場所で繰り返される。

もう一つ「ウ」、というか「ツ」の音も印象的。「次と その次と その次と 線を引き続けた」という歌い出しの箇所では、「ツ」が繰り返されて言葉のリズムを作り出している。これもやっぱり抑制の音だ。

だからこそ〈宝島〉という「ア」の音を持つ一言がすごく解放感を持って響く。

ついでに言うと〈宝島〉という言葉はAメロで一回出てくるだけなんだけど、その言葉が持っている「タ」の音がサビでリフレインされて聴き手の印象に強く残る仕掛けになっている。それが〈揺れたり震えたりした線で〉の箇所。メロディの最高音が「タ」で、そこにちゃんとアクセントがある。それをさっき言った〈丁寧に〉の「エ」と「イ」がサンドイッチしている。

〈宝島〉が”解放”で〈丁寧に〉が”抑制”。その組み合わせでこの曲はできている。

(こういう分析は細馬宏通さんには敵わないところがあるんだけど)

”音の響き”と”言葉の意味”が収まるべきところにピタッと収まるまで試行錯誤を繰り返す山口一郎の詩作の凄みはどんどん高まっていると思う。


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柴 那典

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