雨のパレード「You」/ひとつの決意についての歌

雨のパレードの「You」が素晴らしい。

3月にメジャーデビューしたばかりの4人組。People in the boxなどを輩出した残響レコード所属ということもあって「いいバンドだなあ」とずっと思ってたけど、この曲が一つのブレイクスルーになった感がある。海外のアートロックの潮流とちゃんと同時代性を持った表現をしているバンドなんだけど、そういうセンスとかサウンドだけじゃなくて、研ぎ澄まされたメロディで、伝えるべき言葉を歌うバンドになった気がする。腰が据わった感じがする。

歌詞を引用する。

抱えてた闇におそわれて
まるで自分じゃないみたいに
あなたのことを傷つけたことも
今でもまだおぼえている
理解できない状態で
おかしくなっていたみたいだ
本当に大切にすべきものは
今ならもう答えられる

ねえ
それはあなたのことって
やっと気づけたんだ
だから ねえ
闇の向こう側へ今度は
きっと僕が連れていけるはずだ


ほとんどメタファを使わず、ストレートな言葉遣いで書かれている。この歌の主人公「僕」はかつて心に病を抱えてしまったことがあって、そのときに、傷つけられながらも寄り添って傍にいてくれたのが「あなた」だった。そして今は同じように闇=病みを抱えた「あなた」のもとに、今度は「僕」が訪れる。

そういうストーリーが、そして「僕」がそこで決意する一つの思いが歌われている。思い当たることのある人はきっといると思う。僕はあるよ。

この曲に関して、ソングライターの福永浩平は「辛い状況にある人を救える曲を書きたいとずっと思ってました」というコメントをしている。いくつかのインタビューでは、キリンジ「Drifter」と玉置浩二「田園」がその参照元にあったことを語っている。

http://realsound.jp/2016/07/post-8423.html
http://www.cinra.net/interview/201607-amenoparade
http://natalie.mu/music/pp/amenoparade02

キリンジ「Drifter」は、こんな歌詞を歌う曲だ。

たとえ鬱が夜更けに目覚めて
獣のように襲いかかろうとも
祈りをカラスが引き裂いて
流れ弾の雨が降り注ごうとも
この街の空の下
あなたがいるかぎり僕は逃げない

「田園」ではこんな歌詞が歌われる。

生きてゆくんだ それでいいんだ
ビルに飲まれて 街に弾かれて
それでも その手を離さないで
僕がいるんだ みんないるんだ
愛はここにある 君はどこへもいけない

この二つの曲に共通するのは、それが一つの決意を歌った曲である、ということ。「誓い」と言ってもいい。「あなたがいるかぎり僕は逃げない」という言葉や、「それでもその手を離さない」という言葉が、その象徴になっている。そして「You」ではラストの行で「見えない明日に急かされる今日も あなたとなら超えていける」と歌う。

ラブソングにはいろんな形のものがあるけれど、とても長い時間の射程を持った、そして心の深いところまで踏み込んだ愛の形を歌った曲であるとも思う。

個人的なことを言うと、僕はキリンジの「Drifter」という曲と、GREAT3の「綱渡り」という曲にはだいぶ支えられてきた実感があって。同じテーマを扱った曲としては、堀込高樹、片寄明人という傑出したリリシストが書いたここ10年〜20年の日本のポップミュージックの中でも稀有な筆の冴えを持つこの2曲と比べると、正直、「YOU」に関しては、もうちょっと踏み込めたんじゃないかという気もする。もっともっと言葉を研ぎ澄まして、的確な隠喩で半径の大きな物語を描けるんじゃないかとも思う。

が、エレクトロハウスやエレクトロR&Bあたり、ジャック・ガラットやLåpsleyにアンテナを張っているようなタイプのアーティストがこういう曲を歌うのはすごくいいことだと思う。先鋭的なサウンドを鳴らすバンドであればあるほど、大事なのはサウンドそのものじゃなくて「何を歌うか、何を届けるか」だと思っているので。そういう思いを持ったソングライターによってそこに通じる曲が届いたことには、とても嬉しい気持ちがある。

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