見出し画像

【小説】山の中(第3話)

囲炉裏の火が点いても部屋は冷えており寒かったです。囲炉裏端に座り、火に近づくと「ああ、あたたかい」と、生きた心地がしました。年配の男性が労わりの言葉をかけてくれました。

「おまえさん、大変だったな。どっから来たガダ?」
「はあ、僕は川中市から来ました。」
「カワナカシ?なんだエ、聞いたことねえなあ。」
若い男性が「外国か?」と聞きました。
「えっ?ここから車で一時間半くらいの場所ですけど。」
「車?おまえ、車で来たガアか?」
「はい。ええと、一番広くなっている道に停めました。」
「何を言ってるガダ。車なんて、コッケな村まで来るわけがねえ。」
「えっ?あなたは、この村の人ですか?」
「当たり前だ。なんだ、頭をブッておかしくなったガじゃねえか。」
「あの、ここは小稲川村ですよね? 廃村になった。」

若い男性が「やっぱり頭がおかしくなってる。」と少し笑いながら口を挟みました。
「そうだ。小稲川村だドモ、ハイソンてなんだ?村が無くなるってことか?」
「はい、そうです。」
「今、あるッペな。何を言ってるガダ。」
「えっ。」

思わず息を飲んで黙り込みました。そして、恐る恐る「あのう。今って何年ですか。」と問うたのです。当然「令和五年」という返答があるべきだと思いましたが、ここが小稲川村であることが間違いなくて、そこの村民がいて、古い着物を着て古い家に暮らしているとなると、「令和五年」という返答は無いのではないかと予測しました。

年配の男性は、さも当然といった口調で答えました。
「昭和二十八年だコテ。」
私は混乱して目の前がクラクラしました。そして「あっ、これは夢なんだ。なんだかフワフワするもんな。寝て起きたら、夢が覚めるはずだ。」と思い込もうとしました。私が頭を抱え込んで床を見る姿勢でいると、年配の男性が心配そうに声をかけてきました。
「おい、どうした?大丈夫か?」
若い男性も心配そうに、私の顔を覗き込みました。
「顔色が真っ青だぞ。」
私は大きく息を吸って、立ち上がりました。
「もう一度、寝ます。」
そう言い残し、座敷へ戻って、また布団に入りました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?