シバゴー

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【小説】山の中(第3話)

囲炉裏の火が点いても部屋は冷えており寒かったです。囲炉裏端に座り、火に近づくと「ああ、あたたかい」と、生きた心地がしました。年配の男性が労わりの言葉をかけてくれました。 「おまえさん、大変だったな。どっから来たガダ?」 「はあ、僕は川中市から来ました。」 「カワナカシ?なんだエ、聞いたことねえなあ。」 若い男性が「外国か?」と聞きました。 「えっ?ここから車で一時間半くらいの場所ですけど。」 「車?おまえ、車で来たガアか?」 「はい。ええと、一番広くなっている道に停めました

    • 【小説】山の中(第2話)

      目が覚めると、見知らぬ部屋に敷かれた布団の中にいました。暗い座敷でした。掛け布団はズッシリと重いものの、温かでした。上半身だけ起き上がると、裸になっていました。下半身にも何もつけていなかったので、布団から出るに出られず、ここはどこだろうと不安になりながらも、そのまま布団に入っているしかありませんでした。 布団の中でじっとしていると、木の戸が少しだけ開いて、その向こうから、「あのう、まんま、食うかのう。」と女性の声がしました。すこし間をおいてから「はい。」と答えましたが、相手

      • 【小説】山の中(第1話)

        おうい、おうい。何度、叫んだでしょうか。おうい、誰か。助けて。いくら叫んでも4~5メートル頭上にある、雪の天井に空いた穴からは誰ものぞきません。 寒さで目が覚めた時、わずかに流れる水を感じました。「あっ、日陰の残雪に上がって落ちたんだった」と気付いて、ガバッと起き上がりましたが、見上げた穴からわずかに光が入るだけ、自分の周辺は、ひんやりとしていました。 祈るような気持ちでスマートフォンを手に当たる感触で探そうとしましたが、いくら経ってもそれらしき物が当たりません。たぶん雪

      【小説】山の中(第3話)