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八人目の敵 ⑨

 あれは確か私がずっと幼くて世の中がこんなにカード化する以前のことだ。母の故郷を訪ねたときに離れのおばあちゃま、(といっても祖母は別にいてもう少し若かったからあれは曽祖母に違いなかろうが、)と呼ばれる白髪の老女の部屋に大きな仏壇がありその引き出しに隠すようにしまわれていたお位牌があった。記憶はさだかではないが、それはおばあちゃまのお兄さんで「予備国民」なのだけど、人には決して話してはならないよと釘をさされた。その声音はむしろ誇らし気に思えた。不思議なのは待合室で会った老婆の見下す素振りと老人のとぼけた返答だ。あの世代ならばわかっているのではないだろうか。放送中のドラマとやらは配信されているはずだが私は視聴していない。あの記憶の通りであれば、予備国民か否かは生まれで決まるわけではなさそうだ。後天的な努力による獲得あるいは不運による転落で決まるらしかった。つまり人は予備国民に生まれるのでなく予備国民になるのだ。

409文字

#小説

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