shibakaoruko
フィクションです。
春の夢魔にでも襲われたのだろうか？ これは夢だ。どうか夢であってくれ。 「鳴らぬならメルカリに出せアルペジオ」 そんなあ、勘弁してくださいよお。 待て待て、 「鳴らぬなら弦を付けようアルペジオ」 これでどうじゃ？ それは少しマシだけど丁寧にやってくださいね。 三番目の持ち主は一番親切そうだった。 「鳴らぬなら練習しようアルペジオ」 うんうんそれだよ、頑張ってね。 だけど練習してくれる気配はなく、僕はずっと物置に放置されていた。何度目かの春がやってきて、ホトトギスがさえ
「敵は油断している。今ここで一気に攻め込んで目的を遂行しろ」 男は天空に聳える山の城に立て籠っていた。周囲を雪と雲が覆う。雪解けが国際間の緊張緩和の比喩とは寒冷地差別だ。 逞しい男だ。眉間には深く皺が刻まれているが若い頃は美青年だったと思われる。彼が竪琴を手に奏でようとしたとき、 ノックの音がした。扉の外には女がいた。昔はいい女だったかも知れない。いずれにしろ女に用はない押し売りにもだ。 あの時と同じですね、貴方は別の人を選んだ。彼女は亡くなったんでしょう。その上黄泉
初春の夢にギターを手に虚無僧が尺八と奏でる春の海、何あの琴も春のまた春、大型連休？まだ四か月も先の話だった。 ファミレスのグランドメニューは春の食材をふんだんに使ったものに変わっていた。春雨に春巻。でもぼくら獏だから。 イベリア半島の果てを旅してきた。思い出をギターで弾いてと？いくら下手だからってまるでトレモロに触るみたいに。 春のお弁当ご飯がギターの型抜きってオシャレでしょ。瓢箪型とは違うの見てギターケースを開けると白米に春の梅干。 春の有名観光地はどこも円安を楽し
春の夢の特大籤の話をして以来子どもの命が惜しかったら現金をよこせという電話がかかるようになった。あの嘘は君にしかついていないんだぜ。わかった、すぐに持って行くよ、どこにも通報なんかしていないから安心したまえ、君も大いに夢をみるがいい。ゆっくりと息を吐いて通話を終えたところでいつも目が覚めるのだった。 150文字 「見栄を張るの夢」より こちらに参加しています。
のおとが長続きしない理由はズボラで飽きっぽい性格のせいですが原因はノートの側にもあってすでにノートを使う立場ではないのですがコンビニや書店など分散した和音は品揃えが豊富とは言い難くて予告するノートしかなくそれで充分なのだけどお気に入りは某文房具店で出会ったノート、どこが良いかといえばリングが大き目でペンを差すのに便利で表紙がしっかりしていて罫線も濃すぎず間隔も私の好みだというだけ、でもこれを満たすノートはあまりなく次に行くと絶対品切れなのは私と趣味を同じくする人は確実にいて
名だたる学者を輩出したわが一族の末裔としてお勤めに出ることになりました。あまり気が進まなかったのですけど。旅日記をアップしたり夢物語をしたため発表したりと創作活動は続けておりました。すると早速小雨の夜に一人の公達が私たち女子に話しかけてくるではありませんか。昔春という季節がありました。秋とかいうものも。どちらが好ましいと思いますか。難問でした。春日はカスですね秋日和にはアキアキです。同僚に先を越されたので仕方なくギターを取り出して春がギターと歌いました。すると殿方も負けじと
「異人たち」見た。予習しなけりゃ良かった大林版。名取裕子の正体のシーンに何だこりゃとか家族の食べ終えた串を甲斐甲斐しく受け取る秋吉久美子や飲み干した空き缶をポイ捨てする永島敏行にモヤモヤくらいの感想しか浮かばなかったけど。どちらも昼から見てしまった。涼しげな昭和の夏浅草も変わらず
D.S.はじめからわかっていたのよこうなることはF. あの子に彼と引き合わされて危ういものを感じた。先の見えない生活バンドを組んで メジャーデビューを目指す彼、支えたいの二人でせまい部屋を借りるから保証人になって欲しいと頼まれた。キラキラ瞳をかがやかせ今にきっと返すからねと私のカードも持っていったD.S. つまびく音が溶けあって甘く響いた、彼の曲ではなかったけれど。キャアキャア騒ぐおばさんたちが彼にまとわりついては、お小遣いをくれるから食べていくには困らないのよ私の稼ぎも
ギターは春の季語かしら。 気まぐれに始めたお稽古すぐやめる。 テニスは春の季語かしら。 やめてもラケット捨てないで。 春は再びやってくる。 ギターは春の季語かしら。 公園のベンチ若者が自作の歌を弾き語る。 ニートは春の季語かしら。 あなたがトイレに行く間投げ銭見張ってあげましょか。 翌日あなた見かけたわテレビの歌謡番組で。 翌年追いまわされてたね。 ファンとカメラとパパラッチ。 ギターは春の季語かしら。 今度は留学海越えて。 見知らぬ人と子ども連れあなたの言葉が通じない。 迂
はるすぎたーことしのなつもあついのかしら ころもがえするげんきなし 何十年かぶりにギターケースを開くとそこにはぎっしりと敷き詰められた桜の花びらが。そして同様に干涸びた何かも。 春の夜な夜な誰かが爪弾いていたの、サクラサクラと。それは本当にギターだったのか他の楽器が擬態していたのでは？ お前か身分はそれほどだが神に愛された才の子どもに恵まれた宮廷歌人とは洋琴は大き過ぎるゆえ六弦琴を弾くのだな？ すギタお言葉これは琵琶でわが子の才は楽器より和歌と漢詩です。これ娘よワシは
「花吹雪だ！」僕の姿に気をとられた君たちは何かを忘れていたんだね。桜の大木の下でビニールシートを広げて缶入り飲料で四隅に重石をしてわいわいガヤガヤ楽しく盛り上がっていたけれど強風に煽られて僕の花弁が大量に流れに降って川なのか岸なのか見分けがつかなくなっているよ。今度は雨だ。みんな顔を僕と同じ桜色に染めてゲラゲラ笑っている。「いいことを思いついたぞ」君たちはビニールシートをレインコートがわりにしてゾロゾロと帰途についた。おいおい空き缶をそのままにしてはダメだよ。 それであな
花吹雪という舞台演出係がいた。クライマックスシーンで役者が没原稿やら別れの手紙札束犯行時に来ていたシャツ離婚や婚姻の届出用紙といった小道具を細かく引き裂いてぱあっと撒き散らす場面があるとする。もちろんキレイに素早く細かくするのは技術と体力がいるし、勿体無いと思う心も邪魔するしそれをちゃんと風に乗せるには何回もトレーニングが必要だ。子どもが真似をするとゴミが散らかる。花吹雪はそんなとき便利だった。あらかじめ細かく引き裂かれた紙片をくす玉のように炸裂させるのだ。観客は飛び散る花
自慢じゃないけど、うちにはレインコートのなる木があるの。近ごろの忽然と現れる雨雲だの叩きつけるように降り注ぐ雨にも四隅から屋敷森のごとくすっぽりと家を守ってくれるので安心よ。こんな日は一人でリビングでテレビをつけるの。画面はL字に青くなっているし、スマホはひっきりなしに喚いているわ。傘なんかじゃ役に立たない。特大のオーバーけ（「か」の意味よ、どこかの方言かもね）レインコートでないとね。レーダーを開くとわが家の上空がフード付きの蓑の形に濃く染まっているわ。コートというより雨雲
物忘れが激しい。今日は何曜日に始まり昨日のおかずは何、百から七を順に引いていくと？ 密かに予習をしておくか。お試しで注文した『思い出し過ぎたら御免なさい記憶を増強するナントカ錠』が届いとる、どれどれ一気に服用してみるか。おお頭の中に花冷えの季節がめぐる。あの街の記憶だ。ここは場末の歓楽街の小料理の二階だ桜色の冷たい肌の感触に息を吹きかけるとくすくすと忍び笑い、窓の外には花びらを濡らす小雨。階段をミシミシと誰かがあがってくる気配に急いで桜の枝づたいに逃げて肝も花冷えだ。こんな
告白したら彼は少し考えてそのレインコートの色はあまりいけてないねと言った。実は昔の彼女もそんな色を着ていたんだ。まさか元カノが別人のフリしてるとでも？ その人の味は覚えてないわ、あなたが自分で食べたんでしょ。エメラルドグリーンを新緑の色に紛らわせ先端の割れた舌で口の周りを舐めた。 140文字 たらはかに様のお題に参加しています。
おれらはオバケーションに向けたスポットワークサイトで見つけたシャドウの左端部分をならすスキマバイト要員だ。人通りの少ない時間帯に自転車レーンコーティング作業やってるんだがこれがなんともひどい。次から次へと現れるはずのない奴らがわいて出てくるんだよ。爆音を轟かせる兄さんたち、ヨチヨチ進む三輪車様、車椅子の御仁、スケボー先生、あとなんか立ち乗りの東京駅構内京葉線乗換通路とかでよく見かけるやつ。馬。犬。戦車。保育園児を大勢載せた柵のあるカート。インドで地下鉄降りたあとこれがないと
