つまりこの模造カードの持ち主が現れて所有権を主張するおそれはないということだわ？
これと言う目的もなくカードの顔写真の画像を少し加工してみる。髪をのばす。頬に肉を足す。眉を削る。着色する。やっぱり無理か。例えば自分が男装をしてこの写真を女性化して両者を接近させ似させて最終的に同一人物であるかのように見せるのは難しそうだった。男性が女装して自分の母親や祖母に似せることができたという話をどこかできいたことがあるが、アカの他人が異性に扮装するのは技術を要するし演技力も求められる。むろん本気で別人になりすますつもりなど全くなかった。ただ或る住所氏名生年月日顔というアイデンティティを自分のポケットにひそませていただけだ。
　スマホではないカメラで撮っていくらか修正を施した顔写真を見ているうちに奇妙なことに気づいた。この顔、何処かで見たことがあると思ったら。そこにあるのはあの喫茶店にいた女の顔ではないか。

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