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八人目の敵 ①

 改札を通過しようとコートのポケットを探った。あれ。ない。そこにあるはずの固くて薄い長方形の樹脂の板は姿を消していた。やだっ玄関に置き忘れたのかしら。私は舌打ちをして小銭の入っている財布を出そうともがく。だめだ。小銭を持たなくなって久しかった。買い物はプリペイドカードを使っているしそのカードを今探しているのだから。銀行? ちょっと待って、あれはキャッシュカードをも兼ねていたのよね? 仕方なくトロトロと自転車を転がして目的地にたどり着いた。だがそこでも落胆が待っていた。
「診察券? メジャーカードをお出しください」
それがあれば誰も苦労しなかった。もう出直すしかないのかと諦めかけたときだ。院内に「1427794様、診察室にお入りください」
のアナウンスがかかったのだ。その七桁の数字は記憶に間違いがなければ私の診察券番号のはずなのだが。
「はあい」
と奇妙なトーンで答える何者かがすうっと前を通り過ぎていった。

403文字

ツヅク

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