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八人目の敵 ⑧

 話は前後するが、初めてカードの紛失に気づいた日に歯科に行ったところすでに何者かが私の健保を乗っ取っていた。正確には私の診察券番号が別人に使われていたのだ。
「そんなはずはありませんよ。診察券番号はメジャーカード番号と一体化して廃止されましたから」

 待合室で処方箋を待っているらしい老婆が話しかけてきた。
「あんた知らないのかね、無理もないね。この国にはカードを持たない『予備国民』がいるのさ。0000000から9999999までの一千万人が紛れ込んでいる。何食わぬ顔しているけどこういう場所だと丸わかりだよ」
 するとそばで聞いていた爺さんが
「ほほう、そのドラマならワシも毎週見ておる。荒唐無稽だがヒロインの女優は可愛いからな」
すると老婆が言い返す。
「あれは実話ですよ。あの女だって予備国民という噂でもちきりですよ」
それから高齢者神経科の処方箋を受け取ると出て行った。

 予備国民か。久しぶりに耳にする言葉だった。

404文字

#小説

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