八人目の敵 ⑥

 やっと変な人から解放された。途方もない要求をされるかも知れないという心配も杞憂に終わった。何よりカードが手元に戻り、私の日常が元通りになったのは間違いない。小躍りしたい気分でスイーツの店の脇を通り抜ける。チャージした現金のデータも移行されているはずだ。お茶受けに甘いものを買うか? あれお茶ってさっき飲まなかったっけ? いやコーヒーだ。口の奥に苦い記憶がぶり返しそうになる。頼んだホットに私は手をつけなかった。女が勝手に砂糖を入れた。私がカードに気をとられているまに。私は気づかぬふりで水だけ飲んだ。あのときよからぬ陰謀が進行していたのだろうか。数日後コートのポケットに固いものが当たった。カードだ。私のではない。あらためて見る見知らぬ男の名前をほんの気まぐれで検索してみた。すると地元のニュースが引っかかった。若い男性が変死。○○○男さん25歳が喫茶店の椅子で亡くなっているのが発見された、とある。あの店だ。

406文字

ツヅク

#小説

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