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真夜中の万華鏡 ②

 風薫る日杏を手に入れた。杏だ、否ではなく。熟して赤らんだ実は満月のようだ。ジャム? それともヨーグルトソース。というのも硝子の密閉容器ももらっていたから。何かに使わなければならない訳でもないけれど遊ばせておくのも場所塞ぎだ。買えば数百円のジャムに手間暇時間かけ手づくりして自己満足に浸るのも悪くない。酢と卵で自家製マヨネーズを作ったばかりだ。別の容器に杏ジャムを入れようか。やはり、というかお約束の勘違いでマヨネーズをヨーグルトだと思う家族はどこの世界にもいるものだ。いや家族のせいにするのはやめよう、私自身の間違えだ。マヨネーズの中に満月杏を? それでマヨ中のマンゲツキョウ? 薫る風の中をどこからか声がした。真夜中のキッチン、こっそり一人でワインの栓を開けると、小さな生き物がチョロチョロ動いている。億の金を積んでシェルターに逃げ込んだかつての同胞らだ。そっちはまだ大丈夫か、早く来いよと狭い空間を鏡で広げながら。

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たらはかに様の裏お題と小牧幸助様のお題に参加しています。

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