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八人目の敵 ⑤

 数分後カフェで見知らぬ女と向かい合っていた。彼女の手元にはカードの束がある。それ全部拾ったのですか? とはきかなかった。女は慣れた手つきでシャッフルすると
「好きなのを一枚引いて」
と言った。
私はうわの空だった。あのカードで最大いくら引き出せて何キロ乗車できてこの人に拾われなければどれだけの損害を被っていてそれらの一割を請求されても仕方がないのだろうか。だが彼女が拾得した時点ですでに無価値に帰していたのではないのか。言われるままに束に目を落とすと一枚に既視感のある傷があった。私のカードと同じ。いや、複写物だ。凹みがない。思わず私はそれを避け別のカードを手に取っていた。
「ハズレ!」
ぎくりとするほど甲高いこえで女は叫んで笑い出した。
「それ、あげる」
私が手にしたカードには男の顔写真とどこかの住所と数字の羅列が記されている。結局なにがしたかったんだろう? そしてまた気づいてしまった。店のカップに指紋を残してきたことに。

410文字

#小説

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