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死神はすぐ近くに


最近、伊坂幸太郎さんの『死神の精度』を読んだ。

感想としては、"いる” だ。
面白い作品であることは大前提として、"いる”と思った。

この小説に出てくる"千葉“と名乗る死神は、1週間特定の人物を調査し、死を「可」とするか「否」とするか判定を下す。
人間の姿をして近づいてくるので、普通はまさか死神だなんて考えもしないだろう。

となると、実際に私の周りにも死神が調査に来ているかもしれない!と、何もかも自分に当てはめないと気が済まない、超感情移入野郎の私は思ったのである。

この小説に出てくる"千葉“はミュージックが好きで、CDショップで長いこと試聴機の前に入り浸っていることが多いらしい。

私は現在、田舎の小さなCDショップで働いている。
これがいるのだ。試聴機の前で長時間、いつも前屈ぎみにミュージックを聴いている人が。

容姿が結構特徴的で、長いドレッドヘアを後ろで1つにまとめあげ、ぶら下げた髪は腰にまで届く。歳は60代くらいだろうか…千葉と同じく男性だ。

この人はミュージックに雑食で、最近流行りのシンガーからバンド、歌謡曲まで隈無く聴いている。

この人は死神なのか…?

誰かの調査をしに来たついでに、このCDショップに立ち寄っているのか…?

そんなことを考えていると、不気味な気持ちを超えて、なんだか不思議と誇らしい自分がいるのだ。
この人の正体を知っているのは私だけなんだ、と楽しんでしまっているのである。

変わった人だな。と思っていたお客さんが、この人はミュージックが好きなんだな。なんて思うだけで毎日が少し違って見えたりするものだから不思議だ。

単純な脳みその私に、こればっかりは感謝しよう。

死神は想っているより遥か近くにいるのかもしれない。

『死神の精度』、魅力的な作品に出会えてよかった。
私の毎日を少し刺激的で楽しいものにしてくれた素敵な作品でした。

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