見出し画像

いまなら「ごめんなさい、ちょっと不勉強で」と言ってもいい。2020年には、どこでも補助犬を受け入れられる社会に。

2016年4月1日施行「障害者差別解消法」をテーマに。

ゲスト/橋爪 智子さん(NPO法人 日本補助犬情報センター 専務理事兼事務局長

放送日/2016年4月5日(火)

――『渋谷時事問題部』に今日ゲストでお越しいただいたのは、日本補助犬情報センターの橋爪智子(はしづめ・ともこ)さんです。今日橋爪さんから持ってきていただいた話題は、この4月1日から始まる新しい法律について、ということだそうですね。

橋爪:はい。この渋谷のラジオが開局した4月1日、まさに同じ日に「障害者差別解消法」という法律がスタートしたんですね。こちらについてお伝えしたいなと思ってまいりました。

―― 「障害者差別解消法」というのは、スタートしたばかりの、つまり、新しく施行された法律ということですね。

橋爪:そうなんです。

―― これまでも障害者の方に対するいろいろな支援をするための法律がある中で、なぜ今この「障害者差別解消法」というこの名前の法律が制定されて施行されるようになったのか。背景を教えていただけますか?

橋爪:世界的に見ると、先進国では当たり前に「障害者権利条約」があるんですね。そちらの批准がなかなかできなかったというのが我が国日本の状況です。政府としては権利条約の批准に向けて進んでいましたが、実は当事者の方々から「まだ早い」という声が上がっていました。実際の社会での受け入れの準備ができていないのに条約だけが批准されても、絵に描いた餅になると言われてきました。

―― 今のお話を聞くと、当事者の側が若干こういった法律ができることに対して難色を示していたというふうにも聞こえますね。

橋爪:我が国の社会の現状が、ひとりひとりの心が、まだ準備ができてないよねというところで、少し時間がかかったんですね。でも、時間をかけて準備をしてきましたので、ここから先は、障害者権利条約の批准も進み、本当の意味で先進国の仲間入りができるんじゃないかなと思っています。

―― ちょっとこの話題に入っていく前に、橋爪さんについてちょっとお伺いしたいと思います。橋爪さんちょっと自己紹介をお願いします。

橋爪:NPO 法人日本補助犬情報センターで、専務理事兼事務局長をしております橋爪智子と申します。

―― 普段どんなことをやってらっしゃるんですか?

橋爪:非常にわかりにくい、活動が見えにくい団体なんですけれども。全国に補助犬を訓練している団体はたくさんあるんです。20数団体あるんですけれども、当会は唯一、犬の訓練はしていない情報提供・相談業務をする団体となっています。例えば、全国のユーザーさん、またはまだユーザーではないけれども補助犬との生活を考えているような障害者の方からの相談を受け付けたり、またメディアの取材も受けますし、自治体の方からの相談、一般の方からの質問、ときには大学生の卒論の相談や、小学生の総合学習のご相談にも乗って必要な資料を提供して、情報という面で補助犬の普及啓発をしている団体です。

―― 補助犬という言葉っていうのは、盲導犬と介助犬と聴導犬を総称した言葉ってことなんですか?

橋爪:そうです。実はまだまだ補助犬、なんとなく聞いたことあるけど、「?」っていう方のほうが多いんじゃないかなと思うんです。実は補助犬というのは正式には「身体障害者補助犬」という言葉がありまして、その中に3種類のお仕事をする犬たちがいます。それが1つめ「盲導犬」、2つめ「介助犬」、3つめが「聴導犬」。この3つの総称で「身体障害者補助犬」と言いまして、略して「補助犬」と呼んでいます。

―― 盲導犬が一番知名度が高いですね。

橋爪:最新の数で言いますと現在984頭ですので、一番見かける機会が多いということで、歴史も古いのもありまして皆さん知っているんじゃないかなと思います。

―― いま日本全国で約1000頭。日本全国で、ですよね?

橋爪:はい。日本全国なんです。

―― もうちょっと見かける感じもしますよね。

橋爪:そうですね。多分首都圏には人口も多いのと障害者の方も多いということで、頭数は多いのでそういうイメージあるかもしれませんが、やはり地方に行くとほとんど見かけないというのが現状ですね。

―― ちなみにこの盲導犬・介助犬・聴導犬というのは、犬の種類とかで見分けられたりするんですか? 外から見てこれはなんの犬だと分かるのでしょうか。

橋爪:それがなかなかすぐにはわからないので、必ず補助犬だとわかるような表示をつけなければならないということが法律で定められています。

みなさん盲導犬はハーネスいう道具をつけているのでわかるかと思うんですけれども、あと2つの介助犬と聴導犬に関しては「ケープ」などを体につけていて。そこに介助犬・聴導犬と外から見てわかるように、「ペットとは違うんだよ」「法律で認められた犬なんだよ」ということがわかるように、お洋服着ています。

―― ハーネスをつけている犬は盲導犬だけなんですか? 私、介助犬とか聴導犬も、みんな補助犬はハーネスをつけているのだと思っていました。

橋爪:そうですよね、イメージでそう思われてるかもしれないんですけれども、ハーネスという道具は目が見えない方が犬にハーネスを付けて、それを握って歩くことで、犬の体の方向・高さなどいろいろな情報を受け取っているんですね。なのでハーネスは視覚障害者を安全に誘導する盲導犬の道具、ということになっています。

たまに介助犬の中でも、歩行のバランスを保って歩行介助する犬もいるので、介助犬でもハーネスを付けているんですけれど、その場合にもちゃんと介助犬ということが分かる表示はつけています。

―― この補助犬というテーマに関して、日本補助犬情報センターは、具体的にどんなことをやってらっしゃるんですか?

橋爪:『補助犬のなんでも屋さん』と言うのがぴったりくるな、というのが私たちの意識でもあるし、また当会を利用しておられるみなさんもそのように感じてくださってるんですけれども、本当に困ったという時の相談もあります。

例えば補助犬のユーザーさんがお店を利用しようとしたときに「補助犬はちょっと…うちの店は犬は困ります」と言って断られるという同伴拒否が、まだまだなくならないんですね。

実はこの「身体障害者補助犬法」というのは今から14年前、2002年の5月22日に成立しているんですけれども、14年たった今もまだ補助犬法の存在を知らない方がたくさんいらっしゃるので、「なんだかちょっとよくわかんなくって、犬が来ちゃったから困ります」と断られてしまう、そういう同伴拒否がなくならない現状があるんです。そこで「困った!お店の人にどうやって説明したらいいんだろう」とか、「ちょっと悪質な拒否を受けたけれど、どうやって解決したらいいだろう」というようなご相談を受けることもあります。

―― 今日は法律の話をいろいろすることになるんですが、今の「身体障害者補助犬法」これについてちょっと伺いしておきたいです。どういう法律なんですか? なにが書かれてるんですか?

橋爪: 2002年、今から14年前の5月22日に成立した法律なんですけれども、ここに書いてありますのは「身体障害者補助犬。その中にある三つ、盲導犬・介助犬・聴導犬とともに、ペアで社会参加する障害者の方々を受け入れることを拒んではなりません。補助犬を理由に断ってはいけません」という法律なんですね。実は、障害者権利条約の批准もしていない、もちろん差別解消法もまだ始まっていない2002年当時、障害者のアクセスを認めた法律というのは本当に画期的な法律でした。

そこで一歩、障害者の社会参加が進んだはずなんですけれど、皆さんに知られていなければ全く意味がないものなので、この機会に補助犬法のこともどんどん周知していきたいなと思っております。

―― 補助犬法にはそういうことで拒否をしてはいけないと明記されてるんだと思うんですが、罰則規定とかないんですよね?

橋爪:そこがなかなか難しいところで、「一足飛びに罰則規定つくっちゃえばいいじゃない」という声もあるんですけれども、当事者の皆さんはやはり「罰則があるから仕方なく受け入れるということではなく、本当に自分たちの社会参加の意味を理解して気持ちよく受け入れてほしい」という声がたくさんあるので、正しい理解を周知していくという活動を続けています。

―― こういった法律が14年前に制定されて、そうは言っても同伴拒否とかそういう問題があるっていう中で、今年の4月1日に「障害者差別解消法」が始まると。

これによって障害者に対する差別解消法、これは補助犬のことだけでないと思うんですけど、一体その法律によって世の中どう変わるんでしょうかね?

橋爪:そうですね。まさに障害者の関係者のあいだでは、2020年という目標ができているんです。2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるんですね。

パラリンピックが開催されますから、世界中からたくさんの障害者の方が来られます。補助犬たちもきっとたくさん来てくれると思うんですね。そういったときに「いや、障害者の受け入れ方わかりません」とか、「ちょっと良くわからないのでごめんなさい断ります」なんて恥ずかしいことをしたら、本当に日本という国はなんだ!ということになると思うんですね。なので私たちは、『補助犬の同伴拒否を2020年までにゼロにしたい』という目標を掲げているんですけれども、それを強力に後押ししてくれるのが、今回のこの「障害者差別解消法」だと思っています。

障害者だけじゃなく、すべてのマイノリティーの人々が当たり前に社会参加できる社会。それこそ渋谷区が言っておられるダイバーシティがまさにそれなんですけれども、いろんな人がいて当たり前っていう社会が、本当に日本全体に広まれば私たちの活動もいらなくなると思っているので、そこを目指して活動していきたいと思っています。

―― この「障害者差別解消法」というところで想定されている、特にこういう差別を解消していかなければならないターゲットは、どういうものでしょうか。

橋爪:難しい言葉でやはり法律なので書いてあって、「不当な差別をしてはいけない」とか「合理的配慮をしましょう」みたいに書いてあるので。それを聞くときっと受け入れ社会の人たち「なんだかよくわかんないけど、障害者の人を断っちゃいけないらしい」とか「なにか法律で決まったらしいから、なんだか怖いね」って思われてしまいそうな気がして、とっても私は心配をしています。

実はこの法律、言葉は難しいんですけれど、言っていることはとても当たり前のことを言っているだけで、ここに内閣府のパンフレットを持ってきたんですけれども。

「この法律は、障害のある人もない人も、互いに、その人らしさを認め合いながら、共に生きる社会をつくることを目指しています」

実は、すごく当たり前のことなんですね。私が「障害者差別解消法」で大事なのは、今までは「よくわからない、~だから怖い、~だから受け入れない」としていた社会を、法律があるのでこれをきっかけに「わからない」っていうことをひとこと言ってみてください、っていう法律なんだと思っています。なので「すいません、ちょっと受け入れに慣れていないのでどうしたらいいか教えてください」とか、「どのようにしたらあなたが当たり前にうちの店を使ってもらえますか?」とか、「この施設を利用できますか?」「このサービスを利用できますか?」ということを一言聞いてもらって、それに対して障害者の方が「私の場合はこの段差一段だけ車いすで乗り越えられればお店に入れるので、そのお手伝いをしてもらえますか?」とか、耳の聞こえない方が「自分は耳が聞こえないので、筆談でメニューの内容を教えてもらえますか?」とか。あと視覚障害者の方が「自分ではちょっとトイレに行けないので、その場所まで誘導してもらえますか?」とかを本当にその人にとって必要な、そして過度にならない、難しすぎないサポートを当たり前にできるように、っていうことなんです。そこのコミュニケーションが始められるすごくいいチャンスだなと捉えています。

―― 確かに、障害者のことをよく理解している人であればこう動けば良いんだとわかりますけど、わからない、ということを理由に関わり合いになることを避けてしまう。

橋爪:そうですね。

―― それはいちばん良くないっていうことですかね。もしわからなければ聞いたほうがいいっていうことなんですね。

橋爪:そうなんです。聞いていただいて、まだ始まったばっかりの法律なので「ごめんなさいちょっと不勉強で」って言っていただけると思うんですね。これが3年5年たってから「すいません知りません」はもう許されないので、今年は本当にチャンスだと捉えていただいて「ちょっと不勉強なんで教えてください」っていう気持ちで言っていただければ、障害者の方もそんな無理難題はおっしゃらないです。実はほんの少しのお手伝いで快適に当たり前に利用できる、ということがたくさんありますので、そういうお手伝いしていただいたらいいなと思っています。

―― 「障害者差別解消法」の中には、車いすの方だったり、自閉症とか発達障害とか、すべての人が差別を受けないようにという法律になっていると思いますが、今日は、日本補助犬情報センターの橋爪さんにお越しいただいてるので、実際補助犬を持っている人にどういうふうに接するのがいいかっていうところを是非お伺いしたいな思うんですけど。

橋爪:ではまず本当に基本的なところで「盲導犬」。皆さんがいちばん知ってるであろう盲導犬がどんなお仕事をしてるかってご存知ですか?

―― 盲導犬は…段差があるとか…あと、どうしてわかるのか私自身わからないのが、信号が変わったとかを誘導しているじゃないですか。犬が信号を理解しているのかわからないのですけど、そういう仕事は凄く印象的ですね。

橋爪:そうですね。よくある質問でもありますね。皆さん不思議、すごいな!っていうところだと思うんですけれども。

実は、盲導犬が教えてくれるのはたった三つなんです。

今おっしゃった「段差」、と「障害物」、と「曲がり角」。この三つのことを止まって教えてくれるんですね。なので「ストレート・ゴー」と言って真っ直ぐ歩いている。1個めの角に着いたら止まって教えてくれる。視覚障害者の人が頭の中に地図を描いて歩いていらっしゃるんです。例えば道を出て「駅までゴー」って言ってナビしてくれたらすごく便利で助かるんですけれども、実はそうじゃなくて、その犬が出してくれる「曲がり角だよ」とか、障害物は誘導してくれるので安心して歩けるんですけれども、「段差があるよ」とか、そういう情報を組み合わせて視覚障害者の人が判断して「次の道を右ね」とか「次の道を左ね」という指示をして歩いていらっしゃるんですね。

信号はその段差を教えてくれるのでわかります。音もしているので、なんとなく周りの雰囲気で「信号に着いたな」ということが判断できるのでそこでストップします。

渡るときなんですけれども、実はあれは犬はなんの指示も出してないんですね。障害者の方が周りの音を聞いて、自分と同じ進行方向に人が歩き出す音であったり、逆に自分の前を横切る車の音などを判断して「今は渡っちゃいけない」とか、「今人が同じ方向に向かって歩き出したので、今青になったんだ」っていうことを判断をして、実はすごい勇気を出して動いておられるんですね。

橋爪:なので音声を出さない信号のときの判断というのは、非常に難しい。そして周りに人が少ない・車が少ない交差点でのスタートを切るというのはすごく勇気がいることなので、そういうときに周りの方々が「いま青になりましたよ」とか「まだ赤ですよ」ということをひと声かけていただけると非常に安心できるな、ということがあります。

―― 盲導犬がどこまで補助しているのか、っていうのを知るだけでも違いますね…いつも、声をかけていいタイミングっていうのがわからなくて。差別解消法にもあるんですけど、逆差別みたいになってしまうのを凄く心配して、ここまで手助けするんじゃなくて、ここは多分できるのかな…というのをためらっているうちになかなか手が差し伸べられない・声をかけられない、ということが多いので。盲導犬とかのお仕事の内容を知ることでも、どのタイミングで声がけが必要かすごくわかります。

橋爪:まさにそうだと思います。最近、親子が歩いてて盲導犬ユーザーさんと私が歩いていたりすると、子供の方がよく知っている。総合学習とか福祉学習で勉強してくれているので、子供の方がお母さんとかに教えてくれて「信号は犬は色が見えないのでわからないんだよ。あれはね、目が見えない人が周りの音を聞いて歩いてるんだよ」なんていうことを言ってくれていると、ああこの先の日本、この子たちが大きくなったらとても素敵になるなと感じていました。それが盲導犬ですね。

―― あとやっぱりどうしても渋谷とかはお店も多いし、お店以外にも色んな場所に入りたいという人もいると思うんですけど、そこでいろいろ問題が出てくると言うか。入ることに問題はないんですが、受け入れる方に問題が出てくるわけですよね。

飲食店とか渋谷多いですから。

橋爪:実は2012年に渋谷で盲導犬パレードが行われたんですよ。やはり渋谷区さんすごくダイバーシティの意識が高いので、そういうパレードも行ったりして。発信の拠点にはすごくなるなと感じていて期待もしているんですけれども。

だからと言って渋谷の街のお店がみんな補助犬のこと知っているかというと、多分それは残念ながら違って知らない方がたくさんいらっしゃると思うんですね。なので、まずは補助犬・補助犬法があるっていうこと。そして補助犬には3つの種類の犬がいるということを知っていただきたいなと思うんですけれども。

では、盲導犬のことは今知ってくださっていましたが、介助犬がどんなお仕事するかご存知ですか?

―― 介助犬ですか、前にテレビでリモコンを取ってきてくれるのを見たことがあるんですけど。それは介助犬のお仕事ですか?

橋爪:まさにそうですね。手や足に障害がある肢体不自由者の方の生活をサポートするのが介助犬なので、落としたものを拾ってくれたり、指示したテレビのリモコンを取ってくるとか。あと冷蔵庫に行って中のペットボトルを持ってきて、ちゃんと冷蔵庫を閉める、というところまでお仕事をしてくれますし。本当にひとりひとり肢体不自由者の方に合わせたサポートができるように訓練をされているのが介助犬です。

多くの方が車いす利用者でいらっしゃるので、車いす利用者と介助犬がペアで社会参加をしているイメージになりますね。

―― 介助犬と、最近は義足・義手もすごく発達してるじゃないですか。その共存というか、どちらを選択するかで介助犬を選ばれる方というのは、なにを魅力に思っているんですか? 機械ではなく生きものと一緒に、というところを魅力に思って選ばれてるんですか?

橋爪:深い質問ですね。本当に科学技術の発達によって、介助ロボットなどもすごくたくさん出てきているので、今後はロボットもたくさん活躍するようになっていくと思うんですね。そこで、でもあえて自分はロボットではなくて介助犬とパートナーとして社会参加するんだっていう方は、私は最終的にいなくはならないと思うんです。必ず自分は犬をパートナーとするという人がいると思うんですね。

そこはやはり命ある犬なので、愛情を本当に持ってお仕事をしてくれます。

その喜びだったり、自分が指示をしてできる作業というのは、多分ロボットに操作してやった作業、人にお願いしたものは「ほんとにすいません、ありがとうございます」のすいませんの気持ちなんですね。でも犬に指示をして取ってくれた、「グッド!ありがとう!」ってすごく褒めるんですけれども、その気持ちって人にお願いしたのとは違って「自分ができた!」っていう自尊心を高めてくれる効果もあるんです。そういう意味で命ある犬をお世話をするという、実は大変な負荷もかかってくるんですけれど、それも含めて「自分はこの子(介助犬)と一緒に」って考える方は、介助犬との生活を選ばれると思います。

―― 手段を選ぶことが、その介助を受ける側の心の面にも関わってくるっていうのはすごい興味深いです。

橋爪:自立心であるとか自尊心を発達させてくれる役割が補助犬にはある、というのはもう世界的に言われています。介助犬は実は全国でまだ73頭しかいないというのが現状ですね。で、3つめは聴導犬です。聴導犬はどんなイメージがありますか?

―― 聴導犬ですか、ぜんぜんイメージがわかないです。さっきの信号の音が違うんだとするとぜんぜんわからないです。

橋爪:聴導犬は耳に障害がある、聴覚障害者の日常生活に必要な音を教えてくれる犬なんですね。皆さん普通に耳が聞こえて生活している中で、耳が聞こえない人にとって必要な音というのは実はたくさんあふれているんです。玄関でチャイムが鳴ってもわからない、例えばお料理していてヤカンがピーと湧いていてもわからない、洗濯機おわりましたよ、お風呂湧きましたよ…あと、なにより赤ちゃんの泣き声というのはなかなか機械に変えることができない音なので、そういう生活の中で必要な音が発生したら、聴導犬が足元まで来てくれて、トントンとタッチするんですね。「ああ呼びに来たからどこで音がしているの?」っていうことをサインすると、その音が鳴った音源まで誘導してくれる。なので玄関から人が来たんだとか、赤ちゃん泣いてるんだ、オムツ替えなきゃねとか、いろんな情報を伝えてくれるのが聴導犬の役割です。

なので多分ご存じの盲導犬とテレビで見たことがある介助犬というのは、ラブラドールレトリバーとかゴールデンレトリバーの大きな犬たちが活躍していたと思うんですけれど、聴導犬のお仕事の場合はそういう大きさが必要ないお仕事なので、保健所に捨てられてた中型犬とかすこし小ぶりな子たちを適性を見て選んで訓練をして活躍している、というのが現状で、犬種はさまざです。なので余計にちゃんと聴導犬っていうケープを着ていないとただのペットの散歩と間違いやすいので、聴導犬は必ずつけています。活躍している数は全国でまた58頭しかいないというのが現状なんですね。

聴導犬のもうひとつの大切なお仕事は、聴覚障害がある方っていうのはですね、見た目わからないんです。よく見て補聴器をつけていらっしゃるなとか、手話でしゃべってるなという様子をみて判断することもたまにありますけれども、でもぱっと見わからない障害が聴覚障害なので、実は「見えない障害」と言われているんですね。

その見えない障害を聴導犬を連れているということで、見える障害に変えてくれるというのが聴導犬の大きな役割の一つです。電車などに乗っていて、緊急アナウンスがかかって「前の電車が止まってしまったので、何番ホームの次の電車に乗り換えてください」なんていう案内が入ることありますよね? 聴覚障害者の方はそれに気づくことができないんですね。そんなときに聴導犬を連れていると「この人耳が聞こえないんだ、じゃあこのアナウンス聞こえないんだ」っていうことで筆談で教えてくださった方もたくさんいらっしゃると聞きますので、見てわかる障害に変えてくれる心強いパートナーでもあります。

―― こういう三つの補助犬ですね、盲導犬・介助犬・聴導犬についてのお話をいただきましたけど、端々にその数が50頭とか70頭とか、盲導犬も900。全部合わせて1,100頭ぐらいですかね。この数というのは補助犬を必要としている障害者の方が実際に少ないからなのか、それとも補助犬自体の供給量が少ないからなのか、あるいは社会的にまだまだ補助犬自体を受け入れられていないかなのか…全部がそうなのかもしれないけれど、そういう今のこの現状について橋爪さんどうお考えですか?

橋爪:もう圧倒的に数は足りないというのが現状ではあるんですけれども、じゃあ希望者が殺到していて何年も皆さん待っているか?というとそうでもない。というところになんでだろう?っていう部分がありまして。実は障害者の方もまだ本当に自分が補助犬のユーザーになれるんだろうか?という正しい情報が得られていないというところがあるので。私たちはそういう方向への情報発信もしていかなければいけないなと思っています。なので当事者の方がまず自分の生活を見て、本当に社会参加・自立を考えたときにパートナーとして、補助犬を選ぼうと思えるようなきっかけをたくさん作っていきたいなとも思いますし、そういう情報を得ていただきたいなとも考えています。

また、今おっしゃったように本当にいろんな切り口からの問題があるんですけれども、やはり犬なので、ロボットではないので大量生産ができないんですね。先ほど言った3種類のお仕事をする、それぞれに適性がある子を選んで、無理やり強制的にストレスをかけて訓練をするのではなくて、本当に遊びの延長で「私は人とお仕事するのが大好き!この人に褒められたい!」って思ってお仕事してくれる犬を選んでいます。そこを見る目を厳しくしないと、ほんとに犬の福祉は守られないので。そういう意味で適性を見る目を厳しくするとですね、残念ながら今良くて4割、卒業率が。10頭育てても4割以下。

―― 中退がいるんですか?!

橋爪:そうなんです。中退のほうが多いんですよ。キャリアチェンジと呼んでいますけれども、けっして出来が良い悪いではなくて、たまたま補助犬に向いていなかったね、向いていたねっていうことなんですけれども、やっぱりそれで見ると4割・3割ぐらいの卒業率になっているので。そこで劇的に数が増えないというのもあるのかなと思っています。

―― 先ほどちょっと気になったのがやっぱり、障害者の方自身も補助犬を持つことに対して少し足踏みしてしまう状況がある。先ほど橋爪さんのほうから自尊心とかね、そういうことがあるとかって言われましたけど、その補助犬を持つということと障害者の自立とかっていうことって、どう関係があるのでしょうか。もちろん少し詳しくご説明いただいていいですか?

橋爪:補助犬の効果の一つとしてですね、家族の介護負担が減るということが論文でも出ているんですね。

というのは、今までは家族にお願いしていた作業だったり時間だったり。例えば車いすの方が転倒して起き上がれないと、そのままずっと寝たまま家族の帰るのを何時間もそこで転がったまま待たなければいけないという怖い思いをたくさんしておられるんですけれども。そういうことが1回あると家族も不安で外出はできなくなってしまうんですね。なので別にお手伝いすることはないんだけれども、ずっと見守りの時間家族がいるとか、ヘルパーさんにお願いするとか、そういう時間が発生しているんですけれども、介助犬が来てくれると、なにかあったときに電話機を手元まで持ってきてくれる、電話の子機だったり携帯を探して持ってきてくれるので助けが呼べる、というところで緊急連絡手段の確保という作業もあるんですね。それがあることで、家族も安心して外出・お仕事をしに行けますし、ご自身も安心してひとりで在宅の勤務ができたりということの経済効果も生み出してくれるので。

やはり自分がもうもう一歩踏み出して自立しよう!とか、就労してみよう!とか学校に通ってみよう!とか、まずは本当に最初の外出してみよう!というところだと思うんですけれども、そのきっかけを作ってくれるのが、補助犬たちの力として大きくあるんじゃないかなと考えています。

―― 聞くとすごくいいことな感じがするんですけど、障害者の方がちょっと尻込みされて、例えば変な話し、その補助犬を持つことでお金がかかるんですか?とか、手間がかかるとか、なにかテストが必要だとか…なにかもうちょっと気軽に欲しいですと言えないなにかがあるんですかね。

橋爪:まず、お金に関しては、訓練費用は1頭今300万円とか400万円とか言われるんですけれども。

―― そんなにするんですか。

橋爪:そうなんです、幅もあるんですけれども、その育成費用に関しては本当に皆様のご寄付で成り立っている訓練事業なんですね。そこに関しては、障害者負担のお金は要らないんだけれども、ここから生活が始まったとき、やはり命ある犬を家族の一員として受け入れるので、生活にかかる犬のグッズであったり獣医療費などですね。大体年間で24万円ほどの負担はかかってきます。

―― それはエサ代と、獣医療サービスのことですね。取得に関してはお金は要らない?

橋爪:はい、無償で貸与となっています。

―― 国の制度として無償で貸与されるっていうことで、それで、先ほど寄付金と言われましたね。

橋爪:そうですね、昔から、法律ができる前から皆さんの寄付で社会福祉事業として行ってきたので、一部公的助成と、あとは社会の皆さんの寄付により無償貸与というのがこの分野では行われてきました。

―― 補助犬の数は年々増えているのでしょうか、減っているのでしょうか。

橋爪:微増というイメージですね。どうしても新規が増えたとしても、引退があるんですよ。犬はやはり命があるので、大体10歳11歳ぐらいで元気なうちに引退をさせて、またボランティアのご家庭で、もしくはご自身のお家で余生を過ごすということにしています。それを考えると、引退の数と新規の数でプラスマイナス少しずつの微増が現状です。

あとは、やはりそのおっしゃった「負担」という部分ですね。犬の管理を障害者の方が、自分が責任者となって社会参加します。大体3歳児の子供の保護者のイメージだと思うんですけれども。排泄の管理、時間のタイミングと場所などのコントロールも実際にしていますし。もちろん町に出るといろんな大きい音がしたり、ハプニングも起こります。そういったときのカバーができるようにするのも、必ずユーザーの責任のもとなので。そういったところの負担、荷物ももちろん増えますし、管理という部分での負担を考えたときに、自分でもできるんだろうか?というのがひとつ大きなプレッシャーにはなるのかなと思っています。

―― 実際に持っている人たちからは、やっぱり補助犬を持つことによって生活は結構変わるのでしょうか。

橋爪:本当に行動範囲が広がるというのがいちばんです。ひとりで外出したことがなかった人が、ひとりで出かけられるようになって、そのうち気づいたら何年かたったらひとりで旅行に行ってきました、とか。そういうことをおっしゃっている方もいらっしゃるので、本当に世界が広がるんだな、というは実感として感じています。

―― 補助犬がいないとだれかに連れてってもらわないといけない。やっぱりひとりで行けるって、もちろん補助犬は一緒なんですけど、でも人か犬かっていったら結構大きな違いなんですよね。

橋爪:本当にそうですね。やはり怖いんですよね、最初はひとりで出かけるというのが。なにもないかもしれないけど、なにかあるかもしれないという恐怖で。例えば車いすの人でも街を歩いてて人ごみに行くとぶつかられるそうなんです。そうすると、骨とか筋肉に障害のある方々はすごく怖い思いをされるので、もう恐怖で出られないというのが「犬がいてくれると、人が道をなんとなく開けてくれる気がするんです」ということで外出が進んだ方もいらっしゃるし。

盲導犬ユーザーさんなんかは「この子がいれば道に迷うのも楽しんです」っておっしゃるんですね。ひとりだったら、道に迷ったらもう本当に大変なことで「だれか!だれか!」って言わないといけないところ、「まちがえちゃったね、まあいいかっ」っていうところで安心して歩けるっていうのも、すごく素敵なエピソードだなと思っています。

―― 障害者差別解消法ができたことによって、補助犬を手に入れやすくなることにつながるといいですね。

橋爪:そうですね。ただもう本当にこの差別解消法の中で「補助犬の同伴を拒んではなりません」ということを改めて明記をしてくださっているので、そういう意味では、社会に参加したときに「同伴拒否にあったらどうしよう」っていう不安の解消には繋がって、さらに進んでいくのかな、というのは感じています。

―― やっぱりまわりに迷惑かけるんじゃないかっていうふうなこと心配していろいろ行動っていうのは制約されますけど、逆に受け入れてくれるところが増えれば安心してそういうことも持つことができるでしょうね。

橋爪:そうですね、本当に安心してみんながちゃんと迎えてくれるんだな、社会に参加していいんだな、っていう気持ちを持っていただけるというのがいちばん必要だなと思っています。

―― よく聞かれることと思うんですけど、飲食店とか、そういう「犬をお店の中に入れて大丈夫なんですか?」という質問を受けるのではないかと思います。お店の人とかは、補助犬が来た場合はどうしたらいいですか?

橋爪:なにもしなくて大丈夫なんです。実は、障害者の方を当たり前に受け入れてくださったら、その横(か足下)に若干のスペースは必要ですけれども、ふせておとなしくしているのでご安心ください。トイレの管理もちゃんと決まった時間に決まった場所で、障害者の方が管理しておられますのでまったく問題なく、店の中で排泄してしまうとか、ワンワン吠えちゃうとか、そういうことはないように訓練されてますから安心して受け入れていただいて…ただ、たぶんお店の人が一番気になるのは他のお客様との兼ね合いだと思うんですね。他のお客様が例えば「犬がとっても怖いんです」とか「犬アレルギーがあるんです」という方も、もちろん社会にはいらっしゃるので、私たちそこは絶対に無視してはいけないなと思っています。なのでお隣の席が空いていたら、その席の方にですね「こちらに補助犬のユーザーさんを誘導してよろしいですか?」と、「盲導犬が来ても大丈夫ですか?」とひと声かけていただいて、「いいですよ」って言っていただけたら大丈夫だし、「ごめんなさい私ちょっと犬が怖いので」と言われたら「わかりましたでは別のお席にします」と、そういう配慮、本当にかんたんな配慮だけしていただければまったく問題なく受け入れていただけると思います。

―― これ今の受け答え、多分いまのセリフそのまんまをお店の人のマニュアルっていうか、接客マニュアルに使ったらいいっていう、そういうもんですよね。

橋爪:そうですね、ほんとそう思います。そのひと言だけで全く問題なく受け入れていただけるはずなので。

―― その気遣いまったく補助犬かどうかっていうこととは関係ないんですよね。別な場合でも「ちっちゃい子どもが隣に来ますけどいいですか?」っていうのとまったく変わらない受け答えだなと思ったので。

橋爪:そう思います。お店出るときに、いつもお店の方に言われるのは「よっぽどうるさいお子さまよりも、おとなしくておりこうですね」と言われるので、そこはもう皆さん安心して受け入れていただければありがたいなと思っています。

―― そうですね。ほんとにトレーニングされてますからね。あと補助犬て、ついかわいいから撫でたりしちゃったら、これだめなんですよね確か。

橋爪:そうなんです私も犬が大好きなので、さわりたくなる気持ちはよ~くわかるんですけれども、街で見かける補助犬たちはお仕事中なので、あたたかく見守ってくださいというお願いをしています。

ただですね、じゃあ、補助犬が居ればなんにも困らないわけではないので、障害者の方が困っている様子だったら「なにかお手伝いしましょうか?」とか、「なにかお手伝いできることありますか?」っていう本当にその一言をかけていただけたら嬉しいなと思っています。

―― ちなみにこの渋谷の街はハチ公が駅前にいたりして、すごく犬がシンボルになっている街だと思うんですが、街並みっていうのは補助犬にとって歩きやすいというか、使いやすい街なんですか?それとも改善点は山ほどですか?

橋爪:なるほど。今日も工事現場が多くて、ここにたどり着くまで私でも大変だったんですけれども、そういう意味で言えば、現状は難しいですよね。障害者の方が歩くには。実はこの渋谷のラジオのマークが“ラジ公”ということで、ハチ公にかけてあるんだろうなと思ってたんですけれども。4月1日の翌日の4月2日、ついこの前ですね。ハチ公がブルーになってたのご存知ですか?

―― そうなんですよね。

橋爪:そうなんです!ブルーのTシャツを着て「世界自閉症DAY」のPRをしていたんですけれども、自閉症の方だけじゃなく障害者の方だけじゃなく、もうすべての人がまぜこぜな社会をつくろうというイベントを、『Get in touch(ゲット・イン・タッチ)』さんという団体さんが企画して、本当に渋谷中が青くなってたんです。

そういうところで言っても、渋谷は発信はしていかれる、今後ダイバーシティとして、今生まれ変わろうとしておられるので、生まれ変わったあとの渋谷にとっても期待したいなと感じています。今の渋谷はやはり私たちが歩いてても「エレベーターどこかしら。エスカレーターどこかしら」って大変なので、そういう意味では障害者の方にとっても大変かなって思うんですけれども。今後どんどん障害者の人が集まりやすい街になったらいいな、と感じています。

―― ありがとうございます。

あっという間の1時間でした。またいらしてください。

橋爪:ありがとうございました。

聞き手/嵯峨生馬(サービスグラント代表理事)・片柳那奈子

テキストライター/土谷君枝さん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?