饒舌と沈黙(窪島誠一郎『ぜんぶ、噓』より)

かれは 饒舌なのだが
ふいに押し黙る

かれの饒舌は
そのおそろしい沈黙のなかにある

饒舌は
言葉を死なせるけれども
沈黙は
言葉を甦らせる
かれの沈黙は
じゅうぶんその意図を承知している

だから わたしは
かれに饒舌をもとめない
言い替えや転向のない
沈黙をもとめる
一度死んだ言葉を甦らせる
声にならない声をもとめる

かれの饒舌は
そのおそろしい沈黙のなかにある



窪島誠一郎『ぜんぶ、噓』収録
発行:七月堂

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