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定年教師の独り言Vol.10 「教師のスーツは膝からヘタる」

 新しい年度、クラスがスタートした頃だ。桜の色合いや街の暖かさも相まって、やはり希望に満ちたワクワク感に包まれる。
 毎年この時期に、何かと新調する先生も多いのではないだろうか。鞄、靴、スケジュール帳、文具類…様々あるだろうが、自分は、スーツを新調することが大好きだった。

変な習性とは思うのですが…

 自分の場合、曜日によって着ていくスーツを決めていた。月曜日は、少し重い気持ちにハッパをかけるようにお気に入りの、金曜日は、週休前なので柄の入った華やかめの…といった具合に。当然、それぞれにシャツ、ネクタイ、ベルトに靴、いやいや、下着に靴下まで決めていたのだから、やっぱり少し変なのかも。月曜から金曜までの5着のセットを吊るしておいて、「今日は火曜日だからこれ!」といった調子で着ていく。決めておけば迷わなくて済む、ということではなく、曜日感覚を確認しながら仕事ができることと、「あと○日で金曜スーツだぁ!」という、カウントダウン感覚で自分を鼓舞していたのかもしれない。

 思えば、初任の頃からスーツだった。地方の学校では車通勤がほとんどのため、自宅からポロシャツやジャージなどラフな格好で出勤してくる先生も少なくない。そんな中、頑なにスーツを着てくる若手を先輩方はいじって来たが、自分の中には明確な理由があった。ひとつは、スーツの脱ぎ着でON.OFF切り替えをしようとしていたこと、もうひとつは、例えば消防士に、看護師に、調理師に、それぞれに職種に応じた服装があるように、教師としての制服が欲しかった。だから、体育の時に着替えるのは当然だが、終わればまたスーツに着替え直して授業をしていたくらいだ。

スーツってどれくらい持つもの?

 毎日着る、中・高の制服でさえ3年は持たせないといけないのに、自分の場合はスーツの傷みが早かった。そして、それは決まって「膝から」ヘタっていった。最初は理由が分からず、「ああ、まただ」とか「2パンツにしなきゃ…」ぐらいにしか思っていなかったが、ある時、授業を見ていた同僚から「城田先生って、座って授業するんですね。」と言われて腑に落ちた。そうだ。確かに膝をついて授業している。

尊敬する先輩の教え

 Vol.3で紹介した先輩から、「子どもと目線を合わせる」ということを背中で教えられた。真似しているうちに、いつの間にか、板書も指名も巡視も、膝をついたままというスタイルになっていたようだ。気づいた途端、何だかニヤニヤしてしまった。スーツが膝からヘタるって、勲章じゃん🎖️

今年の春は

 さて、新職で2年めのスタートだ。スーツを新調することのない、2度目の春。膝のヘタりを心配することのない穏やかな春…穏やかだけど、ちょっとだけ寂しいような…

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