HANA-BI

オリジナル短編小説をお届けします。猫成分多め。Blog▶http://shidukumon.com/

End of the year

あと数分で一年が終わる。台所で年越しそばの支度をしていると、後ろからいい感じに酒が回り、おーい今年は紅組が勝ったぞーと叫んでいる主人の声がした。返事をしないでいると、「おーい、聞こえてるのかー、紅組だぞー」とひときわ大きな声をあげた。

「そうですか、報告ありがとうございます」私の返事が聞こえ満足したのか、ふんふんと久しぶりに聞いたのであろう誰かの曲を、鼻歌交じりで歌っている。あまりに音程が外れて

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楽園

お城を造っているつもりだった。永遠に汚されることのない、白く、輝く、私たちだけの城。それは楽園の中にあって、私たちはいつも、はるか彼方にある空に向けて手を伸ばし、笑っていたんだ。けれどある時、誰かが言った。それは残念だけど、砂のお城だったのよ、って。砂のお城は、いとも簡単に壊れてしまうのよ。あなたたちが手を伸ばし掴もうとしていたものは、同じじゃなかったってこと。

カーテンのすき間から入り込んだタ

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チャーの秘密の大冒険

飼い犬のチャーが亡くなり、3日が経った。末娘のように甘えん坊で、家族皆からかわいがれていたチャー。茶色い毛並みに、つぶらな瞳。僕らはかけがえのない存在を失ってしまった。

日曜日、午前9時。寝室から出て、家中チャーがいそうなところに視線を送ってみる。けれどやっぱりどこにも姿はなく、まるで僕の心の中には、ぽっかり穴が空いてしまったようだ。

まだ誰も起きてこないしんと静まりかえったリビングでぼんやり

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Raining

その夜の雨ったらなかった。もし空が一つの大きな器だとしたら、それをひっくり返して中に入った水を全部ぶちまけたような、そんなひどい雨。

今日のためにと新調した真っ白のワンピースも、バーゲンで買ったブランド物のバッグも、わざわざ美容院に行って整えた髪の毛も。私を纏うすべてのものが一緒に泣いているのではないかと思うくらい、その濡れ方は凄まじかった。

ガックリと肩を落とし、全く止む気配のない豪雨の中を

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Light

「えーーーーー、国際結婚!?」エミコが突然大声を出し、隣に座っているカップル客が二人揃って怪訝な顔を向けた。エミコは酒が入ると声が大きくなりすぎるきらいがある。社会人になってもそのクセは全く抜けていないようだ。

周囲への迷惑に気づいていないエミコに代わり、向かいに座っているサナが隣に軽く会釈をし、詫びの姿勢を見せた。

「しーーっ」サナは自分の唇に人差し指を当てエミコに注意するものの、当の本人は

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夏の終わり

歳を重ねただけ、思い出の数は増える。

楽しい思い出もあれば、なかには、許しがたい思い出も。

先日読んでいた記事に、「許せない気持ちを持っている人は病気になる」とあった。真偽のほどはさておき、病は気から。確かに昔から言われている。

でも本当に許しがたい出来事に遭遇した時、どうしたら良いのだろう。病も覚悟の上で、憎むか耐えるかを続けるしかないのだろうか。

日曜日の昼下がり。ヨーコはベランダで、

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