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【ハーブ天然ものがたり】いたどり


スッカンポン


私が生まれ育った札幌の家は、裏手に30坪ほどの空き地があり、誰も来ないので勝手に裏庭と呼んでいました。

幼少期の思い出がたっぷり詰まっている裏庭は、
エノコログサにメヒシバ、カタバミ
オオバコ、いたどり、たんぽぽ、すぎな
蕗によもぎにシロツメクサ
はこべ、つゆくさ、すすきにコンフリー
あじさい、山ぶどう、水仙、月見草
野生のアスパラ(毎年収穫が楽しみだった)など
季節ごとの花や実が楽しめる、クサの宝庫でした。

アスパラを折るときはパキッと音がして
いたどりを折るときはポンッと音がします。
いたどりは竹のように、なかが節のある空洞なので、折る位置や速度によって、ポッ とか、ポゥンとか、パンッとか、いろいろな音が楽しめました。

いたどり photolibrary

折ってすぐに皮をむいて齧りつくと、酸っぱくてクサの香りがして、エグミがいつまでも口のなかにのこります。
大人たちがスッカンポと呼ぶ名の響きがこれまた酸っぱエグイ味にぴったりだったのと、ポンポン音を立ててもぐのが楽しかったのもあり、スッカンポン、スッカンポンといいながら、雪どけた春の裏庭でよく遊んでいました。

いたどりは葉が開いてしまうと固くなり、アクも強くなって空洞部に虫が入っていることがあります。
一年中常備菜として活用する地域もあるそうですが、下処理に手間のかかる食材なので、うちではもっぱら、すっくと杖のように立ち上がる茎だけのころ、葉が広がる前のものを摘んでいました。

大きな鍋で沸騰しない程度にお湯を沸かして、いたどりの茎を湯に浸し、2、3分してから冷水にとって皮をむきます。
一晩塩水につけてアクを抜き、サッと油で炒めたり、酢の物にしたり、味噌汁に入れて戴きます。

裏庭(と勝手に呼んでいた空き地)は、冬は屋根伝いにソリ遊びができる着地広場になり、でっかい雪だるまを作り、雪のお城をこしらえたり、雪の秘密基地をつくったり、自然あそびの楽しみを教えてくれた思い出の場所です。

雪がとけると毎朝、てのり文鳥のためにハコベを採りにいき、夏休みのやっつけ宿題には裏庭のクサを片っぱしから摘んで押し花にしました。
手づくり酵素にはまっていた頃も裏庭のクサたちで、ほぼ材料がそろってしまうのでたいへん重宝しておりました。

もう10数年ほど昔、札幌の生家を手放していよいよ解体するという前に、裏庭に小さな椅子をおいてぼんやりと、クサたちにお別れを告げながら、マインドマップをたくさん作りました。

いたどりから感じられるエッセンス(本性のようなもの)は、いつもおおらかで屈託がなくて「食えるときにたらふく食っとけ」とか「休めるときはしっかり寝ておけ」とか言うような、よくいえば面倒見がよくて頼りになるアニキ、崩していうならズケズケとこちらの領分に入りこんでくる遠慮のないアニキという風で、もう会えなくなると思うと寂しさがひとしお身に染みて、しばらく裏庭に座り込んでいました。

いたどりはとても大きくなる草本ですが、裏庭のいたどりたちは、山ぶどうのツルに絡まれて、ある程度以上は大きくならないように制御されているようにも見えました。
「根はいいやつなんだけどね。武骨で無遠慮、おまけに鈍感ときてるからさぁ、ほっといたらどんだけおがるか(育つか)わかったもんじゃないっしょ、だからゆるっと締め上げて教えてやってんの。他の小さい子たちも、光と水は必要なんだよ、ってさぁ」とは、山ぶどうのマインドマップに記されたことばです。

生家のあった場所も、裏庭も、いまは大きな駐車場になり、コンクリートが敷かれています。
けれど不思議なことに近所にいくことがあると、小さい頃に覚えた裏庭の香りが鼻腔をかすめて、クサたちの声が聞こえるような気がします。
土のなかで、いたどりと山ぶどうが変わらずに、やいのやいのと言いあっているような。


虎の杖


いたどりは漢字で板取、または虎杖と表記します。
タデ科の多年生植物で、道端、荒れ地、土手など、場所を選ばずどこにでも群生し、遠慮なく大地を覆ってしまいます。

北海道で親しんでいたのはオオイタドリの方だと思いますが、本州以西に多く自生するいたどりとの自然交配種もあるようです。いまはイタドリ、またはオオイタドリの名前でサプリメントや、粉末にしたものが市販されています。

若葉をもんで傷口につけると、止血され痛みが和らぐことから「痛み取り」でいたどりになったという通説があります。
虎杖の漢字をあてたほうは軽くて丈夫な茎が杖に使われていたこと、そして茎の虎斑模様でもともと、虎杖こじょうとよばれていたから、だそうです。

北海道の白老町にある虎杖浜こじょうはまは、アイヌ語でクッタルシ(いたどり・群生する・ところ)という意味で、虎杖こじょうの群生する浜 ⇒ 虎杖浜こじょうはまとなりました。
近場に倶多楽湖くったらこがありますが、こちらも「クッタルシにある湖」というアイヌの呼び名が由来になっています。

いたどりの別名スッカンポはご当地訛りが入っていると思います。
一般的にはスカンポ、ほかにもイタズリ、イタンポ、ドングイ、スッポン、ゴンパチ、エッタン、ダンチ、タンジ、ダンジ、スイバ、サイタナなど、地方によってさまざまな呼び名があります。
ニックネームがたくさんあるというのはそれだけ愛されてきた証ですね。

がけ崩れなどで荒れた土地にいち早く根をはるパイオニア・プランツ(先駆植物)で、短期間であっというまに大きくなります。
太く強く、生長の早い地下茎でつながっており、土地を崩れにくくする役割も担っています。

多年生なので冬になると地上部は枯れてしまいますが、根はしっかりと生きており、その根茎を水洗いして天日乾燥させたものは虎杖根こじょうこんという生薬になっています。
東洋医学では、いたどりの根は抗炎症作用があり、血流をよくして、傷や、月経不順、関節痛などによいとされています。

江戸時代の農書『親民鑑月集』に、春野菜として、いたどりが記されています。
若芽は天ぷらにしたり、葉を乾燥させてハーブ水にしたりもできますが、ほうれん草と同じシュウ酸をたくさん含んでおり、シュウ酸は現代医学では、尿路結石の主な原因とされています。
シュウ酸は水溶性なので茹でるとかなり抜けるとは思いますが、やはりいたどりは生命力の強い野草なので念には念を入れて、アク抜きしっかりしてから戴くのがよいのかな、と。

今回いたどりの記事を書くにあたって、はじめて知ったのですが、戦時中はタバコの葉が不足していたので、いたどりの葉をタバコに混ぜていたそうです。
インドや東南アジアでは、イタドリの葉を巻いたものを葉巻の代用としているといいます。


「竹虎」から「いたどり猫」に?


いたどりの原産は東アジアで、ヨーロッパやアメリカに帰化した種は、強害草に認定されています。

イタドリは世界の侵略的外来種ワースト100 (IUCN, 2000) 選定種の1つでもある。イタドリは生長が早く日本からヨーロッパに導入されて土壌侵食の防止や、家畜の餌に利用された。19世紀には、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトによって観賞用としてヨーロッパへ持ち込まれて外来種となり、特にイギリスでは旺盛な繁殖力から在来種の植生を脅かすうえ、コンクリートやアスファルトを突き破るなどの被害が出ている。

ウィキペディアーイタドリ

過去記事【ハーブ天然ものがたり】やどりぎ にも書きましたが、いたどりは西洋文明の礎となった石の建造物をことごとく侵入して壊してしまう、ということで、除草に大変苦労しているようです。

東アジア原産の虎杖いたどりは、西洋文明の石文化にまもられてきた秘儀に踏みこみ、新時代のひな型として、あたらしい神話を生み出すハーブのひとつ、(あるいは切り込み隊長)なのかもしれません。

やどりぎが光の神をつらぬき、地上界と天界をつなぐ梯子になったように、いたどりは鉱物界をつらぬき、地に堕ちた光と影の膠着状態に、うごきを生みだそうとしているのではないかな、と。

【ハーブ天然ものがたり】やどりぎ


そもそも杖となる植物にはフシギな力があると感じています。
有史以前より植物の杖は人類にとっての3番目の手足となり、ともに歩んできてくれたので、先人の思い出が大気中に詰まっているせいかもしれませんし、「植物の杖」は、わたしたちが使い方を忘れてしまっただけで、ほんとうに魔道具として使えるものなのかもしれません。

小さい頃はとくに(つまり今でもw)、「ちょうどいい感じ」の植物の棒を見つけるといち早く手に取り、手にした瞬間から高揚感に満たされ、ブンブンしたり地面にいたずら書きをしたり、もっているだけでパワーが増強したような気分になって、足取りも軽くウキウキしてしまいます。

杖は魔法使いの魔法を発動させ
魔女の空飛ぶ道具にもなり
教皇は権杖、王様は王笏おうしゃくを受け継ぎ
日本では山伏の祖型とされる山人が「杖で地面を突く」仕草によって、里に豊作をもたらすよう土地の精霊たちに伝えたといいます。

杖はそれ、そのものが普遍的な象徴として受継がれることもあり、
葡萄の記事に綴りましたギリシャ神話、ディオニュソス神の杖テュルソスは「オオウイキョウにブドウのツルや葉がまきつき、先端が松かさ」でひとつの型となります。古代ギリシャではツルを茂らせる植物は、ディオニュソスの力が現れていると考えられていました。

ウィキペディア-『バッコスの勝利』(1882年)

ケーリュイオンまたはカドケウスの杖は、聖なる力を伝える者が携える、呪力をもったヘルメスの杖と伝えられています。
平和、医術、医学、医師のほか、商業や発明、雄弁、旅、錬金術などを象徴するといわれ、杖にからむ蛇の螺旋らせんは生命力や権威、超自然的な力を象徴すると伝承されてきました。

ウィキペディア-カドケウスの杖

名医アスクレピオスの蛇(クスシヘビ)が巻きついた杖は医療・医術の象徴として世界的に用いられるシンボルマークとなりました。
世界保健機関(WHO)、米国医師会(AMA)、薬局の看板、救急車の車体など、広く活用されています。

ウィキペディア-アスクレピオスの杖


杖はワンド(wand)として、伝説や物語に登場することが多いです。
タロットカードでは杯(cup)、硬貨(pentacle)、剣(sword)と並んで4つのエレメントのひとつに数えられています。
ワンドはトランプでクラブ(クローバ)になり、植物の杖は神話元型の一部として、人類の集合無意識に刻印され、杖をもつだけで高揚するのは、その力や神秘を心の深いところでちゃんと覚えているから、だと感じます。

オーケストラの指揮者はタクトをふり、音の魔法を生み出します。
お遍路さんの金剛杖こんごうじょう、お杖さんには、弘法大師(空海)のエッセンスが浸されて、ともに旅するような心持ちになるのではないかと思います。

虎杖いたどりが杖として利用されていたのなら、竹のような節をもついたどりは竹の小型版で、ワンドがトランプのクラブに細分化されたように、虎エッセンスは猫さまに分化され、「竹に虎」ならぬ「いたどり猫」として、あまねく地球環境になじみ、行き渡り、旺盛な生命力によって繫栄しているのかもしれません。
その繁栄ぶりはあたかも、地球全体に魔法のじゅうたんを敷きつめて、上位存在とのつながりを断ち切らないように工夫する、竹虎作戦なのかもしれません。

☆☆☆

お読みくださりありがとうございました。
こちらにもぜひ遊びにきてください。
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